歳を取ることにはいつだって絶望感がつきまとう。
誕生日が楽しみじゃなくなったのはいつからだっただろう。
これから先、私たちはどんどん歳を取り続ける。
この後ずっと続く、(たぶん)長い人生の中では、
今がいちばん若い。

今週はドキュメンタリーの二本立てです。
名づけて 「今が、青春のとき。」
高校生活最後の一年間に密着し、若者の「リアル」のすべてを切り取った、『アメリカン・ティーン』。
平均年齢80歳のロックンロール・コーラス隊の活動を記録した『ヤング@ハート』。

自分の人生に踏み出していこうとするティーンエイジャーと
自分の人生に幕を下ろす日を客観的に受け入れているシニア。
若者と老人とで、それぞれの人生に対する思いは異なれど、
併せて観ると、まるで一冊の本の始まりと終わりのように感じられます。

若い時は、自分が死ぬことなんてこれっぽっちも考えない。
先の人生は、とてもとても、とても長いものに感じられる。
でもだから、未来のことが何も分からなくて、不安になる。
これからの人生に待ち構えているのは、大きな夢と、
それときっと(ささやかな)失敗。

反対に歳を取るということは、未来がもうあまり残されていないということ。
でも続く人生が、あとどれだけ短いとしても、
挑戦と努力に値する価値はある。

彼らは、老いも若きも、同じものを求めている。
情熱とか、夢中になれるもの。人生に悔いを残さずに、生きる術。

真実の物語は笑えて、泣けて、素直に感動してしまう。
今週の二本立ては自信を持って、あらゆる世代にお薦めします。
あなたがいま何歳であったとしても、ぜひ観ていただきたい二本です。
どの年代にとっても、そしてどちらの映画も、見た後に今の人生を肯定したくなる作品です。

アメリカン・ティーン
AMERICAN TEEN
(2008年 アメリカ 101分 ビスタ・SRD) PG-12

2009年3月28日から4月3日まで上映 ■監督 ナネット・バースタイン
■出演 ハンナ・ベイリー/コーリン・クレメンズ/ジェイク・トゥッシー/メーガン・クリズマティック/ミッチ・ラインハルト

■サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門最優秀監督賞

■オフィシャルサイト http://www.americanteen.jp/

高校最後の年。5人の17歳たちの記録、今を生きる10代のリアル。

インディアナ州ワルシャワ。どこにでもいるような典型的な高校生たち。メインキャストは5人、バスケ部のスター、才色兼備の女王様、みんなにもてるイケメン王子、はみ出し者のアート系女子、誰からも相手にされないオタク。完全なヒエラルキーの中で毎日を過ごす彼らにとって、学校は社会の縮図である。

pic監督のナネット・バースタイン(『くたばれ!ハリウッド』)は約1年間、この高校生たちと生活を共にし、連日カメラを回し続けた。大きな事件は何も起こらない。描かれるのはありきたりの日常。なのに、フィクションよりもドラマティック。そして、ドキュメンタリーよりもリアル!

アート系ハンナは、この街を抜け出せさえすれば、自分の才能を武器にして、すべてが変わると信じてる。おたくのジェイクは、彼女を作ることがこの灰色の毎日を抜け出すための唯一の手段だと信じている。バスケ部スターのコリンにとって、大学に行くためには奨学金を得るしか道はない。みんなを牛耳ってるメーガンは、お金持ちで美人で頭が良くて、周りからは羨ましがられているけど、本当は誰にも心を開けない。ああ、なんだろう、このもやもやした感じは。

おかしなことに、どの登場人物にもなにかしら共感できる要素がある。嫉妬、恋愛、友情、挫折、両親との衝突。そう、このころ、私たちには自分の周りに起きることだけが、世界のすべてだった。そうか、17歳ってやつはこんなにも時代も世界をも越えて、普遍なものだったのだ。

今も昔も変わらない、普遍的な”若者のすべて”。

pic個性や才能、ルックスは違えど、悩みを抱えながら生きているのは誰もが同じ。彼らは、そして振り返れば自分だって、すごく傲慢で、すごく純粋だった。でも不完全だからこそ、彼らは魅力に満ちていて、国境の壁も、年代の壁も越えて、私の心を打つ。悩んで傷ついて、でも自分の道を切り開いていく、このごく普通の高校生たちに、かつての自分を重ね合わせてしまう人は多いだろう。

演技では決して出すことのできない、等身大の瑞々しさ。リアル同年代の方はもちろん、大人になった人にとっても、「懐かしさ」だけでは終わらない、さわやかな一本。


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ヤング@ハート
YOUNG@HEART
(2007年 イギリス 108分 ビスタ・SRD)

2009年3月28日から4月3日まで上映 ■監督 スティーヴン・ウォーカー
■出演 アイリーン・ホール(92歳)/スタン・ゴールドマン(76歳)/ジョー・ベノア(83歳)/フレッド・ニトル(80歳)/ボブ・シルマン(54歳・指揮者)

■2007年ロサンゼルス映画祭国際映画部門観客賞/ローズドール(金のバラ賞)/2008年アトランタ映画祭観客賞

■オフィシャルサイト http://youngatheart.jp/

平均年齢80歳!世界一ロックなコーラスグループの真実の物語

マサチューセッツ州の小さな町ノーサンプトン。1982年、「ヤング@ハート」と呼ばれる世界一いかしたロックンロール・コーラス隊が誕生した。

pic年齢75歳から93歳まで(撮影当時)の元気なシニアの一団は世界中で絶賛をあびてきた。ほとんどの人が、隠居して日々を過ごす中、この老人たちはステージに上がり、ソニック・ユース、ザ・クラッシュ、ボブ・ディラン、トーキング・ヘッズなどのロックナンバーを大声で歌いあげるのだ。

彼らがコンサートに向けて猛練習を重ねる様子を、6週間以上にわたり追っていく。はたして、おじいちゃんとおばあちゃんに何が起こるのか?

老人たちがラモーンズやソニック・ユースの歌詞やリズムに悪戦苦闘するさまは実にほほえましい。それを指揮するボブ・シルマンの愛情に満ちた厳しさと言ったら!

pic老人たちとロックナンバーが出会う。自分がよく知っていると思っていた曲たちが、完全に別物として新しい命が吹き込まれる。ひとつの楽曲を作り上げていく過程は、目を見張るほどの新鮮さに満ちている。この味は、彼らにしか出せないものだ。

彼らは人生の最期を迎えるその日まで、「歌を歌っていたい」と口をそろえて言う。そして、自分が死んでしまった後でも、仲間たちに望む。「悲しまないで、どうか歌を歌って」と。彼らの目は一様にキラキラしていて、精力と魅力にあふれている。彼らは現実からも、いずれそう遠くない未来に自分達を訪れる死に対してすらも、目を背けることなく、堂々としている。

これを見た後じゃあ、「もう年だー」とか「疲れた」なんてセリフ、軽々しく口にできなくなる。ただ思うのは、生きるって素晴らしい!これから訪れる老いも、死も、そんなに悪いものじゃありません。きっと。彼らを見ていると、そんな気にさせられるのです。

(mana)