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ホドロフスキー監督は30年以上にもわたって「キング・オブ・カルト」の異名をとってきました。その呼称は彼の孤高の地位を反映したものである反面、その作品の奇抜さばかり注目される要因になっていたように思います。しかし、近年発表した『リアリティのダンス』『エンドレス・ポエトリー』のおおらかで豊かなイマジネーションは、彼の作品世界が多くの観客にも開かれた、豊かなものであることを見事に証明してくれたと思います。今回は彼の主要作品をまとめて見られる絶好の機会。先入観を捨て、幅広く多様な魅力に満ちた作品群をぜひお楽しみ下さい。

ホーリー・マウンテン
The Holy Mountain
(1973年 アメリカ/メキシコ 113分 ブルーレイ R15+ シネスコ) pic 5/26(土)・29(火)・6/1(金)・4(月)・7(木)上映 ■監督・脚本 アレハンドロ・ホドロフスキー
■製作 アレン・クライン
■撮影 ラファエル・コルキディ
■音楽 アレハンドロ・ホドロフスキー/ホラシオ・サリナス

■出演 アレハンドロ・ホドロフスキー/ホラシオ・サリナス/ラモナ・サンダース/アリエル・ドンバール/ホアン・フェラーラ/アドリアナ・ペイジ

©2007 ABKCO films

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pic とあるどこかの砂漠――キリストに似た盗賊が磔にされている。自力で十字架から降り立った盗賊は、居合わせた小人の男と共に町へ向かう。喧騒の中にある町で、盗賊はキリスト像を売る太った男たちに捕えられ、鏡の部屋に閉じ込められてしまう。

なんとかそこから脱出した彼は、高くそびえる塔を登り、最上階で練金術師の男と出会う。男の持つ錬金術の力を目の当たりにした盗賊は、その技を手に入れるため、“聖なる山”を目指す。そこでは9人の不死の賢者たちが住み、現世を支配しているという。“聖なる山”を襲い、賢者たちから不死の術を奪うため、道中彼らは厳しい儀式を積んでいく。果たして彼らは、山頂に辿り着き、不死を手に入れることが出来るのだろうか。

前作『エル・トポ』のヒットによって予算がアップしたホドロフスキーが、その勢いで自らの美的感性をダイレクトに爆発させた一本。エキセントリックかつものものしいスケールゆえ、『エル・トポ』以上に難解な作品と思われがちですが、個人的にはバカバカしい奇想と豪華絢爛な映像絵巻に圧倒される、サービス満点な娯楽大作といって差し支えないと思います。前作の崇高な美しさすらパロディにしてしまうホドロフスキーの豪胆さは脱帽もの。難しく考えず、素直に身をゆだねて楽しみましょう。

「私は預言者なのかもしれない。いつの日か、孔子やマホメッド、釈迦やキリストが私の元を訪れることを想像することがある」
―――アレハンドロ・ホドロフスキー

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エル・トポ★ラスト1本対象作品
EL TOPO
(1970年 アメリカ/メキシコ 124分 ブルーレイ R15+ スタンダード)
pic 5/26(土)・29(火)・6/1(金)・4(月)・7(木)上映 ■監督・脚本・音楽・美術 アレハンドロ・ホドロフスキー
■製作 アレン・クライン
■撮影 ラファエル・コルキディ

■出演 アレハンドロ・ホドロフスキー/ブロンティス・ホドロフスキー/デヴィッド・シルヴァ/ポーラ・ロモ/マーラ・ロレンツォ/ロバート・ジョン

©2007 ABKCO films

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pic黒装束の流浪のガンマン、エル・トポは、幼い息子を連れ砂漠を行く。行き着いた村は、山賊の襲撃による大虐殺の後で、あたり一面、血の海だった。エル・トポは、修道院に陣取る大佐らを倒すが、大佐の女に心奪われ、息子を残し、最強のガンマンを目指し、砂漠にいる4人の銃のマスターに対決を挑むのだが…。

熱狂的なファンを世界中に生み出したホドロフスキーの代表作。西部劇やアクション、ホラーなど様々なジャンルを横断しながら、いつしか荘厳で神話的な高みにまで上り詰める圧倒的な映像美が観る者をトリップさせます。その型破りな世界観は、ホドロフスキーのヴィジョンの結晶であると同時に、世界中の価値観が大きく変容した60年代後半という製作当時の空気が濃密に閉じ込められています。自らが新進気鋭の詩人だった時代を描いたのが『エンドレス・ポエトリー』でしたが、その才能が映画という形で本格的に花開いたと考えれば、本作は『エンドレス・ポエトリー』の華々しい次章とも言えます。「カルト映画」という色眼鏡ぬきにいまこそ観るべき名作です。

