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ペドロ・コスタが女優で歌手のジャンヌ・バリバールを追ったドキュメンタリーの題名である「何も変えてはならない」という謎めいた言葉は、もともとゴダールが『映画史』の中でブレッソンの言葉を引用した(盗んだ?)フレーズの一部引用です。完全なフレーズは「何も変えてはならない、すべてを変えるために」。一見謎に満ちた言葉ですが、ペドロ・コスタ作品を観ていけばこれが彼の創作姿勢を端的に表したものであることがわかります。『ヴァンダの部屋』『コロッサル・ユース』のような非俳優を主役にしたものであれ、『あなたの微笑みはどこに隠れたの?』『何も変えてはならない』のような映画人を写したものであれ、ペドロ・コスタは常に被写体に愛をもって寄り添い、その人生の真実に徹底的に忠実であろうとするのです。そして、自らの手では「何も変え」ようとしないにも関わらず、被写体たちの日常を時に小津安二郎映画のように叙情的な、あるいはフェルメールの絵画のように崇高な奇跡の光景へと変貌させてしまうのです。

ペドロ・コスタ映画は、被写体たちのかけがえのない人生に親密に立ち会うような、豊かで濃密な映画体験を約束してくれます。今回の特集を機会にぜひその奇跡を目撃して下さい!

(ルー)

コロッサル・ユース
Colossal Youth / Juventude em Marcha
(2006年 ポルトガル/フランス/スイス 155分 35mm)
pic 上映日 7/28(土)、8/1(水)★2日間 ■監督 ペドロ・コスタ
■撮影 ペドロ・コスタ/レオナルド・シモンイス
■編集 ペドロ・マルケス
■録音 オリヴィエ・ブラン

■出演 ヴェントゥーラ/ヴァンダ・ドゥアルテ/ベアトリズ・ドゥアルテ/イザベル・カルドーゾ/グスターヴォ・スンプタ

■2006年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品

★1本立て上映です。ラスト1本割引はございません。

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pic 古くからカーボ・ヴェルデ出身のアフリカ系移民が多く住む、リスボン郊外のフォンタイーニャス地区。住民たちは開発に伴い建てられたばかりの近代的な集合住宅へと強制移住させられる。そんな移民労働者の一人で、34年この地区に住んできたヴェントゥーラは、突然妻のクロチルドに家を出て行かれてしまう。

途方に暮れ、荒廃した貧民窟と新しい集合住宅の間を行き来しつつ、彼は、自身が「子供たち」と信じる、ヴァンダやベーテ、レントたち若い住民を訪ね歩き、対話を重ねながら自分の居場所を見出そうとしていく…。

pic1997年の『骨』、2000年の『ヴァンダの部屋』に引き続き、フォンタイーニャス地区にカメラを持ち込み撮影された『コロッサル・ユース』。現場にはデジタルカメラと最小限の機材で臨み、照明はほぼ自然光、撮影期間は15か月にも及んだ。出演者はヴェントゥーラやヴァンダをはじめ、プロの俳優は一人もいない。しかしこの映画をドキュメンタリーか劇映画かを分類することは不可能であり意味がない。ペドロ・コスタにおいては、映画はドキュメンタリーとフィクションの枠を越え、人間についての、土地についての壮大な叙事詩となる。

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ヴァンダの部屋
No Quarto da Vanda
(2000年 ポルトガル/ドイツ/フランス 178分 35mm)
pic 上映日 7/29(日)、31(火)、8/2(木)★3日間 ■監督・脚本・撮影 ペドロ・コスタ
■編集 ドミニック・オーヴレイ
■録音 フィリップ・モレル/マシュー・エンベール

■出演 ヴァンダ・ドゥアルテ/ジタ・ドゥアルテ/レナ・ドゥアルテ/アントニオ・セメド・モレノ/パウロ・ヌネス

■2000年ロカルノ国際映画祭青年批評家賞・スペシャルメンション受賞/2001年山形国際ドキュメンタリー映画祭最優秀賞・国際批評家連盟賞受賞

★1本立て上映です。ラスト1本割引はございません。

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picここは、リスボンの移民たちが住む街。名前は、ヴァンダ。私はここで暮らしている。壊れかけた家々、廃墟、ジャンキー、鳴り響く工事の音…。こんなとこ、悪魔も住まない。でも、ここにいる。太陽が大きく見えるこの場所に。

