ガス・ヴァン・サント二本立て

ガス・ヴァン・サント以上に多才で繊細な感覚の持ち主はそういない。

何より現代ロード・ムービー作家の代表格として、
ヴィム・ヴェンダース、ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サントの3人は間違いなく挙げられるだろう。

pic今回はその中でも、ガス・ヴァン・サントの原点と現在を同時に観ることのできる貴重な機会だ。

今まで幻の傑作として日本未公開だった「ポートランド三部作」の第1作目『マラノーチェ』(2作目は『ドラッグストア・カウボーイ』3作目は『マイ・プライベート・アイダホ』)。

この映画は1985年に発表されたもので、ビートジェネレーション、ポートランド出身の詩人ウォルト・カーティスが1977年に著した自伝的同名小説にガスが惚れ込み映画化した、良くも悪くも以降のガスの作品と見比べると、荒々しくも刹那な空気が初期衝動性を醸し出している作品である。

男と男の恋愛?つながりという面では『マイ・プライベート・アイダホ』に近いものがあるが、構造的には若干異なる。ストーリー展開は比較的緩やかな分、唐突に車で色んな場所を駆け巡る疾走感はその分増すという緩急の構造だ。その疾走感の中にこそ初期衝動性かつビートジェネレーションへの影響を垣間見ることができる。

picそして、ラストにかけてはストーリーもドラマチックな展開を見せ、車はなくとも再び疾走感が湧き出るという作品だ。

皆様には是非、この疾走感を味わって欲しい。何度浴びても色褪せない風を。

もう1本は前作『パラノイドパーク』

今やガス・ヴァン・サントの代表作となった『エレファント』以降の空気感はそのままに、カメラマンとしてクリストファー・ドイル(『花様年華』をはじめとして、ウォン・カーウァイ監督作品に欠かせない名カメラマンとして有名)を迎えることで新たな瑞々しさを獲得することに成功。2人が起こす科学反応が16歳の少年の心の光と闇、そしてその間に起こる揺らぎを見事に引き出している。

最新作『ミルク』(主演:ショーン・ペン)の公開は今回の特集と日を同じく、4月18日から。今回のガス・ヴァン・サント2本立ては事前チェック必至の機会である。

車の旅から心の旅へ、内から外へ、外から内へ、
自由自在のロードムービーを展開するガス・ヴァン・サントから目が離せない!!!

(アセイ)

このページのトップへ

ガス・ヴァン・サント

1952年生まれ。NYでデザインを学んだのち、CM製作の仕事に従事。一時期ロジャー・コーマンの元で助手を務めた後、85年『マラノーチェ』で監督デビュー。

同性愛やジャンキー、カート・コバーンの最後の数日、コロンバイン高校銃乱射事件など、常に尖った題材を扱うのが特徴。音楽性やキャリアへの助言においても、若手俳優らに大きく慕われる。

活動のフィールドは映画だけに留まらず、写真や絵画にも造詣が深く、また作家としても活動している。インディペンデント映画を語る上でははずせない監督である。

89年『ドラッグストア・カウボーイ』でNYとLAの批評家協会賞受賞、97年の『グッド・ウィル・ハンティング』でアカデミー賞9部門にノミネート、03年『エレファント』でカンヌ国際映画祭パルムドールと監督賞をダブル受賞。続く『ラストデイズ』(05年)、『パラノイドパーク』(07年)でもパルムドールにノミネート。ショーン・ペン主演の最新作『ミルク』は今年GW公開。

フィルモグラフィ

マラノーチェ(1985)
・ドラッグストア・カウボーイ(1989)
・マイ・プライベート・アイダホ(1991)
・カウガール・ブルース(1993)
・誘う女(1995)
・グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち(1997)
・サイコ(1998)
・小説家を見つけたら(2000)
・GERRY ジェリー(2002)
エレファント(2003)
ラストデイズ(2005)
パリ、ジュテーム(2006)
・それぞれのシネマ〜カンヌ国際映画祭60回記念製作映画〜(2007)
パラノイドパーク(2007)
・ミルク(2008)


マラノーチェ
MALA NOCHE
(1985年 アメリカ 78分 スタンダード・MONO)

