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60年代のハリウッドは激震していました。国内で激しさを増した公民権運動や泥沼化したベトナム戦争の映像、そしてフランスのヌーヴェルバーグやビートルズを筆頭とした新しいカルチャーの流れは、リッチでゴージャスで疑いようもなく世界最強だったはずのハリウッド映画神話を、すっかり時代遅れにしてしまったのです。それは映画会社にとっては危機的状況でしたが、同時にハリウッドが「アメリカとは何か」を内省的に見つめる歴史的転換期を迎えたことも意味しました。

そんな60年代の末に生まれた『イージー・ライダー』は、アメリカ映画が完全に新しい時代を迎えたことを象徴する作品です。一方、その制作当時に起きていたベトナム戦争を描いた10年後の『地獄の黙示録』は(劇中で使用されるドアーズの楽曲になぞらえれば)、その時代もまた「ジ・エンド」し、新しいフェーズに入ることを暗黙のうちに告げた作品です。

イージー・ライダー
EASY RIDER
(1969年 アメリカ 95分 Blu-ray ビスタ) pic 2017年5月6日から5月12日まで上映 ■監督・脚本 デニス・ホッパー
■製作・脚本 ピーター・フォンダ
■脚本 テリー・サザーン
■撮影 ラズロ・コヴァックス
■音楽 ザ・バーズ

■出演 ピーター・フォンダ/デニス・ホッパー/アントニオ・メンドーサ/ジャック・ニコルソン

■1969年アカデミー賞助演男優賞・脚本賞ノミネート/1969年カンヌ国際映画祭新人監督賞・国際エヴァンジェリ映画委員会賞受賞・パルムドールノミネート ほか多数受賞・ノミネート

★本編はカラーです。

伝説のチョッパーバイクと爆発するロック!
アメリカの心と、人間の自由を旅に求めた男たち

pic メキシコからマリファナを密輸して大金を得たキャプテン・アメリカとビリーは大排気量の特製オートバイを買って計画のない旅に出る。ロスアンジェルスから、一路南部に向かってオートバイを走らせる二人は途中、集団生活をしているヒッピー部落に立ち寄って、拒絶されたりし、ラスベガスにはいる。ここで許可なしにパレードに参加し留置されてしまう。留置場で酔っ払いの弁護士ジョージ・ハンソンと知り合い、今度は三人で謝肉祭を見にニューオーリンズへ向かう。そして一行はそこで、現代アメリカの乾燥し切った現実の姿に出会うことになる。

pic本作は真の意味で画期的な作品でした。アメリカンニューシネマと称された『俺たちに明日はない』や『卒業』などの先行作品が、実はスタジオ監督の巧みな演出力に支えられた作品だったのに対し、当時は単なるB級映画俳優だったデニス・ホッパーやピーター・フォンダの極めて個人的な衝動とヴィジョンに裏打ちされた作品だったからです。そして、それがどんな大作よりも世界的に大ヒットしてしまったのです。

カウンターカルチャーのアイコンとなった本作ですが、実は一般的にイメージされているほど反体制思想が前面に出た作品ではないと思います。主演兼監督のホッパーの服装は時代遅れのカウボーイスタイルであり、フォンダのニックネームはずばりキャプテン・アメリカだからです(キャプテン・アメリカは戦時中にナチズムに対抗するために軍が生み出したコミック・ヒーローの名前です)。彼らはアメリカが肯定してきた自由や平等を信じていただけなのです。しかし、彼らを待っていたのは差別と不寛容にまみれたアメリカの実態でした。

生々しくアメリカの断片をドキュメンタリーのように写しとる映像、ロックや前衛的表現がぶつかり合う事で生まれた特異なスタイルは、洗練されていないからこそ理想と現実に引き裂かれていた当時のアメリカをあまりにもリアルに焼きつけています。その成功は、ひょっとしたらホッパーの当初の思惑すら超えていたのかもしれません。美しいまでの楽天性とペシミズムを湛え、時代を超えた奇跡的な一本です。

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地獄の黙示録
劇場公開版<デジタル・リマスター>

APOCALYPSE NOW
(1979年 アメリカ 147分 DCP シネスコ)
pic 2017年5月6日から5月12日まで上映 ■監督・製作・脚本・音楽 フランシス・フォード・コッポラ
■脚本 ジョン・ミリアス
■撮影 ヴィットリオ・ストラーロ
■音楽 カーマイン・コッポラ

■出演 マーロン・ブランド/ロバート・デュヴァル/マーティン・シーン/フレデリック・フォレスト/アルバート・ホール/サム・ボトムズ/ローレンス・フィッシュバーン/デニス・ホッパー

■1979年アカデミー賞撮影賞・音響賞受賞、ほか作品賞含む6部門ノミネート/1979年カンヌ国際映画祭パルムドール・国際映画批評家連盟賞受賞/1979年ゴールデン・グローブ賞助演男優賞・監督賞・音楽賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート

©1979 Omni Zoetrope. All Rights Reserved.

血まみれの歴史に「ジ・エンド」を!
1979年のカンヌ国際映画祭を震撼させたグランプリ作が
戦いの意義をいまふたたび問いかける

picベトナム戦争後期。陸軍空挺士官のウィラード大尉は、軍上層部に呼び出され、元グリーンベレー隊長のカーツ大佐への処罰指令を受ける。カーツ大佐は米軍の意向を無視して山岳民族の部隊とともに国境を越え、カンボジアに王国を築いているらしい。

特殊任務のため、若い4人の乗組員に目的地を知らせぬまま大河を遡行するウィラード一行は、王国に向かうにつれ戦争の狂気を目の当たりにする――。

pic 『イージー・ライダー』の主人公たちが明日をも知れぬまま放浪していた同時期に、ベトナムの戦場では沢山の米兵とそれを上回るベトナム人の死者たちが溢れていました。この酸鼻極まる戦争の本質に、これもある意味監督の当初の意図すら大きく超える形で肉薄してしまったのが『地獄の黙示録』です。

本作のフィリピンでの撮影は文字通りの地獄でした。度重なるトラブルのせいで当初予定していた撮影日数は大幅に超過し、膨大になった製作費のためにコッポラ監督は私財の全てを投入せざるを得なくなります(本作の撮影を追ったドキュメンタリー『ハート・オブ・ダークネス』には、あまりの過酷さに半ば狂気に侵されたコッポラとスタッフたちの姿が生々しく記録されています)。その混沌はフィルムにも焼き付けられました。ベトナム戦争の悪夢をそのまま体現してしまったような静謐と轟音、正常と狂気が揺らぐカオスな本作の禍々しさを拭い去ろうとするかのように、80年代のハリウッドはエンターテインメント性を重視した大作路線にシフトチェンジしていきます。

様々に解釈され議論の的になってきた本作ですが、個人的には「反戦」や「タカ派」などのレッテルを無効にするほどに、戦争の悲惨さだけでなく愚かな浪費や破壊のデモーニッシュな快楽をも描き出すことに成功したところにこの作品の価値があると思います。 なぜ人は、そしてアメリカは戦争を止められないのか。その答えの一端が本作には示されています。映像と戦争の時代だった20世紀を代表する歴史的大作です。(ルー)

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