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トッド・ヘインズ監督の『アイム・ノット・ゼア』で描かれたニューヨークを強烈に覚えています。流れるように街並みを映しながら、カメラ目線でこちらを眺める人々や路上で朗読する男、バイキングの格好で立ち尽くす男などをとらえています。こちらを眺め、「よそ者が来た」というようなその視線に、まるで自分が初めてその街に降り立つときのような、不安と期待が入り混じった感覚が湧き上がりました。最新作である『ワンダーストラック』でも二つの時代のニューヨークが舞台になっています。地元を飛び出してニューヨークへと向かう少年と少女はその街のムードに戸惑いながらも、歩を進めていきます。「この街では今までとは違う、何かが起こるかもしれない」という期待を、ニューヨークという街が呼び起こすからかもしれません。

一方生まれも育ちもニューヨークであるウディ・アレン監督は、魅力的で誰もが夢見る街だからこそ、その背後に渦巻く理不尽な現実に視線を向けます。『女と男の観覧車』では1950年代のニューヨーク、コニーアイランドが舞台になっています。この映画の原題でもある「Wonder Wheel」という大きな観覧車を背景に、男女のいざこざをシニカルに描くのは監督の得意としているテーマです。しかし同じくニューヨークが舞台である監督作の『アニー・ホール』や『マンハッタン』と感触が違うのは、街中ですれ違う人々の事情を切り取るのではなく、遊園地という夢の世界に暮らし続けてしまう人物を描いているからではないでしょうか。夢の世界のほうがより色濃く現実の不条理を感じてしまうのは、なんて皮肉なのでしょう。

二人の監督が描く二つのニューヨークはどちらも本当の姿なのだと思います。対照的なアプローチで人々を描くこの二つの映画は、人と人とが出会うことから始まる奇跡、そして悲劇をとらえ私たちに「人間の営みとは何か」を提示してくれます。そしてどちらの作品も感動してしまうのは、運命のいたずらに翻弄され、一喜一憂する登場人物たちに、私たち自身を重ねあわせてしまうからなのではないでしょうか。

(ジャック)

ワンダーストラック
WONDERSTRUCK
(2017年 アメリカ 117分 DCP シネスコ) pic 2018年11月3日から11月9日まで上映 ■監督 トッド・ヘインズ
■原作・脚本 ブライアン・セルズニック
■撮影 エドワード・ラックマン
■衣装 サンディ・パウエル
■音楽 カーター・バーウェル

■出演 オークス・フェグリー/ミリセント・シモンズ/ジュリアン・ムーア/ジェイデン・マイケル/コリー・マイケル・スミス/トム・ヌーナン/ミシェル・ウィリアムズ

■第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門 正式出品

PHOTO : Mary Cybulski © 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

いつだって、
人生は驚きと幸せのワンダーランド。

1977年、ミネソタ。母親を交通事故で失った少年ベンは、父親とは一度も会ったことがなく、なぜか母は父のことを語ろうとしなかった。ある嵐の夜、母の遺品の中から父の手掛かりを見つけたベンは、父を探すためひとりニューヨークへと向かう。

1927年、ニュージャージー。生まれた時から耳が聞こえない少女ローズは、母親のいない家庭で厳格な父親に育てられる。憧れの女優リリアンの記事を集めることで寂しさを癒していたローズは、リリアンに会うためひとりニューヨークへと旅立つ。

新たな一歩を踏み出しふたりは、謎の絆に引き寄せられていく。そして、大停電の夜、何かが起ころうとしていた――。

デヴィッド・ボウイの名曲にのせて奏でる
驚きに満ちた物語。
トッド・ヘインズ監督の新境地!

picアカデミー賞6部門にノミネートされた『キャロル』のトッド・ヘインズ監督が、アカデミー賞5部門に輝いた『ヒューゴの不思議な発明』の原作者ブライアン・セルズニックによる同名ベストセラー小説を映画化、全世界熱望の最新作が完成した。

人種差別や同性愛など、現代に生きる私たちにとって重要な問題をテーマにしてきたヘインズ監督が今回描くのは、愛する人も居場所も失くした少年と少女が、初めてぶつかる人生の壁を懸命に乗り越えていく姿。大切な人を探すためにニューヨークを訪れ、自然史博物館に迷い込んだ彼らは、“驚きと幸せの一撃=ワンダーストラック”に次々と遭遇していく。

名曲「スペース・オディティ」にのせて、二つの時代を行き来する壮大な世界観のなか、最後に二人を結ぶ謎が明かされていく。今もなお新たな壁にぶつかる大人たちに、人生のきらめきを取り戻す術を教えてくれる感動の物語。

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女と男の観覧車
Wonder Wheel
(2017年 アメリカ 101分 DCP ビスタ)
pic 2018年11月3日から11月9日まで上映 ■監督・脚本 ウディ・アレン
■撮影 ヴィットリオ・ストラーロ
■衣装 スージー・ベンジンガー
■編集 アリサ・レプセルター

■出演 ケイト・ウィンスレット/ジャスティン・ティンバーレイク/ジム・ベルーシ/ジュノー・テンプル/ジャック・ゴア/デヴィッド・クラムホルツ/マックス・カセラ

Photo by Jessica Miglio ©2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.

まわる、まわる。秘密の恋が回る。

picウェイトレスのジニーは、回転木馬の操縦係を務める夫のハンプティ、そして自身の連れ子と観覧車の見える部屋で暮らしている。実は彼女は夫に隠れて、ライフガードのアルバイトをしているミッキーと付き合っていた。平凡な毎日に失望していたジニーは、彼との未来を夢見ていた。しかし、ギャングと駆け落ちして音信普通になっていた夫の娘キャロライナが現れたことから、全てが狂い始める――。

もっと素敵な人生が待っているはず――
あくなき理想を追い求める女性の魂の奥深くに迫る、
心ざわめくヒューマンドラマ

pic 『ミッドナイト・イン・パリ』では1920年代黄金時代のパリへ、『カフェ・ソサエティ』では1930年代のハリウッドへと観客をタイムトリップさせたウディ・アレン監督。最新作の舞台は1950年代、NY・コニーアイランド。女と男の恋と欲望、嘘と裏切りを乗せて、まわり続ける観覧車。そこから見える景色は、うっとりするほど美しいけれど、同じ場所を回転するだけで、どこにもたどり着けない――。夢のように美しい映像で人生の切なさを描ききった、名匠ウディ・アレン監督の恐るべき野心作が誕生した。

情熱的な主人公ジニーを演じたのは、アレン監督作に初出演のケイト・ウィンスレット。「最高峰の演技力を誇る女優でないと成立しない」という監督の要望に見事に応え新境地を開拓。その圧倒的な演技は世界中で大絶賛されている。海岸で働くライフガード役にはジャスティン・ティンバーレイク。前作から続投のヴィットリオ・ストラーロの撮影による、詩情豊かでカラフルな映像がスクリーンを彩る。

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