ゲットーにデジタルカメラを持ち込み、2年間、そこに暮らし、とらえた、捨てられた街と人々の姿。ドキュメンタリー/フィクションという区分を無効にする、あまりにも美しく、濃密な映像と物語、そして時間。

pic 1997年、映画監督ペドロ・コスタはリスボンにあるスラム街、フォンタイーニャス地区を舞台に、ある家族の運命を描いた劇映画『骨』をつくる。その出演者だったヴァンダ・ドゥアルテに「この映画はここで終わるはずがない」と言われたコスタは、その後、再びフォンタイーニャス地区に戻り、続編とも言うべき作品を手掛けた。

暗闇に射し込む一条の光。目を開けていられないくらい眩しい太陽。真っ暗な夜の路地に燃える炎。深い闇に灯るロウソク。小津安二郎を思わせる光とパンクな音響が交錯する――“究極”の映画作家ペドロ・コスタ、日本で初の劇場公開となった傑作。

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何も変えてはならない
Ne change rien
(2009年 ポルトガル/フランス 103分 35mm)
pic 上映日 7/30(月)、8/3(金)★2日間 ■監督・撮影 ペドロ・コスタ
■編集 パトリシア・サラマーゴ
■録音 フィリプ・モレル/オリヴィエ・ブラン/ヴァスコ・ペドロソ
■音楽 ピエール・アルフェリ/ロドルフ・ビュルジェ/ジャック・オッフェンバック

■出演 ジャンヌ・バリバール/ロドルフ・ビュルジェ/エルヴェ・ルース/アルノー・ディテリアン/ジョエル・テゥー

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pic 『そして僕は恋をする』や『恋ごころ』『ランジェ公爵夫人』などに主演し、若手から巨匠まで現代フランスにおける映画作家たちのミューズとして知られるフランス人女優ジャンヌ・バリバール。歌手としても知られるバリバールの音楽活動の軌跡を、ポルトガルの鬼才ペドロ・コスタが独自の視点で映画化した。

picライブリハーサルやアルバムレコーディング、ロックコンサートや歌のレッスン、曲は<ジョニー・ギター>からオッフェンバックの<ペリコール>まで、そして舞台をフランスのサンマリー・オーミン村の屋根裏部屋から東京のカフェへと移しながら、ひとりの女優の持つ様々な表情を、モノクロの美しく力強い映像で見事に捉える。5年にわたり撮影され、完成した本作を見たバリバールは「私のポートレート以上」とのコメントを寄せている。

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あなたの微笑みはどこに隠れたの?
Ou Git Votre Sourire Enfoui?
(2001年 ポルトガル/フランス 104分 35mm)
pic 上映日 7/30(月)、8/3(金)★2日間 ■監督 ペドロ・コスタ
■撮影 ペドロ・コスタ/ジャンヌ・ラボワリー
■編集 ドミニック・オーヴレイ/パトリシア・サラマーゴ
■録音 マシュー・エンベール

■出演 ジャン=マリー・ストローブ/ダニエル・ユイレ

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pic二人組の特異な映画作家であり、夫婦でもあるジャン=マリー・ストローブとダイエル・ユイレは、北フランスのベルギー国境近くのル・フレノワ国立現代芸術スタジオで、1999年秋のワークショップ用に『シチリア!』の第3版の編集を行った。ペドロ・コスタ監督は彼らのその作業過程を、6週間・150時間を費やして記録した。

撮影用の照明は一切用いていない。ストローブ=ユイレのあまりに厳格な編集作業は1日に5から10カットしか進まない。ワークショップ参加者は、初日は30人、翌日は15人、最後は僅か2人だったという。

pic 本作はTV番組「現代の映画シリーズ:映画作家ストローブ=ユイレ」として制作後、残された莫大な素材を元にして劇場公開用に再編集された長尺版である。テレビ放映版で中心に据えられていた映画作家の創作のプロセス・瞬間だけでなく、ときに滑稽でさえあるストローブ=ユイレ夫婦の物語や映画への愛が、膨大な議論や感情のやりとりを通じて描かれる。

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