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ロマン・ポランスキー

■ロマン・ポランスキー

1933年、フランス・パリ生まれ。ポーランドで育つ。第二次大戦中、両親は強制収容所に送還され、自身はポーランド系の家族を転々とした。

大戦後、ラジオ番組や舞台などの出演を経て54年にウージの国立映画学校へ入学。62年に長編第一作『水の中のナイフ』を撮り、たちまち世界中で注目を集める。『反撥』『袋小路』『吸血鬼』などで評価を高め、ハリウッド進出作『ローズマリーの赤ちゃん』('68)は大ヒットを記録する。前途洋々にみえた69年、当時妊娠8カ月だった妻で女優のシャロン・テートがカルト集団「マンソン・ファミリー」に殺害される。

苦難を乗り越え、74年に発表した『チャイナタウン』はアカデミー賞11部門にノミネート。その後も精力的に映画を発表し続け、『戦争のピアニスト』('02)はカンヌ映画祭パルムドール、『ゴーストライター』('10)はベルリン映画祭銀熊賞に輝くなど、今日も第一線で活躍している。

filmography

水の中のナイフ('62)
反撥('65)
袋小路('66)
吸血鬼('67)
ローズマリーの赤ちゃん('68)
マクベス('71)
ポランスキーの欲望の館('72)<未>
チャイナタウン('74)
テナント/恐怖を借りた男('76)<未>
テス('79)
ポランスキーのパイレーツ('86)<未>
フランティック('88)
赤い航路('92)
死と処女(おとめ)('94)
ナインスゲート('99)
戦場のピアニスト('02)
オリバー・ツイスト('05)
ゴーストライター('10)
おとなのけんか('11)
毛皮のヴィーナス('13)

※長編監督作のみ

今年で82歳になるロマン・ポランスキー監督の快進撃が止まりません。『ゴーストライター』『おとなのけんか』と2010年代に入って放った作品群は、かつて以上に一皮むけた職人技を感じさせる快作ぞろいでした。

今回お送りするのは、代表作のひとつ『チャイナタウン』と、ボルテージが上がりまくる最新作『毛皮のヴィーナス』です。

幾多の理不尽な悲劇に晒されながらも、映画を作り続けることで現在何度目かの絶頂期を迎えたポランスキー。まさに奇跡的なこの作家の軌跡に触れてください!

チャイナタウン
CHINATOWN
pic (1974年 アメリカ 131分 DCP PG12 シネスコ)
2015年4月25日-5月1日まで上映

■監督 ロマン・ポランスキー
■脚本 ロバート・タウン
■撮影 ジョン・A・アロンゾ
■編集 サム・オースティーン
■衣装 アンシア・シルバート
■音楽 ジェリー・ゴールドスミス

■出演 ジャック・ニコルソン/フェイ・ダナウェイ/ジョン・ヒューストン/バート・ヤング/ペリー・ロペス/ベリンダ・パーマー

■1974年アカデミー賞脚本賞受賞・10部門ノミネート/1974年ゴールデン・グローブ賞作品賞・男優賞・監督賞・脚本賞受賞/1974年NY批評家協会賞主演男優賞受賞/1974年英国アカデミー賞主演男優賞・監督賞・脚本賞受賞・5部門ノミネート

アカデミー賞ほか数々の賞を獲得
時代を越えて輝く名匠ポランスキーの傑作フィルム・ノワール

いまを遡ること約40年前にポランスキーが撮った『チャイナタウン』は、非情でありながら哀感に満ちたハードボイルド・ミステリーです。

pic本作は、68年の『ローズマリーの赤ちゃん』を撮影した後、一時アメリカを離れていたポランスキーが、再びハリウッドに戻って作り上げた作品です。アメリカを離れていた理由はもちろん、ハリウッドの邸宅で愛妻シャロン・テートを妊娠中の赤ん坊共々殺害されるという痛ましい事件に遭ってしまったからです。

pic『チャイナタウン』では、30年代のロサンジェルスの雰囲気をスタイリッシュに再現したファッションや美術、アカデミー賞を受賞したロバート・タウンのシナリオの卓越した構成力の力を借り、ポランスキーはツボを押さえた巧みな演出力を見せます。しかし、この映画に張りつめた生々しい恐怖感覚や死の臭いの凄みは、事件の記憶が生々しかったこの時期のポランスキーだからこそ撮ることができたものでもあると思います。

