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老人がおぼつかない足取りで、高速道路を歩いている。
警官が尋ねるとモンタナからネブラスカ(約1500km――札幌から大阪までくらいの距離)まで歩いていくという。
この老人・ウディはインチキな手紙を信じ込み、分かってくれない奥さんを尻目に
賞金100万ドルを受け取るべく何度もネブラスカに向かっていたのだ。

「じゃあ、俺がネブラスカまで連れていってあげる」

息子のデイビッドは、頑固者の父を説得する為、仕方なく二人で旅に出ることにした。

ささやかな日常をコミカルに描かせたら右に出るものはいないアレクサンダー・ペイン監督。
彼の真骨頂ともいえるのが『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』だ。

ネブラスカまでの道のりは寄り道ばかりで、気が付くと父の故郷への旅になっている。
そこで登場してくるウディの家族、親戚、旧友たちは皆ひと癖もふた癖もある強者ばかり。
デイビッドはそんなやっかいな彼らと触れ合う中で、初めて父の過去を知る。

「100万ドルを受け取ったらどうするの?」

何度も劇中で問われるこの質問。無口で頑固なウディの“本当の答え”。
それに息子が気づいた時、100万ドルの賞金以上のものが、旅の終わりに待っている。

一方、『コーヒーをめぐる冒険』の主人公ニコは、自分の生きる目標を見失っていた。
大学を親に内緒で辞め、モラトリアムな日々。気づいたら2年も時間がたってしまった。
そんな彼のいつもとは違うツイてない一日は、朝、寝覚めのコーヒーが飲めなかったことから始まる。

彼が街をさまよい出会う人々は皆どこか変わっている。
嫌味な面接官、勝手に泣き出す上の階の住人、売れない俳優、
ダイエットに成功した舞台女優の同級生、仕送りの打ち切り宣言をする父親、罰金を迫る駅員、
一日の終わりにバーで出会った老人。(どこへ行ってもコーヒーは飲めない。) 

ニコが誰かと出会う度、ジャズにのせてベルリンの景色が移り変わっていく。
彼が出会う人達もまた、ベルリンの街で皆それぞれの生き方を見つけている。
たった一杯のコーヒーがどうしても飲めない一日は、彼をどんな風に変えていくのか。

『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』と『コーヒーをめぐる冒険』。
物語の主人公たちは、ありふれた人生を生きる普通の人たちだ。
ドラマチックなことはそうそう起こらない。ネブラスカにいようとも、ベルリンにいようとも。
働かなければ生きていけないし、どんどん年を取っていく。
スーパーマンにはなれないし、宇宙人もいない、怪獣もいない。

でも、どんなに地味な日常も、些細なことで特別な日になることがある。
私達の人生にもそんな日がやってくるかもしれない…そう思わせてくれる、
ちょっとほろ苦くて、あたたかくじんわり沁みる二本立てをどうぞ。

(スタンド)


コーヒーをめぐる冒険
OH BOY
(2012年 ドイツ 85分 DCP ビスタ) pic 2014年8月16日から8月22日まで上映 ■監督・脚本 ヤン・オーレ・ゲルスター
■製作 マルコス・カンティス/アレクサンダー・ワドー
■撮影 フィリップ・キルスアーマー
■編集 アンニャ・ズィーメンス
■音楽 ザ・メジャー・マイナーズ/シャリリン・マクニール

■出演 トム・シリング/フリーデリーケ・ケンプター/マルク・ホーゼマン/カタリーナ・シュットラー/ユストゥス・フォン・ドホナーニ/ウルリッヒ・ネーテン/ミヒャエル・グヴィスデク

■2013年ドイツ・アカデミー賞主要6部門受賞 ほか多数受賞・ノミネート

ベルリンで、じっくり味わう

pic2年前に大学を辞めたことを父に秘密にしたまま、“考える”日々を送っている青年ニコ。恋人の家でコーヒーを飲みそこねた朝、車の免許が停止になった。アパートでは上階に住むオヤジに絡まれ、気分直しに親友のマッツェと出かけることに。すると、クサい芝居の売れっ子俳優、ニコに片想いしていた同級生のユリカ、ナチス政権下を生き抜いた老人等々、ニコの行く先々でひとクセある人たちが次々と現れる。果たして、ニコのツイてない1日の幕切れは――?

