トゥルーへの手紙
A LETTER TO TRUE
(2004年 アメリカ 78分)
2006年4月1日から4月7日まで上映 ■監督・脚本・ナレーション ブルース・ウェバー
■ナレーション ジュリー・クリスティ / マリアンヌ・フェイスフル

■出演 TRUEをはじめとするゴールデン・レトリバー / ダーク・ボガード(記録映像) / エリザベス・テイラー(記録映像)

80年代のファッションフォトに変化をもたらした人物、ブルース・ウェバー。特に脚光を浴びたのは、スポーツで鍛えられたギリシャ彫刻のような身体を持つ素人をモデルに起用した、カルバンクラインのアンダーウェアの広告だ。結果として、クライアントやファッションエディターが、それまであまり優先されることのなかった、写真家のオリジナリティーを認めることとなった。そしてまた彼は、80年代後半から、映画制作にも多くの情熱を注いできた。

pic『トゥルーへの手紙』は、彼の愛する犬達の中の、4匹のレトリバーの一番末っ子、トゥルーに宛てて手紙を書き、それを読むという形式で、自分自身や隣人たちのドラマが綴られていく。とても私的な事柄から映画はスタートしてゆくのだ。ブルース・ウェバーとトゥルー。

しかしこの作品制作の背景には、9.11のテロ事件がある。たくさんのニュースは、現実感がなく情報としてしか受け取ることができない。けれども外側からではなく、内側からそのニュースを知ることができたらどうだろう。

picトゥルーへの手紙は、愛する者へ宛てた手紙。とても身近な場所から、世界を見渡す。そうしたら、単なるニュースとしてではない世界を、そこから感じとることができるはずだ。

(ロバ)


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ランド・オブ・プレンティ
LAND OF PLENTY
(2004年 アメリカ/ドイツ 124分)
pic 2006年4月1日から1月19日まで上映 ■監督・原案・脚本 ヴィム・ヴェンダース(『パリ、テキサス』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』
■脚本 マイケル・メレディス
■出演 ミシェル・ウィリアムズ / ジョン・ディール / ウェンデル・ピアース

いよいよ待ちに待ったヴェンダースのロードムービーである。『ソウル・オブ・マン』や『Viel Passiert−Der BAP-Film』と音楽ドキュメンタリーは撮っていたものの、本格的な劇映画は2000年の『ミリオンダラー・ホテル』を最後にしていた巨匠の新作。それも18番ともいえるロードムービーなのだから見ない手はない。

pic温かい日差しが降り注ぐアメリカ・ロサンゼルスの道端。アンテナや監視カメラを乗せた薄汚れたバンの中から人々を観察している男・ポール。「あの攻撃から2年と1ヶ月。依然警戒レベルは高いが、人々の危機意識は後退している」と記録する彼は、ベトナム戦争帰りの元米兵であり、自称母国警備員として9.11後の街の警備にあたっていた。

一方、バックパックひとつでロサンゼルスの空港に降り立った少女・ラナ。アメリカとイスラエルで10年間を過ごし、久々に故郷・アメリカに帰ってきたのだ。亡くなった母の手紙を、伯父のポールに届ける為に。ラナは伝道所でホームレスの支援活動をしながら、ポールのいどころを探し始める。その頃、ポールは「怪しげな」アラブ人に目をつけ、男を追跡し始める。一度は男を見失うが、ラナの働く伝道所で男を再発見しほっとしたのもつかの間、男は夜の闇にまぎれて近づいてきた車から発砲され、死亡する。現場に居合わせた二人は偶然の再会を果たした。

ラナは男の遺体を届けるために、そしてポールは事件の真相を突き止めるために、それぞれ異なる目的を持ちながら、共に同じ目的地「トロナ」へ向ってアメリカ横断の旅が始まる。。

pic撮影日数はわずかに16日。一回に平均2,3テイクと短いリハーサルのみでの撮影が求められた。取り直しや付け加えもできない状況で、普通のドラマよりも多い一日平均42シーンの撮影が敢行されたのは驚きだ。デジタルカメラの手持ち撮影と、平均14時間〜16時間もの撮影を快く行ったスタッフの力あってこそ、とヴェンダースは語る。

『地獄の黙示録』でコッポラがアメリカの「闇の奥」を描き出すためにベトナムの川を逆上がったように、今作でヴェンダースはアメリカ大陸を横断しながら9.11後のアメリカの暗部を描き出す。しかし、ドイツ人でありながらアメリカへの憧憬を形にしてきた(“最後のアメリカ映画”=『パリ・テキサス』さえ作った!)ヴェンダースのこと。決して突き放しも甘やかしもせず、過度に政治的になるわけでも現実から目を背けるでもなく、伯父と姪のドラマを通して温かい人間のつながりという希望の光を最後に用意している。やはりヴェンダースは最良の「アメリカの友人」であると同時に、我々にとっても最良の監督であると思わずにはいられない。ラナが屋上で踊っている印象的なシーン(奥にはミリオンダラー・ホテルが!)など、ヴェンダースファンにとっては数々の発見ができる点も面白い。

サム・シェパードとの新作『アメリカ、家族のいる風景』も公開中のヴェンダースだが、その前に是非とも5年ぶりの劇映画『ランド・オブ・プレンティ』を当館でご覧下さい。

(Sicky)



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