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ジャン=ピエール・レオーはヌーヴェルヴァーグの申し子です。伝説的な『大人は判ってくれない』でのデビュー以来、トリュフォー監督の分身のような存在だっただけでなく、ゴダールやリヴェットなどヌーヴェルヴァーグ作家たちの作品に最も精力的に出演した俳優だったからです。

にもかかわらず、レオーに「名優」や「スター」といった言葉がどこかそぐわないのも事実です。映画史においてヌーヴェルヴァーグが「青春期」であるとしたら、まさにレオーは瑞々しくも未熟で危うい「青春」そのものを体現した存在でした。だからこそレオーの成長と共に連作された「アントワーヌ・ドワネル」シリーズも、基本的には軽妙ながら、後期になるにしたがって成長できない万年青年ドワネルと周囲との軋轢が際立ち、言いしれない苦みを帯びることになります。

そんな展開をリアルタイムの観客は歓迎せず、トリュフォー自身も失敗だったと振り返りますが、決して純真さを賛美するだけに終わらない、このシビアな眼差しがあったからこそ、リアルな青春の軌跡として現在でも唯一無二の輝きを放っているのだと思います。

レオーは現在公開中の『ライオンは今夜死ぬ』でも、ドワネルだった頃と変わらない、愛らしくもどこか切ない笑顔を見せてくれます。2018年にジャン=ピエール・レオーがドワネルのままでいてくれること。今回の特集を通してこの奇跡がより多くの人に伝わってもらえたら嬉しいです。

(ルー)

大人は判ってくれない
Les quatre cents coups
(1959年 フランス 99分 35mm シネスコ/MONO) pic 上映日 2/3(土)、5(月)、7(水)、9(金) ■監督・原案・脚本・台詞 フランソワ・トリュフォー
■脚本・台詞 マルセル・ムーシー
■撮影 アンリ・ドカ
■編集 マリー=ジョセフ・ヨヨット
■音楽 ジャン・コンスタンタン

■出演 ジャン=ピエール・レオー/アルベール・レミー/クレール・モーリエ/パトリック・オーフェー/ギ・ドゥコンブル/ジャンヌ・モロー/ジャン=クロード・ブリアリ/ジャン・ドゥーシェ

■1959年カンヌ国際映画祭監督賞・国際カトリック映画事務局賞受賞/NY批評家協会賞外国映画賞受賞/アカデミー賞脚本賞ノミネートほか多数受賞・ノミネート

©1959 LES FILMS DU CARROSSE

汚れ知らぬ少年のこころを蝕み、
信頼を裏切るものは何か?

pic 気が強く口の達者な母とそれにやりこめられてしまう義父とともにアパートに暮らす12歳の少年、アントワーヌ・ドワネルの毎日は、家事に忙しく宿題をやる暇もない。憂鬱な登校の途中、親友ルネに会った彼は学校に行かず街を遊び回っていた。そこで彼は見知らぬ男と抱き合っている母を目撃してしまう。

翌朝、登校したアントワーヌは前日の無断欠席の理由を追及され、思わず「母が死んだからだ」と答えるが、学校に駆け付けた父母により嘘がばれて、父に激しく平手打ちされる。その日、アントワーヌは家に帰らなかった。驚いた両親は彼に気づかい、つかの間の平和な家庭がよみがえるのだが…。

picトリュフォーの長編デビュー作にして、その名を世に知らしめた傑作。トリュフォーは本作のオーディションでジャン=ピエール・レオーに出逢い、アントワーヌ・ドワネルという主人公がこの世に誕生した。強い女性、しっかりした子供、ダメな大人=男というトリュフォーの以降の映画を特徴づける要素がすでに存在している。本作がカンヌ国際映画祭で監督賞を取ったことで、批評家のお遊びだと半人前扱いだったヌーヴェル・ヴァーグが一躍世界中の脚光を浴びることとなった。

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アントワーヌとコレット<二十歳の恋>より
★ラスト1本割対象作品
Antoine et Colette / L'Amour a vingt ans
(1962年 フランス 29分 35mm シネスコ/MONO)
pic 上映日 2/3(土)、5(月)、7(水)、9(金)
★『夜霧の恋人たち』と同時上映
■監督・脚本・台詞 フランソワ・トリュフォー
■撮影 ラウル・クタール
■編集 クローディーヌ・ブーシェ
■音楽 ジョルジュ・ドルリュー

