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キム・ギドク

監督■キム・ギドク

1960年生まれ。山間部の村で育ち、小学校を卒業すると同時に働きに出た。厳しい軍隊生活を経てから奉仕活動につき、1987年から翌年まで夜間の神学校にも通っている。

90年に単身パリに渡り、貧しさの中で絵画を学び93年に帰国。正規に学んだ経験もないまま、韓国映画振興公社主催の脚本家コンテストに入賞し、シナリオ作家として映画業界に飛び込んだ。96年に低予算映画『鰐』で監督デビュー。

デビュー当時から、キム・ギドク流の独特なスタイル―ショッキングな映像や雰囲気ある登場人物、独自のメッセージが込められ製作された。発表と同時に批評家たちの眉をひそめさせ、また大きな話題となる作品と次々と生み出していく。

04年、『サマリア』でベルリン国際映画祭監督賞、『うつせみ』でヴェネチア国際映画祭監督賞受賞と、一年のうちに世界三大映画賞の二冠を達成。最新作『嘆きのピエタ』では、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した。

filmography

・鰐〜ワニ〜(1996)
・ワイルド・アニマル(1997)
・悪い女(1998)<未>
・魚と寝る女(2000)
・リアル・フィクション(2000)
・悪い男(2001)
・コースト・ガード(2001)<未>
・受取人不明(2001)<未>
春夏秋冬そして春(2003)
サマリア(2004)
・うつせみ(2004)
(2005)
・絶対の愛(2006)
ブレス(2007)
・悲夢(ヒム)(2008)
・アリラン(2011)
嘆きのピエタ(2012)


今週は「嘆きのピエタ」公開記念、キム・ギドク監督特集。
『サマリア』『うつせみ』の上映。
どちらの作品も社会を逸脱した独特の世界が作り出されてゆき、
観る者を不思議な、神聖な領域へと導いてゆく。

例えばそれは、抜け殻の世界を彷徨うように青年テソクと人妻ソナが
空き家を巡ってゆく『うつせみ』の世界。
誰もいない家を、ふたりで掃除をし、食事をし、写真を撮り、微笑み合う。
彼らの間に言葉はなくとも、虚ろな空間は満たされ
世界から切り離されたふたりだけの静謐な時間の漂いに、愛が結晶している。

『サマリア』では、「バスミルダ」「サマリア」「ソナタ」と、
三つのそれぞれの視線で描かれた物語が、
友人への、母への、父への、異性への、娘への、様々な愛の形を映し出してゆく。
チェヨンの見せる微笑み、ヨジンの罪滅ぼし、その娘を観た父ヨンギの行動。

現実のコードを易々と突破したそれらの倒錯的な振る舞いに、
その愛の頑な一面に、思わず言葉を失ってしまう。

キム・ギドクが描き続けるのは、現実を突き破るまでの硬度を持ち、
世の中が歪めば歪むほど光を放つ、極めて透明で純粋な、愛。
その愛は、暴力的で、寡黙で、儚く、そして無上な美しさを湛え、観るものを捉えて放さない。

(ミスター


サマリア
SAMARITAN GIRL
(2004年 韓国 95分 R-15
2013年5月25日から5月31日まで上映
■監督・脚本・編集・美術監督 キム・ギドク
■撮影 ソン・サンジェ
■音楽 パク・ジウン
■照明 イ・ソンファン

■出演 クァク・チミン/ソ・ミンジョン/イ・オル/クォン・ヒョンミン/オ・ヨン

■2004年ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞

この痛みを抱いて生きる。

picヨジンは父と二人暮しの女子高生。彼女の親友はチェヨン。いつからだろうか援助交際をしている。ヨジンはそれを嫌いながらも、チェヨンのために見張り役として行動をともにすることに。そんな矢先ヨジンが見張りを怠った隙に警官の取り締まりが…その手から逃れようとチェヨンは窓から飛び降りてしまう。いつもどおりの笑顔を浮かべたままチェヨンは死に、ヨジンはひとつの重大な決心をする。「チェヨン、あなたの罪滅ぼしのためにお金を返してあげる」そして、そんな自分の行動を父親が見守っていることに、ヨジンはまだ気付いていない…。

ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞
ふたりの少女の憧れにも似た友情が導く、美しく残酷な物語。

pic 女性なら誰でも覚えがあるであろう、少女の頃の親友との関係。まるで世界にふたりしか存在しないかのように、常に行動をともにし、まだ異性への恋も知らずに、憧れに似た感情をお互いに抱きあう。ヨジンとチェヨンもそんな信頼関係以外は、すべてがふわふわと頼りない十代の日々を過ごしていた。

しかし、親友チェヨンの死から始まったちいさな掛け違いは、残酷にも少女ヨジンを成長と罪の償いという名の旅へと誘う。純粋だからこそ果てしなく傷つき、それでもすべてを受け入れて、たくましく未来を目指そうとするヨジン。この旅の果てにあるのは、絶望なのだろうか? それとも希望? 全く予想のつかない物語の展開に翻弄されるうち、いつしか観る者はヨジンの旅の同行者となり、まだ誰も到達したことのない結末を心に焼き付けることになるだろう。


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うつせみ
3-IRON
(2004年 韓国/日本 88分)
2013年5月25日から5月31日まで上映
■監督・製作・脚本 キム・ギドク
■撮影 チャン・ソンベク
■音楽 スルヴィアン

■出演 イ・スンヨン/ジェヒ/クォン・ヒョコ/チュ・ジンモ/チェ・ジョンホ

■2004年ヴェネチア国際映画祭監督賞・国際映画批評家同盟賞・世界カソリック協会名誉賞・ヤング獅子賞/2005年サン・セバスチャン国際映画祭国際映画批評家同盟賞受賞

私たちは永遠に、よりそう。

picミステリアスな青年テソク。彼はバイクで街を駆け巡りながら、留守宅に侵入しては、住人が戻るまでのつかの間を過ごすことを日常としている。歯を磨き、シャワーを浴び、冷蔵庫を開け、ソファでテレビを見て、洗濯をして…あたかもその家の主であるかのようにくつろぎ、記念撮影をする。

ある日のこと、豪奢な朝鮮家屋に忍び込んだテソクは、その家の孤独な人妻ソナと運命的に出会う。ソナのすがるような眼差しが忘れられず、再び彼女の家に忍び込んだテソクは、ゴルフクラブでソナの夫にボールを叩き付け、ソナを連れて家を出た。互いの心の痛みや弧独を分かち合うふたりは、ついに恋に落ちる…。

はかなく美しい夢のような時間。
空虚な心がひたひたと満たされてゆく。

2004年2月にベルリン国際映画祭『サマリア』、同年9月にヴェネチア国際映画祭『うつせみ』と、続けてふたつの最優秀監督賞を獲得。世界中の脚光を浴び、最新作『嘆きのピエタ』(6月、Bunkamuraル・シネマ他にて公開)ではヴェネチア国際映画祭金獅子賞を韓国映画で初めて受賞する等、快挙が止まらないキム・ギドク。

惜しみない賞賛と名声を欲しいままにする天才ギドクが2004年に手がけた本作『うつせみ』は、まだ誰も知らない愛の物語で新たな地平を切り拓いた純愛劇。この世は夢か現か、幻か…。ひとは誰しも孤独を抱え、ぽっかりした虚空を埋める誰かを待ち続ける。言葉を交わさずに愛をはぐくみ、現実と夢の境界を超えていくかのような男女の姿を映し出す。



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