2013年ドイツアカデミー賞6部門受賞!
新鋭監督ヤン・オーレ・ゲルスター、鮮烈なるデビュー作!

picドイツ映画テレビ・アカデミー卒業作品にして初監督作となる本作が、海外で熱狂的な人気を呼び、30を超える映画祭で数々の賞を受賞したヤン・オーレ・ゲルスター監督。本国でも大ヒットを記録し、ドイツ・アカデミー賞の作品賞・監督賞を含む主要6部門を獲得する快挙を成し遂げた。主人公には人気俳優のトム・シリング。ベルリンをさまよう等身大の青年ニコを演じ、ドイツ・アカデミー賞主演男優賞を獲得。その他、総勢20名以上の個性豊かな名優たちが集結し、ヨーロッパに大いなる笑いと、キラリと光る希望を吹き込んだ。

人生で少し立ち止まりたくなった時、様々な人と出遭い、喜び、傷つき、戸惑いながらも、次の道へとつづく扉を見つける。「大丈夫、また歩き出せる」という安堵感と未来への可能性が、私たちを励ましてくれる――そんな、少し苦いけれど心を温めてくれる、一杯のコーヒーのような物語が完成した。

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ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅
NEBRASKA
(2013年 アメリカ 115分 DCP シネスコ) pic 2014年8月16日から8月22日まで上映 ■監督 アレクサンダー・ペイン
■製作 アルバート・バーガー/ロン・イェルザ
■脚本 ボブ・ネルソン
■撮影 フェドン・パパマイケル
■編集 ケビン・テント
■音楽 マーク・オートン

■出演 ブルース・ダーン/ウィル・フォーテ/ジューン・スキッブ/ボブ・オデンカーク/ステイシー・キーチ/アンジェラ・マキューアン

■2013年カンヌ国際映画祭最優秀男優賞受賞(ブルース・ダーン)/アカデミー賞主要6部門ノミネート/ゴールデン・グローブ賞主要5部門ノミネート ほか多数受賞・ノミネート

回り道がもたらした
人生最高のあたりくじ

pic“モンタナ州のウディ・グラント様 我々は貴殿に100万ドルをお支払い致します”――誰が見ても古典的でインチキな手紙をすっかり信じてしまったウディは、はるか遠く離れたネブラスカまで歩いてでも賞金を取りに行くと言ってきかない。大酒飲みで頑固なウディとは距離を置いていた息子のデイビッドだが、そんな父親を見兼ねて骨折り損だと分かりながらも、彼を車に乗せて4州にわたる旅へ出る。途中に立ち寄ったウディの故郷で賞金をめぐる騒動に巻き込まれる中、デイビッドは想像すらしなかった両親の過去と出会うのだが…。

人生いろいろ――だけど、それでも素晴らしい!
アレクサンダー・ペイン監督最新作
クスリと笑えて、じんわり心が温まる感動の物語

pic何があっても、人生は素晴らしい――些細な日常と人々の感情のひだを優しいまなざしで見つめ、人生の豊かさを謳いあげるアレクサンダー・ペイン監督。今や比類なきヒューマンドラマの名手として讃えられる彼の待望の最新作が完成した。2013年のカンヌ国際映画祭では、主人公ウディを演じた名優ブルース・ダーンが並みいる実力者俳優たちを抑えて、見事に最優秀男優賞を獲得した。

本作では、不格好だけれど、人間味あふれた愛すべきキャラクターたちが、人生と向き合い、家族とのつながりを取り戻していく姿が、おかしくもチクリと鋭く描かれる。それは知らぬ間に共感してしまう、どこにでもある家族の風景で、いつしか彼らを愛おしく思わずにはいられない。回り道ばかりの旅の途中で“本当の賞金”に気づきはじめる父と息子――物語の最後に待つ、人生最高の当たりくじをあなたにも――。

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