■出演 ジャン=ピエール・レオー/マリー=フランス・ピジェ/パトリック・オーフェー/ロジー・ヴァルト/フランソワ・ダルボン/ジャン=フランソワ・アダン

©1962 LES FILMS DU CARROSSE

初めての恋はうまくいくためしがない

picパリ。17歳になったアントワーヌはレコード会社フィリップスに勤めている。彼はある日音楽会に出かけ、会場でコレットという少女に一目惚れする。知り合うきっかけを作ろうと、せっせと音楽会に通う毎日。友人のルネに励まされ、ようやく彼はコレットと友達になる。電話番号を聞いて、次の音楽会の約束をとりつける事ができたが、最初の約束はすっぽかされてしまう。翌日、家を訪ねるとコレットは留守で、ちょうど居合わせた彼女の両親に気に入られるアントワーヌだったが…。

pic ヌーヴェル・ヴァーグの奇跡的傑作『大人は判ってくれない』以来、3年振りにドワネルを再生させた“アントワーヌ・ドワネル”ものの第2章。もとは5話からなるオムニバス形式の作品「二十歳の恋」での<第一話フランス篇>が本作である。その他<第ニ話イタリア篇>はレンツォ・ロッセリーニ監督、<第三話日本篇>は石原慎太郎監督、<第四話ドイツ篇>はマルセル・オフュルス監督、<第五話ポーランド篇>はアンジェイ・ワイダ監督と、当時のそうそうたる若手監督が勢揃いした。

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夜霧の恋人たち ★ラスト1本割対象作品
Baisers Voles
(1968年 フランス 90分 35mm ビスタ/MONO) pic 上映日 2/3(土)、5(月)、7(水)、9(金)
★『アントワーヌとコレット』と同時上映
■監督・原案・脚本・台詞 フランソワ・トリュフォー
■原案・脚本・台詞 クロード・ド・ジヴレー/ベルナール・レヴォン
■撮影 ドニ・クレルヴァル
■編集 アニエス・ギユモ
■音楽 アントワーヌ・デュアメル

■出演 ジャン=ピエール・レオー/クロード・ジャド/デルフィーヌ・セイリグ/マイケル・ロンズデイル/ハリー・マックス/アンドレ・ファルコン/ダニエル・チュカルディ/クレール・デュアメル/セルジュ・ルソー/マリー=フランス・ピジェ

■1969年全米批評家協会賞監督賞受賞/1968年アカデミー賞外国語映画賞ノミネート ほか多数受賞

©1968 LES FILMS DU CARROSSE

さて婚約、という時に出会う年上の女

pic 軍を除隊したアントワーヌは、モンマルトルにある小さなホテルの夜警の仕事に就いた。そこに昔の恋人クリスティーヌが訪ねてきた。久しぶりに再会した彼女は見違える程美しくなって彼の前に現れ、アントワーヌの気持ちは動揺する。

しかし、彼はある夜の客の浮気騒動が原因でホテルをクビになってしまう。アントワーヌをうまく騙して浮気現場に入ることが出来た探偵アンリは、その責任を感じ彼を助手として使うことに。クリスティーヌの存在が気になりながらも、探偵の見習い修行を何とか済ませたアントワーヌに大きな仕事が与えられた。調査を始めたアントワーヌだったが、依頼主タバーヌ氏の夫人ファビエンヌに一目ぼれしてしまい――。

picオムニバスの「二十歳の恋」から6年ぶりに再びアントワーヌ・ドワネルをキャラクターに据え、ジャン=ピエール・レオーを主人公に起用した。「これは私の過去の思い出の映画であり、感情の映画である」と自身が語るように、本作でトリュフォーの投影と言われるドワネル・シリーズが彼の中で確立したともいえる作品である。

