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あれは一体何だったんだろう…と、観終わってからも尾を引く映画があります。やりすぎなのか、はたまた何かが少なすぎるのか、意味があるのか、ないのか、といろいろな考えがまるで嵐のように過ぎ去っていく、何とも言い表すことのできない強烈な印象を持った作品たち。今週上映する『ひなぎく』『不思議惑星キン・ザ・ザ』はそんな魅力にあふれた、どうにも気になってしまう映画たちです。

『ひなぎく』にはほとんど物語がありません。かわいらしい女の子二人が部屋の中やレストランなどで楽しそうに暴れまわる様子をさまざまなエフェクトを通して映し出します。周りのことなど気にすることなく、自分たちの世界だけで遊び続ける彼女たちは、まるで異星人のようです。

一方、本当に別の惑星に行ってしてしまうのは『不思議惑星キン・ザ・ザ』の登場人物たち。モスクワの街角からキンザザ星雲のプリュク星に一瞬でワープしてしまいます。「クー」という謎のあいさつ、謎の飛行物体、謎の価値観。あまりにも突飛な出来事と、異文化のルールにおもわず笑いがこみあげてきます。

どちらの作品もハチャメチャな人物、ハチャメチャな出来事が次々と映し出されるのですが、それでいてどこかキャッチーで、不思議とマネしたくなってしまうのです。私たちが大人になるにつれて抑え込んでしまう、馬鹿馬鹿しい言動がなんだか解放されているような気がします。他人のお皿から料理を食べてしまったり、両手を広げて「クー」と叫んだりしているのを見ていると、いたずら心や無意味に他人の注意を引きたいというどうしようもない気持ちを刺激されるのです。

それと同時に、意識していない偏見や凝り固まった思考をふと思い出す瞬間もあります。自分では良いと思っていることが、他人にとってはそうではないんだ、とはっとするのです。『ひなぎく』の女の子たち、『不思議惑星キン・ザ・ザ』のプリュク星の人たちとの出会いが、もしかしたら私たちの世界にもある、些細な価値観の違いを許容するきっかけになるのかも…そんな大切なことをこの二つの映画は教えてくれているような、そうではないような…。なかなかはっきりと言い切ることができないところも、この映画たちの愛嬌だと思います。

(ジャック)

ひなぎく
Sedmikrasky
(1966年 チェコ/スロヴァキア 75分 ブルーレイ スタンダード) pic 2017年2月18日から2月24日まで上映 ■監督・原案・脚本 ヴェラ・ヒティロヴァー
■原案 パヴェル・ユラーチェク
■脚本 エステル・クルンバホヴァー
■撮影 ヤロスラフ・クチェラ
■音楽 イジー・シュスト/イジー・シュルトゥル

■出演 イトカ・ツェルホヴァー/イヴァナ・カルバノヴァー

©:State Cinematography Fund

誰だってひなぎくの冠を頭にのっけてる――
いつまでも色褪せない60'sガールズ・ムービーの決定版!

pic 金髪のボブにひなぎくの花冠の姉。こげ茶の髪をうさぎのように結んだ妹。ふたりのおしゃれはAラインのワンピースにピンヒール、ばっちりのアイラインとつけまつげ。ハリウッド女優のようにおしゃれして、さあ男をひっかけにレッツ・ゴー! 食事をおごらせ、踊って歌ってさんざん馬鹿さわぎしたら嘘泣きを決め込んで逃げ出しちゃおう!

picふたりの女の子のハチャメチャぶりが退屈な日常をブッ飛ばす、60年代チェコ発ガールズ・ムービーの決定版! 彼女たちは共にマリエと名乗るが、嘘の名前だし、姉妹かどうかもよく判らない。部屋の中で、牛乳風呂を沸かし、紙を燃やし、ソーセージをあぶって食べる。グラビアを切り抜き、ベッドのシーツを切り、ついにはお互いの身体をちょん切り始め、画面全体がコマ切れになる。色ズレや、カラーリング、実験的な効果音や光学処理、唐突な場面展開など、あらゆる映画的な手法が使われ、衣装や小道具などの美術や音楽のセンスも抜群。

pic 監督は「チェコ映画のファーストレディ」と称されるヴェラ・ヒティロヴァー。イジー・メンツェルやミロシュ・フォアマンなど共に、チェコ・ヌーヴェルヴァーグの代表的な監督である。プラハの春以降、政府に目をつけられ活動できなくなった時期もあったが、2014年に亡くなるまで多くの作品を発表した。

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不思議惑星キン・ザ・ザ
Кин-дза-дза!
(1986年 ソ連 135分 ブルーレイ スタンダード)
pic 2017年2月18日から2月24日まで上映 ■監督・脚本 ゲオルギー・ダネリア
■脚本 レヴァス・ガブリアゼ
■撮影 バーヴェル・レヴェシェフ
■音楽 ギア・カンチェリ

■出演 エヴゲーニー・レオノフ/ユーリー・ヤコヴレフ/スタニスラフ・リュブジン/レヴァン・ガブリアゼ

© Mosfilm Cinema Concern, 1986

20世紀に誕生した映画の伝説!
米国では『スター・ウォーズ』、
ソ連では『不思議惑星キン・ザ・ザ』

picモスクワ、冬。技師マシコフは、街頭で青年に「自分のことを異星人だという男がいる」と声をかけられる。彼は青年と共に、その自称異星人と言葉を交わすが、男の手の中にあった「空間移動装置」を押してしまった。その瞬間、マシコフと青年は砂漠の真ん中にワープする。見知らぬ地で途方に暮れる二人。そんな時、奇妙な音を立てて宇宙船がやって来た。中から出てきたのは小汚い二人の男。と、檻を出して妙な音を出して踊り始めた。どうやら「クー」と言っているらしいが…。

pic 『不思議惑星キン・ザ・ザ』は1986年、完成時の試写では批評家から不評だったが、公開されるや若者の圧倒的な支持により、ソ連全土で1520万人という驚異的な動員を成し遂げた作品だ。

ゲオルギー・ダネリア監督は、ジョージアのトビリシ出身のロシアを代表する映画監督。『不思議惑星キン・ザ・ザ』のアニメーション版(100分)を2013年に製作し、同年、ロシアで公開している。

釣鐘型宇宙船に乗って現れる<クー>な二人、太めのウエフを演じたエヴゲーニー・レオノフと、のっぽのビー役のユーリー・ヤコヴレフは、共にロシア演劇界の重鎮だったが、レオノフは1994年、ヤコブレフは2013年に亡くなった。技師マシコフ役のスタニスラフ・リュブシンは2015年にも舞台で元気な姿を見せている。また、ゲデバン役のレヴァン・ガブリアゼは現在、映画監督として活躍。『エターナル 奇蹟の出会い』『アンフレンデッド』が日本でも公開された。

全編を通して流れる、気が抜けて人を食ったような、不思議な音楽は、ダネリヤ監督と同郷のジョージア出身のギア・カンチェリが手掛けた。カンチェリは、世界的に人気の作曲家であるが、映画音楽は本作のみである。

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