彼の数奇な人生を知る者には、物語の鍵を握るフェイ・ダナウェイ演じるモーレイ夫人に、アウシュビッツ収容所で亡くなったポランスキーの母と、事件の犠牲となった妻シャロン・テートの面影が重ねられているようにどうしても見えてしまいます。

pic気丈な存在の裏に痛ましさと哀しみを抱えた彼女が最終的にたどり着く結末。ポランスキーはハッピーエンドを主張するプロデューサーや脚本家の反対を押し切り、現在のダークなエンディングにしたといいます。このシーンを見るたびに、運命の残酷なめぐりあわせで母と妻、ふたりの愛する女性を奪い取られた男の魂の絶叫がこだましているように感じます。

高度な職人的技術と、作家個人の切実な想いが重なることで生まれた、70年代アメリカ映画を代表する傑作です。

毛皮のヴィーナス
VENUS IN FUR
毛皮のヴィーナス (2013年 フランス/ポーランド 96分 DCP シネスコ)
2015年4月25日-5月1日まで上映

■監督・脚本 ロマン・ポランスキー
■原作 レオポルド・フォン・ザッヘル=マゾッ ホ「毛皮のヴィーナス」
■原作戯曲・脚本 デヴィッド・アイヴス
■撮影 パヴェル・エデルマン
■音楽 アレクサンドル・デスプラ

■出演 エマニュエル・セニエ/マチュー・アマルリック

■2013年カンヌ国際映画祭パルム・ドールノミネート/2013年セザール賞最優秀監督賞受賞・作品賞含む6部門ノミネート/リュミエール賞脚色賞受賞

奇才にして巨匠、ロマン・ポランスキー監督が
80歳でたどり着いた妖しくもセンセーショナルな世界!

毛皮のヴィーナス 舞台劇をオリジナル以上にハイテンションで映画化した前作『おとなのけんか』(ケイト・ウィンスレットが高価な美術書の上に豪快に××をしてしまう場面は、屈指の名シーンでしたね)に引きつづき、最新作『毛皮のヴィーナス』も舞台劇の映画化です。4人の会話劇だった前作以上に登場人物は切り詰められ、エマニュエル・セニエとマチュー・アマルリックの2人だけで展開される濃密な密室劇です(ちなみに、ポランスキーの長編監督デビュー作『水の中のナイフ』の登場人物もたった3人でした)。

毛皮のヴィーナス 見どころは、主演のマチュー・アマルリックとエマニュエル・セニエの白熱した演技のぶつかり合いもさることながら、ポランスキーの仕掛ける演出の妙味です。

粗野に見えて天性の演技の才能を見せていくワンダと、それに魅せられていくトマ。役者と演出家という関係は「毛皮のヴィーナス」という戯曲を2人で演じる過程でしだいに曖昧になっていき、フィクションの関係が現実そのものを変容していきます。

毛皮のヴィーナスおもしろいのが、ワンダ役のエマニュエル・セニエが実人生ではポランスキー夫人であり、トマ役のマチュー・アマルリックがポランスキーに背格好ふくめそっくりだということです。嬉々としてエマニュエル・セニエにかしずくようになるアマルリックを見ていると、私たちはいま観ているのが劇中劇のお芝居なのか、映画の中の現実なのかわからなくなってくるばかりか、本当のポランスキー夫婦の秘密の関係をのぞき見ているような錯覚にも陥ってくるのです。

映画の舞台は劇場から一歩も出ないのに、ここでは虚と実が重層的に入り組んだ、奇妙で刺激的な空間が立ち現れます。観客の平衡感覚を揺さぶり続けるヒリヒリした緊張感はポランスキー演出の真骨頂ですが、自らのスキャンダラスなイメージを利用しながらも、パワフルで洗練されたエンターテインメントに仕上げられるところに、現在のポランスキーの幸せな円熟ぶりを感じます。 

(ルー)

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