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家庭
Domicile Conjugal
(1970年 フランス・イタリア 100分 35mm ビスタ/MONO)
pic 上映日 2/4(日)、6(火)、8(木)
■監督・原案・脚本・台詞 フランソワ・トリュフォー
■原案・脚本・台詞 クロード・ド・ジヴレー/ベルナール・レヴォン
■撮影 ネストール・アルメンドロス
■編集 アニエス・ギユモ
■音楽 アントワーヌ・デュアメル

■出演 ジャン=ピエール・レオー/クロード・ジャド/ダニエル・チェカルディ/クレール・デュアメル/ヒロコ・マツモト/バルバラ・ラージュ/ダニエル・ブーランジェ/シルヴァーナ・ブラージ/クロード・ヴェガ/ピエール・ファブル/ジャック・コタン

©1970 LES FILMS DU CARROSSE

結婚生活(浮気あり)

picアントワーヌの現在の仕事は花の染色家。彼はクリスティーヌと結婚し、アパートで暮らしている。やがて彼女が妊娠するが、そんな折アントワーヌは染色の実験に失敗して仕事に見切りをつけ、港湾の開発調査をする米国資本の会社に就職する。そしてクリスティーヌには男の子が誕生した。ある日、アントワーヌの会社に日本人の親子が視察に訪れた。その娘キョーコが池に落としたブレスレットを届けてあげたことから二人は親しくなる。アントワーヌは彼女のアパートに足繁く訪れるようになり…。

pic ドワネル・シリーズの第3作のアントワーヌは、前作のしっかり者の美人クリスティーヌと結婚し、家庭に入っている。子供も産まれ大人になることのプレッシャーや、結婚生活に必ずといっていいほど(?)登場する、妻とは違った魅力の女性に惹かれ、悩み戸惑うアントワーヌ。仕事ではアメリカ人男性、私生活の秘め事では日本人女性と、家庭においては妻とのコミュニケーションギャップが彼を苦しめる。経験というものは、気ままな少年を大人に変えていくのだろうか…。

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逃げ去る恋 ★ラスト1本割対象作品
L'Amour en fuite
(1979年 フランス 94分 35mm ビスタ/MONO)
pic 上映日 2/4(日)、6(火)、8(木)
■監督・脚本・台詞 フランソワ・トリュフォー
■脚本・台詞 マリー=フランス・ピジェ/ジャン・オーレル/シュザンヌ・シフマン
■撮影 ネストール・アルメンドロス
■編集 マルティーヌ・バラケ=キュリエ
■音楽 ジョルジュ・ドルリュー

■出演 ジャン=ピエール・レオー/マリー=フランス・ピジェ/クロード・ジャド/ダニ/ドロテー/ロジー・ヴァルト/ジュリアン・ベルトー/ダニエル・メズギッシュ/モニク・デュリ/ロラン・テノ

©1979 LES FILMS DU CARROSSE

離婚と昔の恋人、そして新しい恋

picアントワーヌは若いガールフレンド、サビーヌと一夜を過ごし、クリスティーヌとの離婚裁判に遅れてしまう。念願の小説を一冊世に出したアントワーヌも30代。本の売れ行きもさっぱりで、今では出版の校正をしている。 ある日、アントワーヌは、ホームに停車している汽車の窓に忘れられない女の顔を見い出した。それは、15年前、彼が初めて、そして激しく恋をした“二十歳の恋”のコレットだった――。

pic 『大人は判ってくれない』から『家族』までの、アントワーヌ・ドワネルのエピソードを再編集し、新たに恋人サビーヌを登場させたシリーズ完結編。これまで描かれてきたドワネルの青春期、就職、結婚、家庭のもめ事、そして歳に似合わず遅れて現れた青年のような衝動などで、恋のためにひたすら走り続けたアントワーヌは、ジャン=ピエール・レオーの俳優としての成長とともにいつも在った。

本作では、シリーズの回想シーンがトリッキーに、入れ小細工のように織り込まれ、ドワネルのすべてのイメージがここに帰結していく。さらにエンディングで、ドワネルに、ほの明るい新たな人生を歩ませることで、トリュフォーは一つの結論を見せている。

※全作品あらすじ・解説は「アントワーヌ・ドワネルの冒険」劇場用パンフレット(1996年刊行)より参照

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