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今週の早稲田松竹は『ほとりの朔子』『祖谷物語―おくのひと―』の二本立て。

第26回東京国際映画で公開されたのを皮切りに、世界各国の映画祭で数々の賞を受賞した2作品。
インディペンデント映画でありながら、2014年を通して世界中で上映され、
多くの評判を呼んだ作品が、ついに早稲田松竹へやってきました。

【山の奥。海のほとり。】

いまも昔ながらの暮らしを続ける『祖谷物語』のお爺。
そして、それぞれの生活を抱えながら海辺の町で暮らす『ほとりの朔子』の人々。
ずっと変わることのなさそうなこの場所に、どこかからか訪問者が現れる。

東京の生活を捨て、祖谷の山奥に流れ着いた工藤という青年がそうだとすれば、
夏休みを過ごす朔子や福島から避難してきた孝史もまた、この海辺の町では異邦人だ。

ある意味で“よそ者”の目を通して描かれる、
その場所でいま起きていることや、暮らしや関係性のなかで悩みながら暮らしていく人々の姿。
そこには一筋縄ではいかない問題ばかり浮かんでくる。

「わたしはずっとここでお爺と一緒におってええよな?」

山では、トンネル開通を祝う村人と、それに反対する自然保護活動を行う団体が衝突している。
しかし同時に村人は過去の拡大造林によって増えた動物たちに畑を荒らされている。
有害駆除の名の元に、その動物たちを撃つ姿はそこに暮らす人々にとっては普通のことでも、
初めて見る人たちにとってはやはりショックだ。
山で起きる複雑な問題はそこにいる人たちをそのままではいさせてくれない。
それは山奥でのお爺と春菜の暮らしも同じだ。

「日本にも困っている人がいるのに、なぜ外国のことを調べたり、助けたりするの?」

海辺の町で、朔子を取り巻く大人たちのこじれた人間関係も、彼女を明るい気分にはさせてくれない。
インドネシア地域研究家の叔母との話や、震災で被災した孝史を巡るエピソード。
そのどれもが、わたしたちに世の中の複雑さを気づかせる。
朔子は、大学受験に失敗し宙ぶらりんな状態なまま、
日常のなかで感じる違和感やささいな感情を少しずつ積み上げていく。

私たちは彼女たちの問いに簡単に答えることができない。
18歳の少女たちがいまここで、誰かの気持ちや自分のことを問いながら発見する世界の断片。
彼女たちのまなざしとともにそれを見据えながら、私たちにできることはなんだろう。

山の奥や海のほとりを飛び越えて、いまここで起こっていることが、
別の山で、別の町で、別のどこかで起こっている。
そんな想像力、世界の見方が2つの映画を普遍的かつ瑞々しい青春物語にしているのだ。

世界中の人々にもっともっと届け! 日本インディペント発の2作品。
皆さまにも是非、ご覧いただければと思います。

(ぽっけ)

祖谷物語―おくのひと―
(2013年 日本 169分 35mm シネスコ/SR) pic 2015年2月28日から3月6日まで上映
■監督・脚本・編集 蔦哲一朗
■脚本 河村匡哉/上田真之/竹野智彦
■撮影 青木穣
■照明 中西克之
■録音 上條慎太郎

■出演 武田梨奈/田中泯/大西信満/村上仁史/石丸佐知/クリストファー・ペレグリニ/山本圭祐/小野孝弘/美輪玲華/城戸廉/森岡龍/河瀬直美

■東京国際映画祭「アジアの未来」部門スペシャルメンション/トロムソ国際映画祭コンペティション部門グランプリ受賞/香港国際映画祭ヤングシネマコンペティション部門審査員特別賞受賞/第6回TAMA映画賞特別賞受賞/パンアジア映画祭最優秀作品賞受賞

それでも少女は、
山で生きたいと思った。

pic日本最後の秘境、徳島県・祖谷――。ある夏の日、東京からやって来た青年・工藤は、自然豊かなこの田舎村で、自給自足生活を始めようとしていた。ところが、一見平和な村では、地元の土建業者と自然保護団体との対立や、鹿や猪といった害獣から畑を守ろうとする人々と獣の戦いなど、様々な問題が起こっていた。

