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イジー・バルタ

■イジー・バルタ

1948年11月26日プラハ生まれ。
プラハ工芸芸術大学を卒業後、アニメーション映画の制作を開始。

1978年、イジー・トルンカ・スタジオのアニメーション作家兼監督となり、1993年、プラハ工芸芸術大学・映画テレビグラフィック科の学科長に就任。独特の技術を使い実写を取り入れた三次元アニメーションを手掛け、「手袋の失われた世界」(82年)では、チャップリンやドイツ表現主義「アンダルシアの犬」、「未知との遭遇」などの名作映画の歴史を手袋たちが主人公となって繰り広げるパロディ映画史を作り上げ注目される。

しかし、チェコスロバキア共産党政権の崩壊以降、約15年間、作品を発表することが出来ない状況に陥った(1989〜)。長編「ゴーレム」のためにスポンサーを探すも見つからず、1996にようやく完成したのはそのパイロット・フィルムのみ、現在も完成していない。

ドイツ民謡「ハーメルンの笛吹き男」を5年の歳月をかけて新解釈した長編「笛吹き男」(85年)では、海外で10以上の賞を受賞。 2009年には日本の文化庁メディア芸術祭の優秀賞を受賞した。

フィルモグラフィ

・謎かけと飴玉 (1978)
・ディスクジョッキー(1980)
・プロジェクト(1981)
・手袋の失われた世界(1982)
・緑の森のバラード(1983)
・笛吹き男(1985)
・最後の盗み(1987)
・セルフポートレート (1988)
・見捨てられたクラブ(1989)
・ゴーレム・パイロット版(1996)
屋根裏のポムネンカ(2009)


ヤン・シュヴァンクマイエル

■ヤン・シュヴァンクマイエル

1934年、チェコスロバキアのプラハで生まれる。父は陳列窓装飾家、母は熟練の裁縫婦。8歳のクリスマスに父親から人形劇セットをもらい、これがその後の世界観・芸術観の形成に決定的な役割を果たす。

1954年プラハの芸術アカデミー演劇学部(DAMU)人形劇科に入学。その後、短期間、リベレツの国立人形劇場で演出と舞台美術を担当。映画監督エミル・ラドクと出会い、彼の短編映画「ヨハネス・ドクトル・ファウスト」に人形遣いとして参加。義務兵役に就いた後、1960年、エヴァと結婚。プラハのセマフォル劇場で仮面劇のグループを組織し、上演活動を開始。1962年セマフォル劇場との契約が切れ、仮面劇団とともにラテルナ・マギカへ移る。1964年最初の作品「シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック」を発表。

翌年「J.S.バッハ―G線上の幻想」がカンヌ映画祭で短編映画賞を受賞する。1973年「オトラントの城」の準備をはじめるが、当局側から映画製作禁止を命じられ、1980年までバランドフ映画スタジオで特殊撮影と美術を担当して生計を立てる。1975年、論文「未来は自慰機械のもの」を執筆。翌年フランスで刊行されたヴァンサン・ブヌール編集の論文集「シュルレアリスム文明」に収録される。

1983年「対話の可能性」がベルリン映画祭で短編映画部門金熊賞と審査員賞を受賞。1989年ニューヨーク近代美術館で映画の回顧展。1990年、ベルリン映画祭で「闇・光・闇」が審査員特別賞。1991年プロデューサーのヤロミール・カリスタと共に古い映画館を買い取り、映画スタジオ<アタノル>を創立する。(アタノルとは錬金術師が物を蒸して柔らかくするときに使うかまどのこと)1997年サンフランシスコ映画祭で「伝統的な映画製作の枠組みにとらわれないで仕事をしている」映画監督の業績に対して授与されるゴールデンゲート残像賞を受賞。

