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サタジット・レイ

1921年インド・カルカッタ(現コルカタ)生まれ。祖父・父ともにインドを代表する児童文学者として知られる由緒ある一家に生まれ育つ。インドの名門プレジデンシー・カレッジで経済学を修めた後、タゴール大学へ進学。1943年、イギリス系広告会社に就職、グラフィックデザイン制作に携わり、本の表紙からポスター、挿絵も手がけるようになる。

1949年、『河』の撮影のためにカルカッタを訪れた映画監督ジャン・ルノワールのロケを補佐。1955年、いわゆる「オプー三部作」の第一作目で、監督デビュー作となる『大地のうた』を発表。同作はカンヌ国際映画祭ベスト・ヒューマン・ドキュメント賞を受賞。さらに続く『大河のうた』ではヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞。1959年には三部作の完結編『大樹のうた』を完成し、レイは世界的な映画監督として知られるようになる。

キャリアの中期の『ビッグ・シティ』('64)と『チャルラータ』('65)では2年連続でベルリン国際映画祭監督賞を受賞。その後もドキュメンタリーからミュージカル、ファンタジーからSFまで幅広いジャンルの作品を送り出した。映画制作以外にも親子3代にわたる児童文学作家及び小説家として、あるいは音楽家として、またカリグラファーとして4つの書体をデザインした事でも知られる。

1973年に『遠い雷鳴』でベルリン国際映画祭金熊賞受賞、1987年にはフランスのレジオンドヌール勲章、1992年にはアカデミー賞特別栄誉賞を授与された。イギリスのSight & Sound誌は、あらゆる時代を通じての映画監督ベスト10の中にレイを挙げている。

1992年死去、享年70。生涯で36本の監督作品を残した。

filmography

・河('51)※助監督
・大地のうた('55)
・大河のうた('56)
・音楽ホール('58)
・哲学者の石<未>('58)
・大樹のうた('59)
・女神<未>('60)
・三人娘<未>('61)
・詩聖タゴール('61)
・カンチェンジュンガ<未>('62)
・遠征<未>('62)
・ビッグ・シティ/大都会('63)
・チャルラータ('64)
・ふたり<未>('64)
・臆病者と聖者<未>('65)
・英雄<未>('66)
・動物園<未>('67)
・グピとバガの冒険<未>('68)
・森の中の昼と夜<未>('69)
・対抗者<未>('70)
・株式会社('72)
・シッキム<未>('71)
・心の眼('72)
・遠い雷鳴('73)
・黄金の城塞<未>('74)
・ミドルマン('75)
・バーラ<未>('76)
・チェスをする人('77)
・消えた象神<未>('78)
・ダイヤモンドの王国<未>('80)
・ピクー('81)
・遠い道('81)
・家と世界<未>('62)
・シュクマル・レイ<未>('87)
・民衆の敵<未>('89)
・枝分かれ<未>('90)
・見知らぬ人('91)

インド映画といえば、歌って踊ってとにかく盛り上がる、いわゆるボリウッド・ムービーを思い出されるでしょうか。それらを想像してサタジット・レイ監督の作品を観ると、もしかしたら少し拍子抜けしてしまうかもしれません。なぜなら彼の映画は、歌も踊りもない、とても静かな映画だからです。けれど、1955年に『大地のうた』でデビューしたレイ監督の数々の作品は、世界中で驚きをもって絶賛されました。黒澤明監督は「レイの映画を見た事がないとは、この世で太陽や月を見た事がないに等しい。」と言ったほどです。今週は、インドの巨匠サタジット・レイ監督の、中期の傑作である『チャルラータ』『ビッグ・シティ』を上映いたします。

レイ監督の故郷であり、生涯撮り続けた都市・カルカッタを舞台に、イギリス統治下の19世紀末、豪邸に暮らす若くて美しい妻・チャルラータの心の機微を描く『チャルラータ』と、第二次大戦後の経済成長期の街で力強く生きる女性・アラチとその家族を見つめる『ビッグ・シティ』。両作とも女性が主人公の作品です。

演じるのはどちらもマドビ・ムカージーという女優。彼女の凛とした美しさが映画の大きな魅力です。贅沢暮らしをしながらも退屈な日々を過ごすチャルラータと、家計を助けるためセールスレディとして働き出すアラチ。同じ女優が演じているからこそ、その対比が浮かび上がってきます。レイ監督は、恋をしたり外で働いたり、家のなかで閉じ込められていた女性が自由になる瞬間を、心情に寄り沿った丁寧なカメラワークで鮮やかに切り取ります。

