NARA:奈良美智との旅の記録
TRAVELING WITH YOSHITOMO NARA
(2007年 日本 93分)
2007年10月20日から10月26日まで上映 ■監督 坂部康二
■アニメーション STUDIO4℃(『鉄コン筋クリート』
■ナレーター 宮崎あおい(『好きだ、』『初恋』

■出演 奈良美智/graf

奈良美智(なら よしとも)。日本を代表する現代美術アーティストの一人。彼の名前を知らなくても、彼の絵なら誰もが一度は見たことがあるはずだろう。孤独で寂しそうな、それでいて心の底に怒りや悲しみを感じさせるつり目の少女の絵、本の装丁やCDのジャケットなどその作品は様々な場所で眼にとまる。

graf(グラフ)。家具、照明、グラフィック、プロダクトデザイン、アートから食に至るまで「暮らしのための構造」を考えてものづくりをするクリエイティブユニット。

2006年夏、その夢は実現した。奈良美智の故郷、青森県弘前市の古いレンガ倉庫で。

本作は奈良美智、豊嶋秀樹を筆頭にしたgraf、そして13,000人にも及ぶボランティアスタッフ達が手作りで作り上げた展覧会『AtoZ』。そこに至るまでの旅の過程を記録したものであり、同時にアーティスト奈良美智の素顔が垣間見える映画である。

奈良美智の作品を初めて観たのは2001年の横浜での展覧会『I DO'NT MIND, IF YOU FORGET ME.』だった。

彼の作品の女の子は不機嫌そうなしかめっ面でこちらを睨んでいた。そしてその裏に見え隠れする、恐怖、不安、寂しさ、反抗心。「私の寂しさは誰にも理解できない」そう言われている感じがして、絵の内に広がる孤独にどこか懐かしさと寂しさを覚えた。絶対的な孤独。深い孤独。その孤独を少しでもわかるが故に誰もが彼女に近づくことはできない。

奈良美智が支持される理由は作品の可愛さだけでは決して無いだろう。人間誰もが持つ孤独感が彼の作品からは滲み出ていて、それに私達が共鳴してしまうことが最も支持される理由ではないだろうか?

しかし、そんな作品達に変化が起こり始めた。その変化を映画では追っていく。

孤独の力は偉大だ。孤独は何かを生み出すことができる。孤独は何かを育てることができる。ただしこの作業はとても寂しく辛い。でも、孤独を知る人が人の優しさを知った時、違う何かが生まれる。

どちらの作品が芸術として優れているかはわからないが、変化できるから人間はおもしろいのだと思う。(縞馬)



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スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー
SKETCHES OF FRANK GEHRY
(2005年 ドイツ/アメリカ 84分)
pic 2007年10月20日から10月26日まで上映 ■監督・撮影 シドニー・ポラック
■出演 フランク・ゲーリー/シドニー・ポラック/デニス・ホッパー/ジュリアン・シュナーベル/ボブ・ゲルドフ

■オフィシャルサイト http://sketch.cinemacafe.net/

フランク・ゲーリー。 日本人にはあまり馴染みのないこの名前、初めて耳にする人も多いのではないか。

彼は、“世界で最も忙しい建築家”と呼ばれ、78歳の今なお、現役建築家として世界的に活躍し続ける人物である。本作は、これまで決して創作過程を見せることのなかった彼の創造の秘密と素顔に迫ろうとする、ドキュメンタリー作品である。

大学院で建築学を学び、建築家のもとで働いた後、36歳で小さな事務所を立ち上げたゲーリー。当初、一般向け家具のデザインを手がけていたゲーリーは、なかなか成功に恵まれなかった。そして1979年、ゲーリーは自らデザインした自宅、「ゲーリー自邸」を手がける。既存の建物に増築を重ねたこの住宅は、波形トタン板や金網などチープな材料を用いた、“住宅”という既成概念に捕らわれない建築であった。まるで工事現場のようなこの家に、近隣住民は「閑静な住宅街にそぐわない」、と眉をひそめたと言う。だが、強烈な個性を放つこの建築物は当時の建築界に新風を吹き込み、1980年代後半に現れる“脱構築主義”の先駆けとなったのである。

ひとたび彼の製作過程を目にすると、建築に全く精通しない人間でさえも、たちまち目を奪われてしまう。それは時に“即興的”とも言われるが、ふとした思いつきや、過去の記憶などが発想の元になっているのだと言う。「小さい頃から工作が好きだった」と言うゲーリー。ラフに書かれたスケッチをもとに、厚紙を切る。それをセロハンテープでランダムに切り貼りし、幾度もの修正を重ね細部まで手を施してゆく。ペン、ハサミ、紙…彼の手はこれらの物たちを自由自在に操る。まるで、彼の手の中に、何かの生き物が生まれ動いているような、そんな光景だ。そうして出来上がった模型は、コンピューターにスキャニングされ、具体的な数値となり少しずつ実体に近づいてゆく。そして、最初のスケッチが、実寸大となりついに我々の目の前にどーんと現れる…圧巻である。

一見ラフなように見えて実は緻密な作業過程。かといってゲーリーは、机にへばりつき、せっせと、根詰めて作業している感じでもない。その姿は、あくまでもエレガントだ。だから、見ている我々は、何だかとても気持ちが良い。

監督は、『追憶』『トッツィー』『愛と哀しみの果て』など数々の名作を世に送り、アカデミー賞各賞を受賞している巨匠、シドニー・ポラック。監督歴40年、既にベテランと呼ぶに相応しい彼だが、意外にもドキュメンタリー映画は初メガホンとなる。そして彼は、ゲーリーの長年の友人でもある。撮影には、2000年から約5年もの歳月が費やされたが、この二人の巨匠の、互いを尊重し尊敬しあう大人の男同士の関係性もまた、本作の見どころの一つだ。

「才能とは液化して消えていかない病気だ」。
ひらめくこと。
想像すること。
人間誰もが普段何気なく行っていることだが、それをしっかり受け止め、認識し、映画であれ建築物であれ何かに具現化してゆく力こそが、才能、というものなのかも知れない。

建築にさほど興味を持てない人も、“アート”と呼ばれるものにいまいち距離を置いてしまう人も、この映画の中で78歳のゲーリーが見せる強い姿勢、投げかけてくる強い言葉に、はっとさせられ、そして奮い立たされるに違いない。

たとえ人から非難されることがあろうとも、守りに入らず、新しい可能性に次々と挑戦し続ける姿。

戦う人間は、格好良い。

(はま)




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