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ナチスの独裁と侵略、第二次世界大戦と敗戦、ホロコーストの惨劇、
東西分割、ベルリンの壁の建設と崩壊、そして再統一。
他に類を見ないドイツの特異な歴史は、文化面においても多大な影響を及ぼし、
ひと際異才を放つ芸術家たちを数多く輩出してきました。

今週上映するのは、西ドイツ生まれの二本。
「経済の奇跡」と呼ばれるほど劇的な復興を成し遂げた西ドイツにおいて芸術は、
社会主義体制が敷かれた東ドイツとは反対に、自由な意思のもと様々な形で発展していきました。

“Der alte Film ist tot. Wir glauben an den neuen.”
「古い映画は死んだ。われわれは新しい映画を信じる」

こんな挑発的な宣言から始まったドイツ映画の一時代、「ニュー・ジャーマン・シネマ」。
代表的作家であるフォルカー・シュレンドルフ監督作『ブリキの太鼓』は、
3歳で成長を止め超能力を手に入れた少年という怪奇な物語のみならず、
人間の醜態や狂気を容赦なく暴き出すグロテスクな描写から、
しばしばカルトとしても語られる名作です。
ナチスの台頭やポーランド侵攻等、まるで濁流に飲まれるかのような日々が克明に描かれる点でも、
目撃することのショックに満ちた作品だと言えるでしょう。

パーシー・アドロン監督『バグダッド・カフェ』は、
ベルリンの壁が崩壊するわずか2年前、1987年に製作されました。
1982年からはじまった東ドイツの月曜デモが盛り上がりを見せていた頃です。
日本では1989年に公開され、ミニシアターブームを代表する大ヒットを記録しました。

舞台はアメリカのモハーヴェ砂漠。
砂嵐と共にやってきた旅行者ジャスミンはバヴァリア(バイエルン)出身の西ドイツ人です。
当時、東ドイツ国民は自由に国外旅行することができなかった時代。
劇中に登場するアメリカ人保安官の「ルールさえ守っていれば、ここは自由の国さ」の台詞から、
ふと東ドイツを想い浮かべてしまうのも、あながち見当違いではないのかもしれません。

ジャスミンが持つ牧歌的空気と、傷ついたブレンダの心。
風変わりな個性と異文化の衝突は見ているだけでも楽しく、
ともに孤独を抱えた女性たちにやがて芽生える友情は、
砂漠を潤すがごとくこんこんと湧きだしては観客の心を浸していきます。
名曲「コーリング・ユー」の瑞々しい歌声は、
国境も過去も言葉も軽々と飛び越えてどこか懐かしさを感じさせ、
作品をより一層忘れがたいものにしています。

強烈かつユニークな西ドイツ傑作選。
世界中ここにしかない、唯一無二の魅力をお愉しみください。

(ザジ)

★ちなみに
今回で84回目となる早稲田松竹クラシックスシリーズですが、
両作品ともDCPで上映するのは初めてのことです。
フィルムで観てみたいと思ったり、いろいろな作品が上映できるのはうれしかったり。
そんな時代になったんだなぁと、なんだかしみじみしてしまいました。

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ブリキの太鼓 ディレクターズ・カット
DIE BLECHTROMMEL
(1979年 西ドイツ/フランス 163分 dcp ビスタ) pic 2014年1月18日から1月24日まで上映 ■監督・脚本 フォルカー・シュレンドルフ
■原作 ギュンター・グラス
■脚本 ジャン=クロード・カリエール/フランツ・ザイツ
■撮影 イゴール・ルター
■音楽 モーリス・ジャール

■出演 ダーヴィット・ベネント/マリオ・アドルフ/アンゲラ・ヴィンクラー/ダニエル・オルブリフスキー/ハインツ・ベネント/シャルル・アズナヴール/アンドレア・フェレオル/カタリナ・タルバッハ/マリエラ・オリヴェリ