また、レイ監督の映画の“豊かさ”は人物描写だけではありません。彼の映画では、雨や風といった自然現象、動物や草花、さらには本や刺繍などモノのひとつひとつが意味を持っているのです。孤独なチャルラータの心を色づかせる青年・アマルが現れる時、突然の嵐がやってきます。アラチの自立心を象徴するのは、サングラスや同僚からもらった口紅です。端々に見つけることができる繊細な描写が、映画を豊かに彩ります。特別なことはなにも起こらないのに、すべてが特別に見えてしまう魔法。『グランド・ブダペスト・ホテル』のウェス・アンダーソン監督が、レイ監督の大ファンだという理由はそこにあるような気がします。

監督だけでなく、作曲や、自作のポスタービジュアル、レタリングなども手掛けたサタジット・レイ監督。50年前のインド映画と思っていると、その洗練されたセンスに驚くはず。唯一無二のマルチな才能が堪能できる二本立てです。

(パズー)

ビッグ・シティ
MAHANAGAR
pic (1963年 インド 131分 DCP SD)
2016年1月30日-2月5日上映

■監督・脚色・音楽 サタジット・レイ
■原作 ナレンドラナート・ミットラ
■撮影 シェブラト・ミットロ
■美術 ボンシ・チャンドログプタ

■出演 マドビ・ムカージー/アニル・チャタージー/ハラドン・バナジー/セファリカ・デビ/ジョヤ・バドゥリ(現ジャヤー・バッチャン)/プロセンジット・シルカ/ハレン・チャタージー/ビッキー・レッドウッド

■1964年ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞

★デジタルリマスター版での上映です

移り変わるインドの大都会カルカッタ!
因習に抗するウーマンリブの芽ばえを
鬼才サタジット・レイは鋭くとらえた!!

pic1953年のカルカッタ。病気の父親を抱えながら、しがない稼ぎしかない銀行の係長であるシュブラトを夫に持つ妻アラチは、あまりにも苦しい家計をみかねて働きに出ようとする。まだ主婦が外で働くことが一般的でない時代。同居する夫の父の制止を振り切って、上流家庭に編み機を営業して回るようになる。

はじめは苦労するものの、やがて営業の才能を発揮するアラチは、次第に自信を身につけていく。そんなアラチの姿を、夫である面目を保てず、内心気が気でなく見つめるシュブラト。2人の関係にも次第に変化が生じてきていた。そんなある日、シュブラトの銀行が倒産してしまい…

pic原作はナレンドラナート・ミットラの中篇小説。サタジット・レイ監督が脚色・監督・音楽を一人で兼ねている。日常的な動作の一つ一つ、会話の一語一語にも、これこそ第二次世界大戦後のカルカッタの現実だというものが、サタジット・レイ監督の細緻な観察と行き届いたタッチで赤裸々に描き出されている。

主演のマドビ・ムカージーは、この映画で初めてレイ作品のヒロインに選ばれた。彼女の美しさと勘のいい演技がレイの心を捉え、次の『チャルラータ』に主演することになった。その夫を演じるのはレイのお気に入りの俳優アニル・チャタージー。

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チャルラータ
CHARULATA
pic (1964年 インド 119分 DCP SD)
2016年1月30日-2月5日上映
■監督・脚色・音楽 サタジット・レイ
■原作 ラビンドラナート・タゴール
■撮影 シュブラト・ミットロ
■美術 ボンシ・チャンドログプタ

■出演 マドビ・ムカージー/ショウミットロ・チャタージ/ショイレン・ムカージー/シャモル・ゴーサル/ギータリ・ロイ/シュブラト・セン

■1965年ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞/1965年アカプルコ国際映画祭最優秀賞受賞/1964年インド国際映画祭最優秀賞受賞

★デジタルリマスター版での上映です

豪華な邸宅の奥深く
若く美しいチャルラータ夫人の胸は
秘められた恋にときめく!

pic1880年のカルカッタ。若く美しい妻チャルラータは、新聞社の編集長であり社長でもあるブポティを夫にもち、何ひとつ不自由ない生活を送っていた。しかし、年中多忙な夫は、ほとんど妻の相手をしようとしない。仕方なく、日がな刺繍をしたり小説を読んだりして寂しい毎日を送っていた。

そんな中、大学の休暇で夫の従弟であるアマルが訪ねて来る。詩を口ずさみ、文学に詳しいアマルの出現は、チャルラータにとって生きる喜びだった。また、アマルもチャルラータが並々ならぬ文才をもつことに気づき、ほのかな想いを抱き始める。しかし、ある日、新聞社の経理が社の金を持ち逃げしたことを契機に、3人の関係に大きな変化が訪れる…

pic 『チャルラータ』は監督本人が最高傑作と語り、ウェス・アンダーソン監督らも大ファンを公言するほど。富裕な夫を持ち、大邸宅に暮らす妻の孤独と芸術への目覚めを、詩的で美しい映像の数々とともに描く。原作は、ノーベル文学賞に輝くインドの文豪タゴールの長編小説「こわれた巣」。レイが脚色し音楽も担当している。主演マドビ・ムカージ―の相手役には『大樹のうた』のショーミットロ・チャタージー。

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