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「映画で世界が変わるとは思わない。けれど、きっかけにはなる。」
――ジャン=フランコ・ロージ
(『海は燃えている 〜イタリア最南端の小さな島〜』パンフレットより)

テレビやネットを見れば、24時間どこでも、いま世界で起こっている大抵のことを知ることができます。けれど、現実であるはずのニュース映像は、時として自分とはなんら関わりのないことだと感じてしまうことはないでしょうか。

空港や地下鉄で自爆テロが起こった、アフリカの内戦で何千人が犠牲となった、イギリスがEU離脱を決めた…その時は心を痛めたり漠然と不安になったりするけれど、翌日には自分の日常のことで精一杯になってしまう。

マニュアル的に表示される文字や画よりも、1本の映画を観て、遠い場所の遠い出来事が、まるで自分の隣で起こっているかのように深く理解できることがあります。映画の中の一場面や台詞がいつまでも心の中に残り、ずっと忘れられなくなるのです。今週の上映作品はまさにそんな作品だと思います。

年間5万人もの難民・移民が辿り着くイタリア最南端の島を舞台にしたドキュメンタリー『海は燃えている』と、理不尽な仕組みによって国の援助を受けられず生活に困窮する人々を描いた『わたしは、ダニエル・ブレイク』。ドキュメンタリーとフィクションの境を越えて、現代社会の現状や問題を、静かに、けれど真っ直ぐ力強く捉えています。

『海は燃えている』のランペドゥーサ島では、島民と難民の生活が交わることはほとんどありません。のんびりとした平和な島の暮らしと、命をかけてやってくる難民たちの厳しい旅。同じ場所で起こっていることとはにわかに信じられません。でも、島にたったひとりの医師が、島民と難民を分け隔てなく診療する時、このふたつの日常がすぐ隣にあることに気が付きます。

『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、セーフティネットからこぼれ落ちてしまう人々を描いています。助けてくれるはずの行政が、むしろ彼らの生活を一番に苦しめる。誰にでも当たり前に手にするべき「衣食住」すら残酷に奪ってしまいます。

両作品は決して「社会派」「政治的」な映画ではありません。なぜなら、出来事を形式的に描くのではなく、個人の生活や感情を見つめているからです。社会に対する怒りと優しさ、人生の厳しさと美しさ。監督が作品に込めるのはとても普遍的なテーマです。

『海は燃えている』の冒頭、無線から助けを求める難民船に対して、沿岸警備隊がこう問うシーンがあります。

「What's your position? (あなたの位置は?)」

これは観客へ投げかけられる問いでもあります。
「あなたはどう考えますか? あなたならどうしますか?」
その瞬間からもう、私たちは無関心ではいられなくなるはずです。

世界に、隣人に関心をもつこと。
受け入れること。手を差しのべること。
“いま”を、鋭くも愛情をもって見つめる二本の映画をお届けします。

(ぱずー)

海は燃えている
〜イタリア最南端の小さな島〜

Fuocoammare
(2016年 イタリア/フランス 114分 DCP ビスタ) pic 2017年9月2日から9月8日まで上映 ■監督・製作・撮影 ジャンフランコ・ロージ
■製作 ドナテッラ・パレルモ/セルジュ・ラルー&カミーユ・レムル/ロベルト・チックット/パオロ・デル・ブロッコ/マルティーヌ・サーダ&オリヴィエ・ペール
■編集 ヤコポ・クワドリ

■第66回ベルリン国際映画祭金熊賞(グランプリ)ほか3部門受賞/第89回アカデミー賞外国語映画賞イタリア代表 ほか多数受賞

©21Unoproductions _ Stemalentertainement _ LesFilmsdIci _ ArteFranceCinéma

ぼくたちは生きている。
悲劇のすぐそばで。

pic イタリア最南端の島、ランペドゥーサ島。海へ出る漁師、刺繍に励む老女、音楽を流すDJ…12歳の少年サムエレは手作りのパチンコで遊び、島の人々はどこにでもある毎日を生きている。しかし、この島にはもうひとつの顔がある。アフリカや中東から命がけで地中海を渡る難民・移民の玄関口なのだ。島の生活と難民たちの悲劇は決して交わることがなく、彼らを結ぶのは、島でたったひとりの医師のみ。島民を診察する傍ら、難民たちの死にも立ち会う。やがて、左目の弱視が見つかった少年サムエレは左目の視力を上げるために、右目を隠し矯正メガネをつける。まるで、今まで見えていなかったもうひとつの目で、未知の世界を見るように──。