フィルモグラフィ

・シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック(1964)*短編
・J.S.バッハ─G戦上のアリア(1965)*短編
・石のゲーム(1965)*短編
・ナンバー(1965)*短編/未公開
・エトセトラ(1966)*短編
・棺の家(1966)*短編
自然の歴史(組曲)(1967)*短編
・庭園(1968)*短編
部屋(1968)*短編
・ヴァイスマンとのピクニック(1969)*短編
・家での静かな一週間(1969)*短編
・ドン・ファン(1970)*短編
・コストニツェ(1970)*短編
・ジャバウォッキー(1971)*短編
・レオナルドの日記(1972)*短編
・オトラントの城(1973〜79)*短編
・アッシャー家の崩壊(1980)*短編
地下室の怪(1982)*短編
対話の可能性(1982)*短編
陥し穴と振り子(1983)*短編
男のゲーム(1988)*短編
・アナザー・カインド・オブ・ラヴ(1988)*短編
アリス(1988)
・肉片の恋(1989)*短編
闇・光・闇(1989)*短編
・フローラ(1989)*短編
セルフポートレート(1989)*短編
・スターリン主義の死(1990)*短編
・フード(1992)*短編
・ファウスト(1994)
・悦楽共犯者(1996)
オテサーネク 妄想の子供(2000)
・シュヴァンクマイエルのキメラ的世界(2001)*出演
・ルナシー(2005)
サヴァイヴィング ライフ -夢は第二の人生-(2010)


芸術の秋――ということで、今週は芸術大国・チェコより、世界的に有名なチェコ・アニメーション、芸術界の巨匠、イジー・バルタとヤン・シュヴァンクマイエルの二人をご紹介いたします。

チェコというと、可愛くて茶目っ気たっぷりなアニメーションを想像される方も多いでしょう。けれど、今回上映する作品はどちらかというと大人向け。痛烈な政治批判が込められた作品や、現実と夢が錯綜する幻想的な作品など、観れば観るほど味わい深い、ダークでパンチの効いた世界が広がっています。

共産主義・社会主義時代から「プラハの春」、そして1989年からの「ビロード革命」――チェコスロヴァキアが、チェコ共和国、スロヴァキア共和国の2つの国になったのは1993年と、比較的最近のことです。バルタ、シュヴァンクマイエルともに、まさにこの激動の時代を生き、制作を断念せざるを得なかった期間が長く続きました(シュヴァンクマイエルは7年、バルタはなんと15年!)。

決して恵まれていたわけではなかった彼らの制作現場ですが、手掛けた作品はどれも、漲る創造力で溢れかえらんばかりです。

今回はそんな数々の作品の中から、バルタ監督より初期4作品、シュヴァンクマイエル監督よりデビューから1年後の1965〜1980年までに製作された7作品をセレクト。禁じられ虐げられても、決して枯れることのなかったその力強さと逞しさ。紡ぎ出される映像世界の類希なる美しさと豊かさを、是非ご堪能ください。

(ザジ)

イジー・バルタ

イジー・バルタ編
(1982〜1989年 チェコスロヴァキア 全4作品 計116分 SD/モノラル)

2012年10月6日から10月12日まで上映

■『手袋の失われた世界』監督・脚本:イジー・バルタ 撮影:ヴラディミール・マリーク/ミハル・ガルト 音楽:ペトル・スコウマル /■『最後の盗み』監督・脚本・美術:イジー・バルタ 音楽:ミハエル・コツァーブ 撮影:ヤン・マリーショ/■『見捨てられたクラブ』監督・脚本:イジー・バルタ 撮影:イヴァン・ヴィート 音楽:ペトル・スコウマル/■『笛吹き男』監督:イジー・バルタ 脚本:カミル・ピクサ 音楽:ミハエル・コツァーブ 撮影:ヴラディミール・マリーク/イヴァン・ヴィート

■配給:チェスキー・ケー

★プリントの経年劣化により、本編上映中、一部お見苦しい箇所・お聞き苦しい箇所がございます。ご了承の上、ご鑑賞いただきますようお願いいたします。

pic手袋の失われた世界
(1982年/チェコスロヴァキア/17分)
ゴミ集積場に散乱するたくさんの手袋とフィルム。男が持ち帰ってフィルムを映写機にかけてみると…。『ゴジラ』から『未知との遭遇』まで、手袋たちが演じるパロディ映画のめくるめく世界。現実と夢の掛け合いがユニーク。


pic最後の盗み
(1987年/チェコスロヴァキア/21分)
ある屋敷に盗みに入った泥棒が、不思議な人々に親切にされる。有頂天になる泥棒だったが、最後には…。ゴシック調の幻想的な作品。実写のフィルムおよそ5万枚に直接彩色した映像は息を飲む美しさ。独特の浮遊感に魅了される。


pic見捨てられたクラブ
(1989年/チェコスロヴァキア/25分)
廃墟に放置された古いマネキンたち。ひっそりと生活を営んでいた彼らだったが、ある日新しいタイプのマネキンたちがやってきて…。世紀末感溢れるマネキンたちの表情、姿勢、一挙一動が強烈なインパクトを放つ人形アニメ―ション。


pic笛吹き男
(1985年/チェコスロヴァキア/53分)
製作に5年の歳月をかけ、国内外で11の賞を受賞した「ハーメルンの笛吹き男」の新解釈。物欲に支配された人間の滅びを描く。木彫りの人形と本物のネズミを用い、セットで撮影された退廃的な映像美はバルタ作品の中でも群を抜く出来栄え。