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リアリティのダンス
LA DANZA DE LA REALIDAD
(2013年 チリ/フランス 130分 DCP R15+ ビスタ) pic 5/27(日)・30(水)・6/2(土)・5(火)・8(金)上映 ■監督・製作・脚本・原作 アレハンドロ・ホドロフスキー
■製作 ミシェル・セドゥー
■撮影 ジャン=マリー・ドルージュ
■衣装デザイン パスカル・モンタンドン=ホドロフスキー
■音楽 アダン・ホドロフスキー

■出演 ブロンティス・ホドロフスキー/パメラ・フローレス/イェレミアス・ハースコヴィッツ/クリストバル・ホドロフスキー/アダン・ホドロフスキー/アレハンドロ・ホドロフスキー

■第66回カンヌ国際映画祭監督週間正式出品

©"LE SOLEIL FILMS" CHILE・"CAMERA ONE" FRANCE 2013

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pic1920年代、軍事政権下のチリ、トコピージャ。幼少のアレハンドロ・ホドロフスキーは、権威的で暴力的な共産主義者の父と、アレハンドロを自身の父の生まれ変わりと信じる、元オペラ歌手の母と暮らしていた。ロシア系ユダヤ人であるアレハンドロは色白で鼻が高く、学校でも「ピノキオ」といじめられ、世界と自分のはざまで苦しんでいた…。

pic1995年に事故で息子のテオを亡くしたホドロフスキー監督は、以降、人を癒すためにアートを生み出すようになりました。タロットを研究し、人々が抱える心理的な傷を癒す「サイコマジック」という独自のセラピーを編み出したといいます。そんな現在の芸術観が反映されたのが23年ぶりに発表された本作です。自らの幼年期を描いた自伝的作品ながら、歴史的事実と空想が混然一体と入り乱れ、想像力によって自らの過去の傷を克服しようとするパーソナルな想いに貫かれています。デジタル技術を全編使用することで生まれた若々しい躍動感が世界中を驚かせた、21世紀の新しい代表作です。

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エンドレス・ポエトリー★ラスト1本対象作品
POESIA SIN FIN
(2016年 フランス/チリ/日本 128分 DCP R18+ ビスタ)
pic 5/27(日)・30(水)・6/2(土)・5(火)・8(金)上映 ■監督・製作・脚本 アレハンドロ・ホドロフスキー
■撮影 クリストファー・ドイル
■音楽 アダン・ホドロフスキー

■出演 アダン・ホドロフスキー/パメラ・フローレス/ブロンティス・ホドロフスキー/レアンドロ・タウブ/イェレミアス・ハースコヴィッツ/アレハンドロ・ホドロフスキー

■第69回カンヌ国際映画祭監督週間正式出品

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pic青年アレハンドロは、自分への自信のなさと抑圧的な両親との葛藤に悩み、この環境から脱し何とか自分の道を表現したいともがいていた。ある日、アレハンドロは従兄リカルドに連れられて、芸術家姉妹の家を訪れる。そこでは、古い規則や制約に縛られない、ダンサーや彫刻家、画家、詩人など若きアーティストたちが共に暮らしていた。彼らと接していく中でアレハンドロは、それまで自分が囚われていた檻から、ついに解放される。

pic『リアリティのダンス』で再び映画界に凱旋を果たしたホドロフスキーの最新作。やはり歴史的事実と空想が入り乱れる語り口で描かれるのは彼が故郷のトコピージャから飛び込んだ、チリの首都サンディエゴの芸術シーンです。今よりも文学や芸術が人々の理解を得られなかった時代の中で過激な芸術活動の渦中にいた自らとかつての仲間たちの想い出が、時にユーモラスに、時にノスタルジックに描かれます。これからの自らの姿を新しい世界へ旅立っていった過去の自分に重ね合わせるかのような終盤は特に感動的です。出来ればこれからもずっとずっと彼の新作を待ち望みたい、という思いで胸がいっぱいになります。

