長いこと日本映画業界は男性の監督がほとんどだったが、最近では女性監督の活躍が目立ってきている。
『ゆれる』の西川美和、『かもめ食堂』の荻上直子、『殯の森』の河瀬直美、『ジャーマン+雨』の横浜聡子。
そんな注目の女性監督達の中から今週の早稲田松竹は井口奈己監督特集です。

2001年のPFFアワードで企画賞を受賞した同名8mm作品を35mmでセルフリメイクした『犬猫』と、
第41回文藝賞受賞と第132回芥川賞候補作にも選ばれた
山崎ナオコーラのデビュー作の映画化『人のセックスを笑うな』の二本立てです。

犬猫
(2004年 日本 94分)
pic 2008年10月4日から10月10日まで上映 ■監督・脚本・編集 井口奈己
■出演 榎本加奈子/藤田陽子/忍成修吾/小池栄子/西島秀俊

舞台は東京近郊の一軒家。ヨーコ(榎本加奈子)は留学するアベチャン(小池栄子)の留守を預かることになっていた。そこへ古田(西島秀俊)の家から飛び出してきたスズ(藤田陽子)が転がり込んでくる。スズとヨーコは幼馴染なのだが、それほど仲が良くはない。理由は二人の性格が全く違うこと、それだけならまだしも好きな男のタイプが同じという決定的な問題も抱えている。そんな犬猿の、いや犬猫の仲の二人が同じ屋根の下で共同生活を始めることに…。

ぴあフィルムフェスティバル2001で企画賞を受賞し話題を呼んだ8o版『犬猫』を、井口奈己監督が自身の手でリメイク。誰もが感じる「大切な瞬間」を、丹念に積み重ねた小さな傑作が誕生した。

身近にいる犬や猫のように、普段の生活の一コマを切りとって綴った『犬猫』。殴り合いや号泣はないけれど、“ヨーコとスズ”というふたりの女の子の微妙かつ絶妙な関係の変化を、日常の風景としてさりげなく描いている。

特別な出来事がなくっても人生はつづき、ささやかなドラマと小さな幸せが溢れている―――爪を切るとき、酔いつぶれて眠るとき、シンプルで素朴なケーキを食べるとき…。誰かが隣にいることで、「特別」ではない「大切な瞬間」が生まれる。

『犬猫』は女の子に限らず、いつもそばにいる友人との、何気ないけれど実はいとおしい「大切な瞬間」に気付かせてくれる映画なのだ。


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人のセックスを笑うな
(2007年 日本 137分)
pic 2008年10月4日から10月10日まで上映 ■監督・脚本 井口奈己
■脚本 本調有香
■原作 山崎ナオコーラ 『人のセックスを笑うな』

■出演 永作博美/松山ケンイチ/蒼井優/忍成修吾/市川美和子/あがた森魚/温水洋一

恋に落ちる。世界が変わる。
19歳のボクと39歳のユリのいかれた冬の物語。

hs1冬の早朝。美術学校に通う磯貝みるめ(松山ケンイチ)、堂本(忍成修吾)、えんちゃん(蒼井優)は軽トラックで山道を走っていた。トンネルの手前で、終電を逃し歩く女を見かけ、バス停まで送る三人。

それから数日。学校に新任のリトグラフ講師猪熊ユリ(永作博美)がやってくる。ユリはみるめ達がトラックに乗せた彼女だった。

何だかユリが気になるみるめはリトグラフの教室に足繁く通いだす。ある日、みるめは絵のモデルを頼まれ彼女のアトリエを訪れる。そこでユリと関係を持つことに。年上の彼女に夢中になりはしゃぐみるめを、顔を曇らせて睨むえんちゃん。そんなえんちゃんを優しく見つめる堂本。だが、実はユリには年上の旦那がいることが判明し…

「永作さんを、今まで見たことのないファムファタールに、そんな永作さんに振り回される松山さんを、史上最強にかわいく撮る!が使命でした。」──監督 井口奈己

自由奔放な美術講師ユリを演じたのは、『好きだ、』『腑抜けども、悲しみの愛をみせろ』で、その透明感ある美しさと演技力で、話題作のオファーが殺到する永作博美。新たなヒロイン像を作り上げ、主演を果たした。

そして今最も注目の松山ケンイチが、初の本格的な恋愛映画に挑戦。あどけなさと大人っぽさが同居するキュートなラブシーンは初々しく、思わず応援したくなる。


『犬猫』を観た時に最初に感じたことは、なんて映画の教科書みたいな作品なんだと思った。
教科書というと何か印象が悪い感じがするかもしれないが、小津から脈々と続く映画の理想の形に思えた。

自然な会話と間、空気感、リズム感。そして固定したカメラで切り取られる日常の風景、二股の分かれ道、坂道、階段、土手等等。
どこかで見たことあるようでなかったこんな作品。日常を切り取ったように見せてはいるが、全てがたぶん監督の演出。
それがとても恐ろしい。 そんな恐ろしいまでに計算された演出は『人のセックスを笑うな』では一段とその鋭さを増している。
また、両作に共通して言えることだが、女性が描いた女性は男性が描いた女性よりも遥かに魅力的だ。
女性を魅力的に撮ることに関してはやっぱり男は逆立ちしても女性には敵わないな。
この先の映画界を担って行くのはこんな女性監督達かもしれない…。

(にも)


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