ステップ!ステップ!ステップ!
MAD HOT BALLROOM
(2005年 アメリカ 106分)
2006年6月17日から6月23日まで上映 ■監督 マリリン・アグレロ
■脚本 エイミー・スウェル
■出演 ニューヨークのこどもたち

(C)2005 PARAMOUNT CLASSICS, a Division of PARAMOUNT PICTURES All Rights Reserved.

今から役10年前の1994年、非営利団体アメリカン・ボールルーム・シアターが「ダンシング・クラスルーム」という児童育成プログラムを開始した。これは、ニューヨークの公立小学校の生徒達への情操教育の一環として社交ダンスを教えるというもの。わずか2校ではじまったプログラムは、現在では60以上の学校で導入され約6,000人の生徒が参加している。熱心な教師達が10週間に渡り、各一時間のレッスンを20回行い、コース終了後にはニューヨーク州のコンテストを目指す。本作は、このプログラムに参加する3校に焦点を当て、生徒達(そして、教師達も!)がプログラムを通して苦悩し葛藤しながら成長して行く様を、愛情深く描いたドキュメンタリーフィルムである。

pic人種の坩堝アメリカ。その中でも移民にとって新大陸の入り口という歴史を背負ってきたニューヨーク。本作でとりあげれた3校もその立地条件から様々な文化背景を持った生徒達が集まり、異なった特色を持っている。ワシントンハイツはドミニカからの貧しい移民が大半を占め、97%が貧困家庭という環境であるために、問題を抱える児童も多い。だが、ラテンの血が流れている為か生徒達のダンスのキレは抜群だ。ブルックリン・ベンソンハーストはイタリアやアジア系が多く、監督が言うには、最も子供らしさを残した生徒達だ。トライベッカは最も人種が混在し、比較的高収入な親を持つ子供たちで大人びた態度が目立つ。

はじめは照れ、戸惑っていた子供たちがやがてダンスにのめりこみ、紳士・淑女としてのたしなみを身につけていく。そして、コンテスト優勝という目標に向かって真剣な眼差しをみせる。勿論全ての生徒達がダンスに夢中になれるわけではなく、ダンスを辞める子も出てくる。コンテストに臨む為の最終メンバーの選考にあたっては、選ばれる側の生徒達の緊張だけでなく、選ぶ側の教師達の葛藤もまた描かれる。真剣に愛情を持って生徒達を指導する教師の姿があればこそこのドキュメンタリーが成立し得たと思わせる。

pic子供たちの社交ダンスを扱った本作と、ストリート生まれのクランプダンスを扱った『RIZE』。今週の早稲田松竹のダンスドキュメンタリー二本立ては、全く異なった雰囲気をもちながらも、生きる歓びも悲しみもダンスを通して昇華していくという点で共通しています。

地団駄踏むよりステップを踏もう!

映画館を出る貴方の足取りを力強く、軽やかにしてくれる二本の映画。是非、臨場感あふれる劇場の大スクリーンでご覧下さい!!

(Sicky)


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RIZE
RIZE
(2005年 アメリカ 87分)
pic 2006年6月17日から6月23日まで上映 ■監督 デヴィッド・ラシャペル
■出演 トミー・ザ・クラウン / タイト・アイズ / ドラゴン / リル・C / ミス・プリッシー

(C)2005 Lionz Den Productions, inc. All Rights Reserved.

スクリーンに踊り出てきた黒人の若者達は、まるで今まで見たことも無い野生の動物みたいだった。「踊らなければ息も出来ない」体中で、そう叫んでいた。

pic場所はアメリカ、LAサウスセントラル。1992年に起こったロス暴動の本拠地になった街だ。今でも治安の状態は最悪で、銃撃戦が日常茶飯事で起こる街。隣人が銃殺されても何も不思議なことはない。その銃口が明日は自分に向けられることも。銃声から、暴力から、貧困から、差別から、どん底から這い上がる為に彼らが取った手段は、ダンスだった。

トミー・ジョンソンという男。肉付きがよくて、陽気な彼は、ある別の名前でサウスセントラル中の若者達に尊敬されている。トミー・ザ・クラウン。数年前、この街の過酷な現実を生きる子供たちを励まそうと、彼はクラウン(=ピエロ)の格好をして誕生日会やパーティーでダンスを披露し始めた。身も心も開放されるような彼のハッピーなダンスは、クラウン・ダンスと呼ばれ、それまでは麻薬やギャングに手を染めずにはいられなかった子供や青年達をたちまち虜にした。それから様々なスタイルに枝分かれしつつも、ダンスは街全体を繋ぐ巨大なムーブメントになった。大人も踊る。子供も踊る。やっと立てたばかりの坊やも、誰も彼も生まれてきたことの意味を必死で探るように踊る。残酷な犯罪を毎日肌身で感じて育った彼らのダンスは鬼気迫るほどの迫力がある。

pic何日もの空腹を乗り越えてまさに今、獲物の喉を噛み砕こうとする肉食獣か、それとももがくほど爪が食い込むことも構わずに必死に逃げようとする草食獣か、爪の先ほどの隙間に自分の命を体ごとねじ込もうとする、貪欲な生命力にあふれている。

渋谷や原宿で見かける“ヒップホップ系”と呼ばれる若者達のそのまんまお手本となるようなファッションに身を包んだ彼等だが、ダンスに掛ける思いを語る言葉は、禅にも通ずるような潔さがある。

「もし溺れて、つかまる物が木の板しかなかったら、あんたも手を伸ばすだろう?これが俺たちの板なんだ。」

「(ダンスの目指す)頂点は空だ。つまり無限ってことだ。」

彼らは、その強靭に発達した肉体で人間離れした躍動をするたびに、そこではないどこかへ必死に向かっている。地の果てか、空か。体さえも脱ぎ捨てて。

(猪凡)



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