グラインドハウスとは?

“グラインドハウス”とは、60〜70年代のアメリカに数多く存在した、低予算のB級映画ばかりを2〜3本立てで上映する劇場のこと。スラッシャー、カー・アクションやマカロニ・ウエスタン、香港カンフー映画などがいっしょくたに、生々しい予告編と共に上映されていた。

少年時代、“グラインドハウス”にどっぷりと入り浸り、こうした映画たちを夢中になって見まくっていたのがタランティーノとロドリゲス。この二人が、そんなコアで志の高い(!)映画ファンたちの憩いの場、グラインドハウスでの体験を独自の方法で再現した、エキセントリックなイベント・ムービーがこの作品『グラインドハウス』!

もともと二人が考えたのは、タランティーノによる『デス・プルーフ』とロドリゲスによる『プラネット・テラー』を二本立てにし、さらにフェイクの予告編を挟んだ『グラインドハウス』という1つの作品として世に送り出すというアイディアだった。アメリカではこのスタイルで公開されたが、ト−タル3時間の長尺なうえ、2本立てという興行形態自体が馴染みが薄いことから、日本も含むアメリカ国外ではそれぞれを単独作品として編集し直した『デス・プルーフ in グラインドハウス』、『プラネット・テラー in グラインドハウス』として公開された。

今回早稲田松竹で上映するのはこの「本来あるべき姿」だったアメリカ公開バージョン。都内では一部の映画館のみで期間限定で公開されたレアものです!さらに今回はグラインドハウスを再現すべく、もう一本サービス!『ゾンビ ディレクターズカット版』までつけちゃいました。これを逃したら絶対後悔しますよ!

「B級映画をやりましょう!」思えば何度私が番組編成担当に懇願したことか。
その願いが遂に叶った。
よりにもよってこの2本立て!嬉しすぎる。

ゾンビ ディレクターズカット完全版
DAWN OF THE DEAD
(1978年 アメリカ 139分)
pic 2008年7月5日から7月11日まで上映 ■監督・脚本 ジョージ・A・ロメロ
■音楽 ゴブリン/ダリオ・アルジェント
■出演 デヴィッド・エムゲ/ケン・フォリー/スコット・H・ライニガー/ゲイラン・ロス

ゾンビ映画は数あれど、やはり本家は違う。この作品が未だにゾンビ映画の最高作と評するファンも多いという。ゾンビもロメロもこの映画で一躍有名になった。

1975年に終わったベトナム戦争。大量の兵器と、大勢の兵士、多額の金をつぎ込んだこの戦争は多くの命を奪った。それこそ地獄が溢れ返るほどに。そして、ベトナム戦争後の不安を忘れようとモノを消費するだけの大量消費社会。物質的な裕福さだけを求め世界を変革していくアメリカ。1978年、『ゾンビ』公開の年は正にベトナム戦争から3年後の大量消費社会。そして、その象徴たる大型ショッピングモールが舞台となる。

人類最後の楽園、ショッピングモールに逃げ込む主人公達。誰もが一度は夢見る、「デパートが自分の家」状態。やりたい放題、好き放題。しかし外には生きていたころの習慣からショッピングモールに集うゾンビの群。そして束の間の平穏はバイクの轟音と共に破られる。ゾンビではなく同じ人間の手によって。たぶん人類が滅びるのは怪物や宇宙人や隕石や天災やその他諸々の理由ではなく、私達人間の業のためだろう…。

この映画は時代の不安を的確に表現し、また社会への皮肉と、人間の愚かさを見事に描いたことで他のホラー映画の追随を許さなかった。

…という建前も大事なのですが、やはり魅力はトム・サヴィーニの特殊効果や特殊メイク。青白い顔のゾンビメイク!飛び散る臓物!千切れる手足!前作の何倍にもなった血糊!人体破壊の博覧会のような残酷描写はこの後のホラー映画に多大な影響を与えた。CG全盛期の今だからこそ必見の価値あり!


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さて、もう一作『グラインドハウス U.S.A.バージョン』は日本では2館のみの公開、
それもたったの一週間の限定上映だったということもあり、見逃した方も多いのでは?

