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今年、香港は中国返還から21年目を迎えます。早稲田松竹では、そんな香港が激動の直中にあった時代を代表する、名作のリバイバル二本立てを上映します。

フルーツ・チャン監督は、変わりゆく社会からのはぐれ者たちが、翻弄されながらも懸命に生きる姿をつぶさにみつめてきました。監督の長編デビューとなったのが、返還前後を舞台にした『花火降る夏』(1998)『リトル・チュン』(1999)という〈香港返還〉三部作の記念すべき第一作目、『メイド・イン・ホンコン/香港製造』(1997)です。借金取立てやケンカの仲裁など、汚れ仕事に身をやつしながらも、気のいい青年であるチャウ。自殺した少女の遺書を拾ったことをきっかけに、ボーイッシュな少女ペンと不器用な恋に落ちます。しかし、ほどなく二人には残酷な運命が降りかかるのです。

ウォン・カーウァイ監督の真骨頂といえば、スマートかつドライな男女関係を、物憂さと悲しさを醸しつつ映し出すこと。『欲望の翼』を観れば、その手腕が初期に確立されていたことが分かります。1960年の香港を舞台にしつつ、1990年の空気が捉えられた本作で、監督は当時の香港を生きる若者についての映画を作ろうと、その世代を体現する俳優たちを起用しました。綺羅星のようなキャストの中で最も私たちの目を奪うのは、無軌道な伊達男ヨディを演じたレスリー・チャン。レスリーはのちに、自ら命を絶ってしまいました。その悲しすぎる実際の人生の結末は、ヨディのアンニュイさの奥にひそむ、慰めようもない横顔が暗示していたかのように思えて、一層胸を締めつけられるのです。

続編が期待された本作ですが、その後香港はさらに様変わりし、ほとんどのロケ地が失われてしまったそうです。出演した俳優たちも高額ギャラを払わなければならないほどの大スターになったため、『欲望の翼』はこれきりとなってしまいました。だからこそ本作の鍵となる「忘れえぬ大切な一瞬」の如く、多くの観客の心を離れない映画として鮮烈に記憶されることになったのでしょう。

「1960年代でも1990年代でも、同じことが起きていた」とウォン・カーウァイ監督が語っていますが、『欲望の翼』の劇中人物たちの鬱屈と悲哀は、いつの時代でも青春期に抱える感情に他なりません。『メイド・イン・ホンコン/香港製造』で「世界に衝撃を与えるんだ」と叫ぶチャウは、若さゆえに無謀な生き方をしているように見えるかもしれませんが、その衝動は、純粋な青年を切り捨てようとする大人と社会を痛烈に撃つのです。どちらの生き方も、 近年、香港を大きく揺さぶった民主的選挙を求めるデモ、いわゆる「雨傘運動」で立ち上がった多くの若者に通ずるところがあります。

二人の同世代監督による、香港のあの時と現在をつなぐ2本。歳月を感じさせない傑作を、是非ご堪能ください。

(ミ・ナミ)

メイド・イン・ホンコン/香港製造
4Kレストア・デジタルリマスター版

香港製造/Made in Hong Kong
(1997年 香港 108分 DCP PG12 ビスタ) pic 2018年7月21日から7月27日まで上映 ■監督・脚本 フルーツ・チャン
■製作総指揮 アンディ・ラウ
■撮影 オー・シンプイ/ラム・ワーチュン
■音楽 ラム・ワーチュン

■出演 サム・リー/ネイキー・イム/ウェンダース・リー/エイミー・タム

■1998年香港電影金像奨グランプリ(最優秀作品賞)・最優秀監督賞・最優秀新人俳優賞 ほか多数受賞・ノミネート

©Teamwork Production House Ltd./Nicetop Independent Ltd.

今は、もっと生きたい。

pic 1997年、中国返還目前の香港。借金取りを手伝う青年・チャウと弟分のロンは、ベリーショートが魅力的な少女・ペンと出会う。飛び降り自殺した女子学生の遺書を偶然手にしたことを機に、3人のなかで奇妙な友情が芽生え始めるが、それはまた過酷な日々の始まりでもあった。家族を捨てて女に走った父親、両親が作った巨額の借金、容赦のないいじめ…。そして、ペンに淡い恋心を抱き始めたチャウは病に侵されている彼女が余命わずかであることを知る。

行き場を失った少年少女の激しくも美しい衝動を、
返還直前の香港の街の息吹きとともに、
リアルかつスタイリッシュに描いた青春ストーリー

pic1997年、中国返還直後の香港で、新人監督が撮った一本のインディーズ映画が世界を震撼させた――センセーショナルな話題を呼んだ『メイド・イン・ホンコン』は、香港で半年間という異例のロングランヒットとなり、香港電影金像奨(アカデミー賞)グランプリを受賞。さらに海外の映画祭も席巻した。

pic 名優アンディ・ラウから譲り受けたという4万フィートの期限切れのフィルムに焼き付けられたのは、行き場を失った少年少女の眩しいほどの青春の瞬間と、リアルな香港の姿だった。まさに“香港映画史を変えた伝説”が初公開から20年の歳月を経て、「4Kレストア・デジタルリマスター版」で甦る!

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欲望の翼 デジタルリマスター版
阿飛正傳/Days of Being Wild
(1990年 香港 95分 DCP ビスタ)
pic 2018年7月21日から7月27日まで上映 ■監督・脚本 ウォン・カーウァイ
■撮影 クリストファー・ドイル
■美術 ウィリアム・チャン

■出演 レスリー・チャン/マギー・チャン/カリーナ・ラウ/トニー・レオン/アンディ・ラウ/ジャッキー・チュン

©1990 East Asia Films Distribution Limited and eSun.com Limited. All Rights Reserved.

1960年4月16日3時1分前、君は僕といた。
この1分を忘れない――

picサッカー場で客のヨディに話しかけられた売り子スー。ふたりは恋仲となるも、ヨディはスーのもとを去る。彼は実の母親を知らず、そのことが心に影を落としていた。

ナイトクラブのダンサー、ミミと一夜を過ごすヨディ。部屋を出たミミはヨディの親友サブと出くわし、サブはひと目で彼女に恋をする。スーはヨディのことが忘れられず夜ごと彼の部屋へと足を向け、夜間巡回中の警官タイドはそんな彼女に想いを寄せる。

60年代の香港を舞台に、ヨディを中心に交錯する若者たちのそれぞれの運命と恋──やがて彼らの醒めない夢は、目にもとまらぬスピードで加速する。

閃光のごとき衝撃と陶酔――
王家衛の原点にして初期の傑作

pic 『恋する惑星』、『ブエノスアイレス』のウォン・カーウァイ監督が、2作目にして世界的な注目を浴びるきっかけとなった本作。それまでの香港映画と一線を画す、浮遊感と疾走感の入り混じる語り口と映像美や、当時「香港映画史上最初で最後」と言われたほどに豪華なスターたちを起用したキャスティング。そして時制/数字へのこだわりや印象的な音楽──『欲望の翼』はウォン・カーウァイ監督独特のスタイルが確立された原点と言える。

クエンティン・タランティーノや、『ムーンライト』のバリー・ジェンキンスといった監督も影響を公言し、今なお熱烈に支持されるウォン・カーウァイ監督。その色褪せることない傑作群の中でも『欲望の翼』は2005年以降日本での上映権が消失しており、スクリーンでの上映は実に13年ぶり。奇跡の傑作が、制作から28年の時を経て新たな疾走を始める。

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