ュージシャン、演出家、脚本家、映画監督…どれもこれもに違う魅力があり、そうでありながらケラリーノ・サンドロヴィッチ色が全面に溢れている。まず名前からしておかしい。その才能に惹かれた人は数多く、多方面に大きな影響力を与えた。

「1980」と「グミ・チョコレート・パイン」はどちらも80年代を題材にした映画だけれど、ちょっと違う。「1980」は1980年の12月の世界で完結し、「グミ・チョコレート・パイン」は2007年から80年代を回想している。現在から遡るというのは原作には無かった試みで最初は少し驚いたが、今現在の視点から見る事で共感出来るところも多々あり、今を生きるための希望のようなものを感じた。

そして「1980」もケラ監督本人が
「79年から82年くらいまで、80年前後を擁護したい。ひどい時代だったと抹消されたくない」
と語るように、この映画を観ると分かる。もう80年代は何にも無かったなんて言われたくない。テクノポップだし、YMOもいるし、プラスチックスもいるし。ナゴムだってあるし、アイドルだって輝いていた!

ゴムレコード。ケラ率いる有頂天(曲もいいけど何より声が好き)、筋肉少女帯(ナゴムを知ったきっかけ。好きすぎてもうなんか)、電気グルーヴの前身である人生(代表曲のひとつに、きんたまが右に寄っちゃった〜♪オールナーイロング…など)を筆頭に、たま、ばちかぶり(田口トモロヲが在籍していた)、カーネーション、カステラ、空手バカボン、マサ子さん、死ね死ね団、まだまだある。

そのいずれもが、誰にも似ていない音楽と表現で私たちを釘付けにした。このようにバンド名を見ているだけでも面白い。ちなみにナゴムギャルなんて言葉まで誕生。あの頃自分が18歳ぐらいだったら!…もっと色々楽しかった気もする。

だか物凄いエネルギーを彼等は表現として昇華していた。時には開いた口がふさがらないほどのばかばかしさで。最高にくだらない!それが最高のかっこよさになりうるのだと、初めて知った。

そんなナゴムを代表するトリオが時を経て映画を作るなんて!生きていれば面白い事もあるものだ。嬉しい…。そしてグミ・チョコレート・パインの原作に名前がちょこっと登場する、ここ早稲田松竹で上映できるということも、限りなく嬉しい。

80年代については人それぞれ違った見方があると思うけれど、79年生まれの私にとって80年代とはちょっと大人で、キラキラと輝くもので、手を伸ばしても届かない憧れの時代(美甘子みたいな存在かも)。もうとっくに過ぎてしまった時代だけれどやっぱり今も、少し遠くにいて暴れているような気がする。


1980
(2003年 日本 123分)
pic 2008年5月17日〜5月23日まで上映
■監督・脚本 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
■イラスト 蛭子能収

■出演 ともさかりえ/犬山イヌコ/蒼井優/串田和美/みのすけ/山崎一/田口トモロヲ/及川光博


羽柴三姉妹はそれぞれ問題を抱えていた。姉のカナエ(犬山イヌコ)は夫とケンカし実家に帰省中、元アイドルの次女のレイコ(ともさかりえ)は異常に惚れっぽい性質で、それを面白おかしく暴露本として出版しようとする元マネージャーに頭を悩ます。三女のリカ(蒼井優)は映画研究会OBのボーイフレンドのために自主映画のヒロインを演じているがヌードシーンがあるので悩んでいた。1980年も残りあとわずか。三人は無事年を越せるのか?

…悩める人をもうひとり忘れていた。テクノポップに心酔する衣笠だ。リカに思いを寄せるテクノカットの彼は女子には気持ち悪いと言われる可哀想な男。だが、テクノポリス東京で夢を見ているのだ。頑張れ衣笠!出番はそんなに多くはないけど重要な役どころ。男子の共感ポイントかもしれない。全体的に笑わせつつも時々ぽろりと言う台詞にどきり、最後はちょっと切ない。1980年当時を再現した、こだわり抜いた小道具にも注目。


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グミ・チョコレート・パイン
(2007年 日本 127分)
pic 2008年5月17日〜5月23日まで上映
■監督・脚本 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
■原作 大槻ケンヂ(『グミ・チョコレート・パイン』)
■テーマ曲 電気グルーヴ
■出演 石田卓也/黒川芽以/柄本佑/金井勇太/森岡龍/マギー/甲本雅裕/大森南朋

銀杏BOYZのボーカルは「あいつらが簡単にやっちまう30回のセックスよりも、グミ・チョコレート・パインを青春時代に1回読むってことの方が僕にとっては価値があるのさ!」と叫んだ。全く同感です。

自分は特別な何かがあるのだと思いつつ、クラスでは存在すら気にかけてもらえない。そんなジレンマを抱えていたあの頃。こんな思いをしているのは自分だけかと思っていた。グミ・チョコレート・パインの中にはそんな思いでもがいている人ばっかりだった。嬉しかった。

「これが本当の青春だ!」何度このコピーに騙されて来ただろう。嘘ばっかつくな!それが青春なら自分の青春ってなんだったんだよー…そんな思いを抱えていた人はこの映画を観るべきだ。

〈リンナ〉

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