グラインドハウス USAバージョン
GLINDHOUSE
(2007年 アメリカ 191分)
pic 2008年7月5日から7月11日まで上映 ■監督 ロバート・ロドリゲス「プラネット・テラー」&「マチェーテ」/クエンティン・タランティーノ「デス・プルーフ」/ロブ・ゾンビ「ナチ親衛隊の狼女」/エドガー・ライト「Don't/ドント」/イーライ・ロス「感謝祭」

■脚本・撮影 ロバート・ロドリゲス「プラネット・テラー」&「マチェーテ」/クエンティン・タランティーノ「デス・プルーフ」

■出演 ローズ・マッゴーワン/カート・ラッセル/クエンティン・タランティーノ/ブルース・ウィリス/ロザリオ・ドーソン/ゾーイ・ベル/フレディ・ロドリゲス/シドニー・ターミア・ポワチエ/ジョシュ・ブローリン/ニコラス・ケイジ/ティム・ロビンス

また『デス・プルーフ』と『プラネット・テラー』を見たことがある人も、本作は必見の作品である。両作品とも時間は短くなってしまっているが、それは元々2本立て+フェイクトレーラーでの構成だったものを、強引に時間を足して1本づつ上映したため、言っては何ですがちょっと間延びした感じになってしまっていた。何でも足せば良いってもんではない、引くことで作品が良くなることもある。完全版はむしろこの『U.S.A.バージョン』の方であると言っても過言ではない。

今更説明することでもないがロバート・ロドリゲスとクエンティン・タランティーノと言えば誰もが知ってる親友コンビ。伝説の作品『フロム・ダスク・ティル・ドーン』でその名コンビぶりを発揮。『キル・ビル』ではロドリゲスが自作の曲を1ドルで提供し、『シンシティ』では1ドルで1シーンの演出をタランティーノが行うと何かとコラボレートしてきた二人が満を期してのダブル監督。互いに通じるものを持つ仲だが二人は映画監督としてはそのスタイルは全くもって別スタイル。

監督、脚本、プロデューサー、撮影監督、編集、音楽と未だに自主制作の如く何でも自分でこなしてしまうロドリゲスは最先端映像技術のデジタルとCGIをフルに使い、ド派手でクレイジーでかっこいいモノを。

対するタランティーノはCGなどはほぼ使わないローテク主義、フィルムにこだわり続けている。未だにシナリオを書くのさえもパソコンは使わない(使えない?)らしい。そんな対照的な2人なので、グラインドハウスムーヴィーと言ってもやってることは全然違う。

ロドリゲスが監督する『プラネット・テラー』はゾンビを殺しまくるホラーアクション。まず登場キャラが全員ブッ飛んでいる。主人公は片脚がマシンガンのセクシーダンサー、小さなミニバイクにまたがる謎の最強ヒーロー、何が起ころうがバーベキューのレシピのことを考えてる兄とそのレシピを知りたい弟、キ○玉を集めるマッドサイエンティスト、ガンマンの如くガーターベルトに注射を差す女医、タランティーノが演じる最低男その名も「レイプ魔ナンバー1」等など、最高にお馬鹿でかっこいい奴らが勢ぞろい!リアリティーなんて糞くらえ、ダサかっこいい映像のインパクトはグラインドハウスの名に恥じぬ作品だ。

対するタランティーノが監督する『デス・プルーフ』は耐死使用の車で女子達を追い回す殺人鬼のスラッシャームーヴィー。そしてタランティーノと言えばこれ、「ダラダラ会話」!デビュー作『レザボア・ドッグス』から変わらぬスタイル、このとりとめもない会話!この会話によりキャラクター達に血肉が通う。それから後半の息をもつかせぬカーチェイス。CGじゃないからこそ湧き上がるこのスリル!これぞ私達が真に求めたカーアクション。『デス・プルーフ』は今までの彼の作品と何かが違う。こう言ってはなんですが本作はグラインドハウスの域を軽く飛び出してる。オタク監督が「真の映画愛」で最高の映画監督へと進化した記念すべき作品ではないだろうか。

最後にお節介かもしれませんが、トイレは上映前に必ず行っておきましょう。何故ならこの映画3時間30分とかなりの長尺作品だからです。『プラネット・テラー』と『デス・プルーフ』の間に行こうという考えは絶対起こさないで下さい。何故ならこの2作の間のフェイクトレーラーこそが実は一番の見所に他ならないのです。こんなに笑える予告そうそうないですよ。
※ちなみにこれは私の苦い体験から言っています。

さあ、来い!現世を彷徨う映画好きゾンビ共よ!ここには柔らかい肉があるぞ!


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