ベルリン、ヴェネツィアをドキュメンタリー映画で
初めて制した名匠ジャンフランコ・ロージ。
難民のいる世界を静かに見据える衝撃のドキュメンタリー!

picランペドゥーサ島へ1年半の間移り住み、島の“真の姿”を描き出したジャンフランコ・ロージ監督。無邪気な少年サムエレの笑顔、過酷な海の旅を経て島にやって来た難民の涙…小さな島の中には死があり、そして生がある。それぞれのストーリーが詩情あふれる映像で綴られ、その静かな衝撃が心を揺さぶる。

pic 本作は2016年のベルリン国際映画祭で金熊賞(グランプリ)を獲得。ロージ監督は前作『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』でのヴェネチア国際映画祭金獅子賞(グランプリ)に続き、二作連続、ドキュメンタリー初の世界三大映画祭で最高賞受賞という快挙を成し遂げた。審査員長のメリル・ストリープは「現代を生きる私たちに必要な映画。この映画が世界中で公開されるためならどんなことでもする」と応援、当時のイタリア首相マッテオ・レンツィも、EU首脳会談で「人々を数ではなくひとりひとりの人間として描いている。この映画を観たら、違った視点での議論ができるはず」と、DVDを全首脳に手渡した。

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わたしは、ダニエル・ブレイク
I, Daniel Blake
(2016年 イギリス/フランス/ベルギー 100分 DCP ビスタ)
pic 2017年9月2日から9月8日まで上映 ■監督 ケン・ローチ
■製作 レベッカ・オブライエン
■脚本 ポール・ラヴァティ
■撮影 ロビー・ライアン
■音楽 ジョージ・フェントン

■出演 デイヴ・ジョーンズ/ヘイリー・スクワイアーズ/ディラン・フィリップ・マキアナン/ブリアナ・シャン/ケイト・ラッター/シャロン・パーシー/ケマ・シカウズウェ

■第69回カンヌ国際映画祭パルムドール

© Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinema and The British Film Institute 2016

人生は変えられる。
隣の誰かを助けるだけで。

picイギリスで大工として働く59歳のダニエル・ブレイクは、突然、心臓の病におそわれ医師から働くことを止められる。ダニエルは国の援助を受けようとするが、複雑に入り組んだ制度に押し潰されそうになる。そんな中、シングルマザーのケイティに出会い、二人の幼い子供を抱えて仕事もない彼女を何かと手助けするダニエル。やがて彼らの間に、家族の様な温かな絆が生まれていく。しかし、容赦ない現実が彼らを待ち受けていた――。

<今>を懸命に生きようとする人々に
寄り添い続けるケン・ローチ監督が
人間の尊厳と優しさを描く集大成にして最高傑作

pic 前作の『ジミー、野を駆ける伝説』を最後に映画界からの引退を表明していた、イギリスを代表する巨匠ケン・ローチ監督。しかし、現在のイギリス、そして世界中で拡大しつつある格差や貧困にあえぐ人々を目の当たりにし、今どうしても伝えたい物語として引退を撤回してまで制作されたのが本作『わたしは、ダニエル・ブレイク』である。

複雑な制度に翻弄され、人としての尊厳を踏みにじられ貧困に苦しみながらも、助け合い生きていこうとするダニエルとケイティ親子との心の交流が世界中を感動と涙で包み込み、カンヌ国際映画祭では、見事、『麦の穂をゆらす風』に続く2度目のパルムドールを受賞した。労働者や社会的弱者に寄り添い、彼らを取り巻く厳しい現実と、それでも今日を懸命に生きようとする人間たちを描き続けてきたケン・ローチ監督の集大成であり最高傑作との声が相次いでいる。

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