2009年4月18日から4月24日まで上映 ■監督・製作・脚本・編集 ガス・ヴァン・サント
■原作・脚本 ウォルト・カーティス

■出演 ティム・ストリーター/ダグ・クーヤティ/サム・ダウニー/ナイラ・マッカーシー/レイ・モンジュ/ロバート・リー・ピッチリン

■2006年カンヌ国際映画祭監督週間オープニング上映作品/1988年トリノゲイ&レズビアン国際映画祭グランプリ/1987年ロサンジェルス映画批評家協会賞最優秀インデペンデント作品賞

■オフィシャルサイト http://www.wisepolicy.com/malanoche/

ポートランドの渇いた路上に、俺たちの“最悪の夜―マラノーチェ―”が舞い降りる。

malanoche街角の小さな食料品店に働くウォルトの前に、突然現れたジョニー。ジョニーは、メキシコ系の不法移民で、その日暮らしのストリートチルドレン。

その野生児のような荒削りの美しさに、ウォルトは忽ち虜になってしまう。しかし、2人は共通の言語を持ち合わせていない。

ウォルトの募る想いとは裏腹に、ジョニーは彼の心をするりとすり抜けてしまう。そんな折、ジョニーとウォルトに最悪な夜が訪れる…。

処女作品に作家のすべてがある──ガス・ヴァン・サントの原点

ガス・ヴァン・サント監督が私財を注ぎ込んで完成させ、1985年に発表しながらも、その後永らく人目に触れる事なく封印されてきた伝説の長編デビュー作。『ミッドナイト・カウボーイ』のようなストリート・ウェスタン感、『第三の男』の光の質感、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のようなインディペンデント性を併せ持つ幻の名作!

malanoche『ドラッグストア・カウボーイ』『マイ・プライベト・アイダホ』に先じて製作され、“ポートランド三部作”の最初の一本としても知られている。

世界の映画祭で上映され、批評家から絶賛されながらも、幻のカルト映画として語り継がれていた名作が、ニュープリントで蘇る!


このページのトップへ line

パラノイドパーク
PARANOID PARK
(2007年 アメリカ・フランス 85分 スタンダード・SR)PG-12

2009年4月18日から4月24日まで上映■監督・脚本・編集 ガス・ヴァン・サント
■原作 ブレイク・ネルソン
■撮影 クリストファー・ドイル/レイン・キャシー・リー

■出演 ゲイブ・ネヴァンス/テイラー・モンセン/ジェイク・ミラー/ローレン・マッキニー/スコット・グリーン/ダン・リウ

■2007年カンヌ国際映画祭60周年記念特別賞

■オフィシャルサイト http://paranoidpark.jp/index.html

世界の流れに逆らわなければ、いつもと同じ日常が、 いつも通りに動いていく。僕の心は誰にもみえない。

paranoidpark16歳のアレックスは始めたばかりのスケートボードに夢中。今日もお気に入りのスケボーパーク「パラノイドパーク」へ出かけていく。

しかし、アレックスはふとした偶然から、誤ってひとりの男性を死なせてしまう。目撃者は誰もいない。おびえ、悩み、不安に駆られながらも、まるで何事もなかったかのように日常生活を送っていく。

突然降りかかった大きな出来事によって、アレックスはあることに気づく。「僕らのちっぽけな問題とは別の次元のもっと大きな何かが世の中にはたくさんある」。そして、自分と世界との距離をひとつひとつ埋めるように手紙に書き綴っていく――。

『エレファント』『ジェリー』『ラストデイズ』を経てガス・ヴァ・サント監督の次なる挑戦は、「被写体に近づくこと」。

エレファント』『ジェリー』『ラストデイズ』の3部作でカンヌ国際映画祭パルムドールをはじめ、数々の賞に輝き、名実ともに世界中から賞賛を浴びてやまないガス・ヴァン・サント。

paranoidparkヴァン・サントは、自分の犯した“罪と罰”に思い悩み、“大人と子供”の真ん中で現実との距離感がうまくつかめない少年の揺れ動く気持ちを、繊細に、そして温かさをもちながら描き出す。3部作では一貫した被写体との距離を保ってきたが、本作では被写体に歩み寄ることで、新たな世界観をつくりだした。

橋の上を流れる車の列。滑走するスケードボード。学校の廊下でおしゃべりに興じている子どもたち。スローモーションとクイックモーション。35mmとスーパー8。映りこむ光と影。『2046』『花様年華』のクリストファー・ドイルを撮影監督として起用したことで、一層斬新で研ぎ澄まされた映像となった。


このページのトップへ