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サンタ・サングレ/聖なる血
SANTA SANGRE
(1989年 イタリア/メキシコ 122分 ブルーレイ ビスタ) pic 5/28(月)・31(木)・6/3(日)・6(水)上映 ■監督・原案 アレハンドロ・ホドロフスキー
■製作 クラウディオ・アルジェント
■脚本 アレハンドロ・ホドロフスキー/クラウディオ・アルジェント/ロベルト・レオーニ
■撮影 ダニエーレ・ナンヌッツイ
■衣装デザイン アレハンドロ・ルナ
■音楽 サイモン・ボスウェル

■出演 アクセル・ホドロフスキー/ガイ・ストックウェル/ブランカ・グエッラ/セルマ・ティゾー/サブリナ・デニソン/アダン・ホドロフスキー

©INTERSOUND PRODUCTIONS S.r.l. 1989, ALL RIGHTS RESERVED.

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サーカス団長のオルゴとその妻でブランコの名手コンチャと、息子フェニックス。放蕩者のオルゴは酒びたりで、彼に色目を使う団員“刺青の女”を公然の愛人としてはばからない。一方コンチャは、両腕のない少女像を崇拝する異端の宗派“SANTA SANGRE”の狂信的な司祭でもある。ある日、曲芸中のコンチャがオルゴ達の不倫現場を偶然目にし、憤激した彼女は、オルゴの股間に硫酸を浴びせかけるが、苦痛に呻く夫が手にしたナイフにより両腕を切り落とされ、更にオルゴは、自ら喉を掻き切り自殺する。この惨状を目の当たりにしたフェニックスは、ショックのため精神病院に入院する。何年かが過ぎ、フェニックスは回復できぬまま病院で成人を迎えるが…。

pic実際の事件に取材し長い期間をかけて構想を具現化した本作は、ホドロフスキー作品の中で最も悲劇的であり、同時に最も優しさに満ちあふれた一本です。サーカスやカルト宗教といったモチーフから生まれる残酷さと美しさが入り混じった詩情は、「ホラー映画」の枠組みを借りて描かれることで見事なカタルシスに昇華されています。個人的には何度観ても鳥肌が立ち、嗚咽してしまうマイベスト「泣ける映画」の一本。世界で最も優雅で哀しい二人羽織は必見です(見てなければなんのことやらでしょうが、見たらわかります)!

「この映画は、神の技だ。私は単なる手先にすぎない。神が私に、やらせたのだ」
――アレハンドロ・ホドロフスキー

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ホドロフスキーの虹泥棒★ラスト1本対象作品
THE RAINBOW THIEF
(1990年 イギリス 92分 DCP ビスタ)
pic 5/28(月)・31(木)・6/3(日)・6(水)上映 ■監督 アレハンドロ・ホドロフスキー
■脚本 ベルタ・ドミンゲス・D
■撮影 ロニー・テイラー
■音楽 ジーン・ミュージィ

■出演 ピーター・オトゥール/オマー・シャリフ/クリストファー・リー/ジョアンナ・ディケンズ/イアン・デューリー

©1990 Rink Anstalt
©1997 Pueblo Film Licensing Ltd

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pic ルドルフは飼い犬のダルメシアンにしか興味がない風変わりな大富豪。ある夜、彼の遺産目当ての親族を招いて晩餐会を開いたが、そのさなかルドルフの常連の売春婦達【レインボウ・ガール】が到着する。招待客を差し置いて乱痴気騒ぎをするルドルフだったが、その場で心臓発作になり昏睡状態に陥ってしまう。早くも親族たちは遺産について言い争うが、ルドルフと同じく風変わりな甥のメレアーグラに全ての遺産が渡ってしまうのではないかと気が気では無かった。親族たちのやり取りを聴いてしまったメレアーグラは愛犬クロノスと共にその場を静かに去ってしまう…。

pic『アラビアのロレンス』の伝説のコンビ、ピーター・オトゥール&オマー・シャリーフ主演によるホドロフスキー監督初のメジャー大作。加えて、ドラキュラ伯爵役や『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのクリストファー・リーも印象深い役を怪演しています。ホドロフスキーにしか作れない祝祭的な世界観や、驚くほど素直に綴られる心温まる物語には、職人仕事では片づけられない純粋な映画愛が詰まっています。また本作は『天井桟敷の人々』や『アパートの鍵貸します』で知られる美術監督の巨匠アレクサンドル・トローネルの遺作でもあります。幻想的で迫力満点な渾身の下水道セットにも注目して下さい。

(ルー)

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