誰の心の中にも、「好き」とかのレベルを軽く超越しちゃうほどの
「自分にとって特別」な映画って確実に何本か存在していて、
その中から3本選べと言われたら、まず間違いなく私は『ゴーストワールド』を挙げる。

私が初めて『ゴーストワールド』を観たのは、封切りの恵比寿ガーデンシネマではなく、
この早稲田松竹で、2002年のことだった。

併映はジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』。
どちらもとても気に入って、なんだかとても得した気持ちになって帰ったのを、
今でも鮮明に覚えている。

今週の映画は『JUNO』と『ゴーストワールド』。
ティーンエイジガールの青春映画二本立て。

ゴーストワールド
GHOST WORLD
(2001年 アメリカ 111分)
2008年11月1日から11月7日まで上映 ■監督・脚色 テリー・ツワイゴフ
■オリジナルコミック・脚色 ダニエル・クロウズ
■出演 ソーラ・バーチ/スカーレット・ヨハンソン/スティーヴ・ブシェミ/ブラッド・レンフロ

■オフィシャルサイト http://gw.asmik-ace.co.jp/

イーニドとレベッカ、親友、ハイティーン、思春期、変化のない日常、近づいてくる大人の世界、そしてふたりの異なった未来、本当の世界、彼女たちの世界、遠いところ、ゴーストワールド、ふたりの女の子の物語──

ティーンエイジャーの青春映画、なんて言っちゃうのは簡単だけど、その能天気な言葉とは裏腹に、無邪気でも明るくも、お気楽でもなく。どちらもきゃいきゃいしてない感じのマイペースな女の子が主人公。

片や妊娠という大問題が発生し(『JUNO』)、片や自分が行動しなければ何も起きない日常の中で、行動に移せず焦燥感だけをじりじりと募らせている(『ゴーストワールド』)。

『JUNO』は「16歳の妊娠」というモチーフばかりがセンセーショナルにとらえられがちだけど、私はジュノとイーニドという、似ているようでまったく正反対な女の子たちに心を奪われる。映画や音楽に自分のこだわりがあって、流行に流されたりせず、周りからは「変ってる」と思われがち。だが一見共通しているようで、二人はその中身において決定的に異なっている。

『ゴーストワールド』を初めて見た時は、あまりにもソーラ・バーチ演じるイーニドに昔の自分が重なってしまい、痛すぎてとても見ちゃいられない、でも見ずにもいられない、みたいな状態だった。「あーこのダメさ加減は私以外の何物でもない!この映画って私の映画か!?」と本気で思ったぐらい。

しかしあたりを見回してみると、このイーニドに自分、もしくは過去の自分を見出す人のなんと多いことだろう。(個人調べ)

たいていの人にとって、10代なんて救いようがないほど先の見通しがなく、未来は真っ暗で、自分で行動するよりも周りの文句たれてるほうが楽で、何の根拠もないのに自分が特別に思えて、周りを見下している時代だ。少なくても私はそうだった。だから、ジュノがとんでもなくまぶしく見えた。

行動の基準が「最悪よりはマシ」なイーニドに対し、ジュノはもっと判りやすく、シンプルで、ストレート。

もう爪の生えてる赤ちゃんを殺せないから中絶はキャンセル、でも産んでも育てられるわけないから「完璧な夫婦」のもとへ養子に出す。ジュノは好きなものは好きだと認めるし、人を批判したり、けなしたりすることにわざわざ労力をかけたりしない。

ジュノは自分の周りの人間たちが寄せてくれる愛情もごく当たり前に、自然に受け入れられる。イーニドにはそれは難しい。 ジュノのまっすぐな感じを見てると、「素直さ」というのは素質というか才能なんじゃないかとさえ思う。

JUNO/ジュノ
JUNO(2007年 アメリカ 96分)
pic 2008年11月1日から11月7日まで上映 ■監督 ジェイソン・ライトマン
■脚本 ディアブロ・コディ
■出演 エレン・ペイジ/マイケル・セラ/ジェニファー・ガーナー/ジェイソン・ベイトマン/オリヴィア・サールビー

■オフィシャルサイト http://www.juno-movie.jp/

流行のメイクやファッションには興味ゼロで、1977年のパンクロックとB級映画が好きという、ちょっと変わった女の子、ジュノ。16歳。ある日、興味本位でした1度きりのセックスで、妊娠してしまう。一途な愛と家族の絆。ほろ苦いハッピーエンドが、あったかくハートに響く人間ドラマの傑作がここに誕生!

世の中のたいていのものってダサすぎるし、そういうのに折り合いつけるなんて死んでも嫌、とか思ってた若かりし頃に比べたら、今の自分は格段と生きやすい。でもそれって成長できたっていうよりは、むしろいろんなことに妥協して、あきらめがつくようになったってことかなと思ったりする。それが大人になるってことなんだろうとは思うけど、ちょっと失敗してるような気もしてしまう。

まぁそんなことはさておき。両方とも音楽がよい。『ゴーストワールド』は一度耳にしたら忘れられなくなる「Jaan Pehechaan Ho」や、「Devil Got My Woman」など、ガレージ、ブルース、モンド、80’s等、ジャンルも時代もバラバラだけど、なぜかまとまりと一貫性を感じる曲のセレクト。『JUNO』はキミヤ・ドーソンにメテオ・メシナ、ベルセバにザ・キンクスにソニック・ユースにベルベット・アンダーグラウンドに…。『ゴーストワールド』が「変にヤミツキ」なサウンドに対し、『JUNO』は「普通にいい!」選曲の数々。

2人(レベッカも入れて3人か?)の女の子の個性と音楽、『ゴーストワールド』のもやもやするゆるさ、『JUNO』の小気味よいコメディ。願わくば、かつて私がここ(早稲田松竹)で観た時のように、「あぁいい二本立てじゃん」と思ってくれる方がおりますように。

(mana)


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