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好きだ、
(2006年 日本 104分)
2006年12月2日から12月8日まで上映 ■監督・脚本・撮影・編集 石川寛
■出演 宮崎あおい/西島秀俊/永作博美/瑛太/加瀬亮

■オフィシャル・サイト http://www.su-ki-da.jp/

たくさん映画を観ていると、ごくごくたまに、宝物にしてそっとしまっておきたくなるような映画に出会うことがあります。いい映画に出会うと普通は人に薦めたくなるけれど、これは多くの人に観てほしいような、でも自分だけのものにして大事にしまっておきたいような。そんな気持ちになりました。切なくて、とても静かな映画です。

前半は17歳のユウ(宮崎あおい)とヨースケ(瑛太)のお話を、ユウの視点で描きます。お互い好きなくせに、そのことを口に出せない二人。肝心なことが言えないだけじゃなく、それっぽい話すらできなくて、ただ毎日どうでもいい話を繰り返す。

pic後半は17年後に再会した34歳のユウ(永作博美)とヨースケ(西島秀俊)を、今度はヨースケの視点から描きます。途中の17年間の空白は、一切語られません。17歳も34歳も、どちらも描かれるのは「つきあっている二人」ではなく、それよりも手前の関係。二人でいるときの空気や、そこに流れている時間。探りを入れるように相手の出方を窺ったり、無意識に自分をガードせずにはいられない距離感。

この手の映画を観ていつも思うのですが、「間(ま)」の多い映画はずるい。観ている側がその「間」に入り込んで、勝手に感情移入してしまうから。風に雲が流れる空の映像を見ているだけで、どうしようもなく切なくなってしまう。そして映画に流れる時間を共有してしまったとき、客観でなくて主観で映画を感じていることに気づいてしまったとき、その映画が自分にとってなんだか特別なものになっていることに気付くのです。

pic石川寛監督(『tokyo.sora』)は、出演者ごとに異なるキーワードを撮影前に渡し、あとは自由に喋らせ、演じさせました。だからユウとヨースケの間に流れるぎこちなさは本物です。17歳のユウを演じる宮崎あおいは、34歳の自分がどうなるのかを知らない(34歳を演じるのが永作であることすら知らされていませんでした)。もちろんヨースケが何を考えてるのかもわからない。相手の様子を窺いながら、自分の頭と心から吐き出す言葉には嘘が無い。だからユウの姉がギターのメロディを口ずさんだ時、私たちはユウと同じくらい、本当に悲しくなってしまうのです。

picMTVのMovie Awardsにはベスト・キス賞なんてものがありますが、個人的にはこの17歳のキスシーンを挙げたいところ。映画を観てハラハラドキドキするのは、パニック映画とかアクション映画とか、何かが爆発したり崩壊したりする系だけかと思っていました。まさかこんな静かな映画でやられちゃうとは!下手なサスペンスを観るよりはるかにドキドキしましたよ。

(mana)



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初恋
(2006年 日本 114分)
pic 2006年12月2日から12月8日まで上映 ■監督 塙幸成
■原作 中原みすず
■脚本 塙幸成/市川はるみ/鴨川哲郎

■出演 宮崎あおい/小出恵介/宮崎将/小嶺麗奈/柄本佑

■オフィシャル・サイト http://www.hatsu-koi.jp/

「私は三億円事件の実行犯だと思う」
主人公と同名の作家・中原みすずによって告白体で書かれ、話題となった小説『初恋』。原作を読んだ宮崎あおいが10代最期の出演を強く希望し、映画化された話題作。

pic学生運動が活発だった1960年代後半。高校生のみすず(宮崎あおい)は孤独の中にいた。みすずの母親は随分前に兄(宮崎将)を連れて家を出ていったきり。叔母家族に育てられたみすずには、学校にも家にも居場所がなかった。 ある放課後、みすずは新宿の街を歩いていた。手には、数日前に突然訪ねてきた兄が残していったマッチが握られている。マッチと同名のジャス喫茶“B”に入ると、兄とその仲間達がいた。 いつしか、みすずも仲間に加わり彼らと共に過ごす時間が多くなる。そして、仲間内でも異彩を放つ東大生の岸(小出恵介)に対して、初めての恋心を抱くようになるのだった。そんなある日、岸はみすずに驚くべき相談を持ちかける。権力に反抗する手段としての三億円強奪計画。「お前が必要だ」という岸の言葉に、みすずの気持ちは固まった。

日本犯罪史に残る三億円事件。様々な犯人説があり幾度も映像化されてきたが、18歳の女子高生が犯人だったとする今作の設定はあまりにも特異で話題性充分。作中には犯行準備から実行の顛末まで描かれているが、いわゆる「犯罪もの・サスペンス」を期待すると肩透かしを食うだろう。 「初恋」というタイトル通り、この映画は「恋愛もの・青春もの」としての魅力が主となっているように思える。

pic三億円事件。それは、誰かに必要とされるという喜びと、期待に応えようとする想い。自分の存在意義を賭けた決断と行動だ。その意味で、この映画における最大のサスペンスは三億円事件という共同作業を軸とした、みすずと岸のストイックなまでの恋心と複雑な心模様だと言えるだろう。

宮崎あおいは、『害虫』『EUREKA』等でも見せた影のある少女像で十八番の演技。ストイックなだけの少女であれば、他にも該当する役者はいるかもしれないが、時折みせる笑顔が清涼感とともに切なさを運んでくるのはこの人ならでは。バイクの操縦を始めとして、身体能力の高い演技も見せており、宮崎あおいの魅力が満載の作品。

(Sicky)



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