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聾唖(ろうあ)者の寄宿学校を舞台とした『ザ・トライブ』。登場人物はすべて、耳が聞こえず話し言葉が話せない。本作が長編初監督となるミロスラヴ・スラボシュピツキー監督は「サイレント映画へのオマージュを表現することは昔からの夢だった」と言い、プロの俳優を使わず、素人の聾唖の人々からキャストを選出、まさにリアルなサイレント映画をつくりあげた。

主人公のセルゲイは、校内に存在する犯罪組織=族(トライブ)リーダーの愛人アナに恋をする。その狂おしいほどの想いは、言葉では表現されない。音のない世界で、表情や身振り手振り、全身を使って想いのたけをぶつける。わたしたちは彼が何を語っているのか、その言葉はわからない。でも彼の痛いくらいの愛の感情は、言葉以上にわたしたちの胸に強く響いてくる。

一方、架空のカナダを舞台に、ADHD(多動性障害)の息子と、そのシングルマザーが懸命に生きる姿を描いた『Mommy/マミー』。20代にして世界的な映画監督となったグザヴィエ・ドラン監督はデビュー作『マイ・マザー』に続いて、再び“母と息子”に焦点を当てた。

「映画を撮り始めて以来、いつでも“愛”について語ってきた」というドラン監督。本作でも、「自分が一番よく知っているテーマ、僕の創作意欲を否応なしに掻き立てる、最も愛するテーマ」と語る、“自分の母”をテーマに、彼にしか切り取れない感情を描き出した。物語はずっしりと重く、そのどこまでも美しい映像のように、晴れやかなだけではない。でもそこには母と子という、どう抗っても切っても切れない運命のなかで、互いを愛し合う姿がはっきりと描かれている。

今週はそんなふたつの愛の物語。痛いほどの想いが胸に突き刺さる。

(かわうそ)

ザ・トライブ
ΠЛEM'Я
(2014年 ウクライナ 132分 DCP R18+ シネスコ) pic 2015年10月24日から10月30日まで上映 ■監督・脚本 ミロスラヴ・スラボシュピツキー
■製作・撮影・編集 ヴァレンチヌ・ヴァシャノヴィチ
■製作 イヤ・ミスリツカ

■出演 グレゴリー・フェセンコ/ヤナ・ノヴィコヴァ/ロザ・パビィ/オレクサンダー・ドジャデヴィチ/ヤロスラヴ・ビレツキー

■2014年カンヌ国際映画祭批評家週間グランプリ、ヴィジョナリーアワード、ガン・ファンデーション・サポート受賞/ヨーロピアン・フィルムアワード2014国際映画批評家連盟賞、ヨーロピアン・ディスカバリー・オブ・ザ・イヤー受賞 ほか多数受賞

少年は愛を欲望した
少女は愛なんか信じていなかった

picろうあ者の寄宿学校に入学したセルゲイ。そこでは犯罪や売春などを行う悪の組織=族(トライブ)によるヒエラルキーが形成されており、入学早々彼らの洗礼を受ける。何回かの犯罪に関わりながら、組織の中で徐々に頭角を現していったセルゲイは、リーダーの愛人で、イタリア行きのために売春でお金を貯めているアナを好きになってしまう。アナと関係を持つうちにアナを自分だけのものにしたくなったセルゲイは、組織のタブーを破り、押さえきれない激しい感情の波に流されていく・・・。

世界中の映画祭が熱狂!
全篇手話のみで描かれる前代未聞の衝撃作
ピュアで、過激で、パワフルな純愛が暴走する

pic2014年カンヌ国際映画祭で批評家達を震撼させ、批評家週間グランプリ含む3賞受賞の他、各国の映画祭で30以上の賞を受賞、「サイト&サウンド」誌のベストテンにも選ばれた驚異の問題作『ザ・トライブ』。ウクライナの新鋭監督ミロスラヴ・スラボシュピツキーの長篇デビュー作である本作は、台詞や音楽は一切なく、字幕も吹き替えすらも存在しない。登場人物すべてがろうあ者であり、全篇が手話のみによって構成されている。

登場人物の背景や心理的な説明を全て排し、純粋な身振り、表情、眼差しによる表現方法に、観客は想像力をフル回転させてスクリーンと向き合う、という初めての映画体験に身を委ねることになる。そしていつしか彼らの会話を理解している事に気付くだろう。「まなざしは、口にされない言葉である」というロベール・ブレッソンの箴言を想起させる、視覚芸術としての映画の可能性を一挙に押し広げた稀有な衝撃作が誕生した。

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Mommy/マミー
MOMMY
(2014年 カナダ 138分 DCP PG12 ビスタ) pic 2015年10月24日から10月30日まで上映 ■監督・製作・脚本・衣装デザイン・編集 グザヴィエ・ドラン
■製作 ナンシー・グラン
■撮影 アンドレ・トュルパン
■プロダクション・デザイン コロンブ・ラビ
■衣装デザイン フランソワ・バルボ
■音楽 ノイア

■出演 アンヌ・ドルヴァル/スザンヌ・クレマン/アントワン=オリヴィエ・ピロン/パトリック・ユアール/アレクサンドル・ゴイエット

■2014年カンヌ国際映画祭審査員特別賞/セザール賞外国映画賞/カナダアカデミー賞作品賞・監督賞・主演男優賞ほか6部門受賞 ほか多数受賞

まだ僕は幼すぎて
ただすべてを欲しがっていた。

picとある架空の世界のカナダ。ここでは新政権が成立し、ある法律が物議を醸していた。それは、問題を抱える子供の親が、法的手続きを経ずに養育を放棄し、施設に入院させる権利を保障するものだった。ダイアン・デュプレは、15歳になる息子スティーヴと二人で暮らすシングルマザー。掃除婦としてギリギリの生活をしている。スティーヴはADHD(多動性障害)で、攻撃的な性格で他人との距離を測れないトラブルキッズだ。

楽しくも困難な生活を送るこの二人に、ある日突然奇跡が訪れた。隣に住むカイラという女性と親しくなったのだ。カイラは休職中の高校教師で、精神的なストレスから吃音に苦しんでいた。純粋なハートを持ったスティーヴと友情を育みながら、カイラ自身の心も快方に向かうようにみえたのだが――。

エキサイティングな新世代
クリエイティブの未来を生きる、
グザヴィエ・ドランの最新作

pic 『マイ・マザー』、『胸騒ぎの恋人』で世界の映画シーンに鮮烈なデビューを飾り、『わたしはロランス』『トム・アット・ザ・ファーム』とこれまで全作品がカンヌ国際映画祭、ベネチア国際映画祭へ出品され、早くも三大映画祭の常連に。一躍時代の寵児となった映画界の若き俊英グザヴィエ・ドランの監督最新作が『Mommy/マミー』だ。

2015年の架空の国、カナダで起こった現実――ユーモラスな親子の日常を舞台に、全世界共通のテーマ「母と子」の深い愛情と葛藤が誰もの魂をえぐり、人間模様に彩りを添える色彩描写が絶妙なエモーションをひきずり出す。2014年カンヌ国際映画祭において、83歳の巨匠ジャン=リュック・ゴダールと並び審査員特別賞をW受賞し、審査員長のジェーン・カンピオンからも絶賛された。

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