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etcmini ヤン・シュヴァンクマイエル

ヤン・シュヴァンクマイエル編
(1965〜1980年 チェコスロヴァキア 全7作品 計107分 『J.S.バッハ-G線上の幻想』のみシネスコ/モノラル、ほか全てSD/モノラル)

2012年10月6日から10月12日まで上映

■『J.S.バッハ-G線上の幻想』監督・原案・脚本・アニメーション・美術:ヤン・シュヴァンクマイエル/■『ジャバウォッキー』監督・脚本・美術:ヤン・シュヴァンクマイエル 原案:ルイス・キャロル/■『エトセトラ』監督・原案・脚本・美術:ヤン・シュヴァンクマイエル/■『棺の家』監督・原案・脚本・美術:ヤン・シュヴァンクマイエル/■『庭園』監督・脚本:ヤン・シュヴァンクマイエル/■『アッシャー家の崩壊』監督・脚本・美術:ヤン・シュヴァンクマイエル 原案:エドガー・アラン・ポー/■『ドン・ファン』監督・脚本・アニメーション・美術:ヤン・シュヴァンクマイエル

■配給:チェスキー・ケー、レン コーポレーション

picJ.S.バッハ-G線上の幻想
(1965年/チェコスロヴァキア/10分)
オルガンの荘厳な音楽にあわせ、淡々と描き出されるミクロの陰影、質感、質感、質感の数々。ただ廃屋のイメージが流れる中にある圧倒的な力強さ。退廃的な美しさと無駄のない緊張感が漲る。1965年カンヌ国際映画祭短編映画賞受賞。


picジャバウォッキー
(1971年/チェコスロヴァキア/14分)
ルイス・キャロル著「鏡の国のアリス」に登場する詩「ジャバウォッキー」を題材とする、軽快な人形・小道具ストップモーション。監督作品に頻出する要素(積み木、食べ物、人形、ネコ)が登場し、ディテールまで凝った映像が楽しい。


picエトセトラ
(1966年/チェコスロヴァキア/7分)
フロッタージュの技法を用いた平面アニメ。「翼」「鞭」「家」の3つのストーリーから成る。数々の美術造形作品を生み出してきた監督の豊かな創造性が発揮されている。可愛らしくユニークな作品だがどことなく神秘的な雰囲気が漂う。


pic棺の家
(1966年/チェコスロヴァキア/10分)
英国で17世紀ごろ流行した人形劇、通称“パンチ&ジュディ”を軸に、毛並のいいモルモットを取り合う2人の男の大喧嘩を描くコメディ。もとは子供向けの作品だというが、シュヴァンクマイエルらしく容赦ない展開が待ち受けている。


pic庭園
(1968年/チェコスロヴァキア/17分)
チェコで20年間上映禁止だった実写作品。友人の家を訪ねた男が見たのは、人々が手を繋ぎ合って「柵」になっている光景だった。「国家」を守り「礎」となる…政治的なメッセージは飄々としているが、不条理さとグロテスクな触感が残る。


picアッシャー家の崩壊
(1980年/チェコスロヴァキア/16分)
当局からマークされ「古典文学の映像化」を強要されたシュヴァンクマイエルは、エドガー・アラン・ポー原作の同名小説を題材に選んだ。語り手がありながら人物は登場せず、亡霊のように椅子が動き回り不穏な気配だけが空気を震わす。


picドン・ファン
(1970年/チェコスロヴァキア/33分)
ドン・ファン神話のシュヴァンクマイエル的解釈。放蕩息子のドン・ファンは許嫁を弟に奪われて復讐を誓う。生々しい鮮血を流す人形たち。その空洞のような瞳は一度観たらなかなか忘れられない。後の長編「ファウスト」に結実する、究極の人形劇。



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