そんな中、工藤は人里外れた山奥でひっそりと暮らすお爺と春菜に出会う。電気もガスもなく、物もほとんどない質素なこの家の生活は、時間がとまったかのようにゆっくりしている。効率とは無縁の2人の生活は、工藤の心をゆっくりと浄化していく。しかし、季節が巡るにつれ、おとぎ話のようなお爺と春菜の生活にも変化が起きるのだった…。

35oフィルムで綴る、
美しき故郷のものがたり。

pic監督は、舞台となった徳島県出身の蔦哲一朗。デジタル化に堂々と反旗を翻し、本作においても、完全35mmフィルムでの撮影を敢行。デジタル化が浸透していく映画業界の逆風に屈することなく、世界の映画に引けを取らない映像美を実現した。東京を除く全てのシーンをオール徳島で撮影し、若草萌える春から雪に閉ざされた冬まで、四季折々の表情を見せる祖谷を克明に記録した。揺れ動く人々の心情を温かに綴った物語は、誰の中にも眠る “心の故郷”を呼び覚まし、時空を遡ったかのような体験をさせてくれる。

pic主人公・春菜を演じるのは、数多くの本格アクション映画で主演を務める武田梨奈。本作ではアクションを完全封印し、忍び寄る時代の変化や将来の不安に揺れ動く心の機微を巧みに表現。演技派女優としての新境地を披露する。お爺役には、ダンサー・俳優として国内外を問わず活動し、『たそがれ清兵衛』では日本アカデミー賞に輝いた田中泯。青年・工藤役には、『キャタピラー』『さよなら渓谷』など、全身全霊の演技で映画界を揺るがしてきた大西信満と、これ以上ない豪華キャストが出揃った。

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ほとりの朔子
(2013年 日本/アメリカ 125分 DCP SD) pic 2015年2月28日から3月6日まで上映
■監督・脚本・編集・コプロデューサー 深田晃司
■プロデュース・出演 杉野希妃
■撮影 根岸憲一
■音楽 Jo Keita

■出演 二階堂ふみ/鶴田真由/太賀/古舘寛治/大竹直/小篠恵奈/渡辺真起子/志賀廣太郎/松田弘子/想田和弘

■ナント三大陸映画祭2013グランプリ受賞・若い審査員賞受賞/タリンブラックナイト映画祭2013最優秀監督賞受賞

★英語字幕つきでの上映となります。

あの頃、ほとりにいたすべての人に。
18歳の夏物語。

pic大学受験に失敗し、現実逃避中の朔子。叔母・海希江の誘いで、旅行で留守にするというもう一人の伯母・水帆の家で、夏の終わりの2週間を過ごすことになった。朔子は、美しく知的でやりがいのある仕事を持つ海希江を慕い尊敬していたし、小言ばかりの両親から解放される海辺の街のスローライフは、快適なものになりそうだった。

pic朔子は海希江の紹介で古馴染みの兎吉や娘の辰子、そして甥の孝史と知り合う。小さな街の川辺や海や帰り道で会い、語り合ううちに二人の距離が縮まっていく。朔子は孝史をランチに誘うが、その最中、彼に急接近する同級生・知佳から連絡が入り、浮足立つ孝史の表情を見て、朔子の心が揺れる…。

青春のまぶしいしいほどのきらめきや揺らぎが
波紋のように美しく広がっていく。

pic 本作のキーワードは“ほとり”。大人と子供のほとりに佇む朔子は、大人たちの小さな秘事や、震災の傷跡、心の闇に触れ、心を揺らせていく。その揺れは、まるで湖に美しく広がる波紋のようだ。メガホンを取ったのは第23回東京国際映画祭日本映画・ある視点部門作品賞などを受賞した『歓待』の深田晃司監督。18歳ならではの繊細な心のひだを丁寧にすくい上げた。

主演は映画やドラマで快進撃が続く若手人気女優の二階堂ふみ。小粋なリゾートファッションをまとい、みずみずしい表情とまぶしい肢体で、子供以上、大人未満のヒロイン像を体現した。また、知的で美しい叔母・海希江役に鶴田真由、朔子と交流する高校生・孝史役に新進俳優の太賀。その他、古館寛治・大竹直・志賀廣太郎ら劇団青年団の実力派俳優陣が脇を固めた。

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