■1979年カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞グランプリ/アカデミー賞外国語映画賞受賞

「この子が3歳になったら、ブリキの太鼓をあげるわ。」僕が生まれた日に母はそう約束した。

1899年のダンツィヒ。その郊外のカシュバイの荒野で4枚のスカートをはいて芋を焼いていたアンナは、その場に逃げてきた放火魔コリヤイチェクをそのスカートの中に匿い、やがて女の子を生んだ。第一次大戦が終り、成長したその娘アグネスはドイツ人のアルフレート・マツェラートと結婚するが、従兄のポーランド人ヤンと愛し合いオスカルを生む。1924年のことだった。

3歳になったオスカルは、その誕生日の日、母からブリキの太鼓をプレゼントされる。この日、彼が見た大人たちの狂態を耐えられないものと感じたオスカルは、その日から1cmとも大きくなるのを拒むため、自ら階段から落ち成長を止めた…。

オスカルの太鼓が鳴り響く時、喜びが 怒りが 悲しみが やさしさが 世界中に爆発する!

原作はドイツ現代文学の旗手ギュンター・グラスの長編小説。3歳で自らの成長を止めた少年オスカルの視点で、自由都市ダンツィヒ(現在のグダニスク)に生きた人々の激動の時代を、ニュー・ジャーマン・シネマを代表するフォルカー・シュレンドルフ監督が映画化した。

太鼓を叩きながら奇声を発すると、ガラスを割れる能力を身につけたオスカル、従兄との不倫に溺れる母、臆病者の父、画面は時代が産んだ奇異なキャラクターとグロテスクな描写に溢れている。そして、徐々に忍び寄るナチスの足音――。反戦のテーマを時に荒々しく心に突き付けるこの衝撃作は、1979年カンヌ映画祭グランプリ、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。


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バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版
BAGDAD CAFE / Out of Rosenheim
(1987年 西ドイツ 109分 dcp ビスタ) pic 2014年1月18日から1月24日まで上映 ■監督・製作・脚本 パーシー・アドロン
■製作・脚本 エレオノーレ・アドロン
■撮影 ベルント・ハインル
■音楽 ボブ・テルソン
■主題歌 ジェヴェッタ・スティール「コーリング・ユー」

■出演 マリアンネ・ゼーゲブレヒト/CCH・パウンダー/ジャック・パランス/クリスティーネ・カウフマン/ジョージ・アキラー/ダロン・フラッグ

■1988年米アカデミー賞主題歌賞ノミネート/1988年セザール賞外国語映画賞受賞(共に初公開時)

心が乾いたら、Calling you. またしばらく優しくなれる。

ラスヴェガスとロサンゼルスの間に位置するモハーヴェ砂漠の路上で、ドイツから旅行にやってきた夫婦が喧嘩をしている。言い争いの果てに、妻のジャスミンはハイヒールと大きなトランクを引きずり一人車を降りてしまった。あてどなく歩き続ける彼女はやがて、道路脇にたたずむ寂れたカフェ兼モーテル兼ガス・ステーション“バグダッド・カフェ”に辿り着く。

いつも不機嫌に怒鳴り散らす女主人ブレンダを始め、問題児の息子と娘、働かないバーテン、変わり者ばかりの常連客が集まる、けだるいムード漂うバグダッド・カフェ。だが、ジャスミンが現れてから、彼女をとりまく皆の心が癒されはじめていた。そう、あのブレンダでさえも。そしてジャスミンとブレンダは、いつしか離れがたい友情で結ばれていく…。

名曲とともに、砂漠に舞い降りた天使――懐かしいあのカフェに、もう一度帰ってきませんか?

1987年に製作された『バグダッド・カフェ』。アメリカ西部の砂漠にたたずむカフェ兼モーテルに集まる個性的な人々と、ドイツから来た旅行者ジャスミンの触れ合いが起こす小さな奇跡の物語は、世界中の人々の胸に刻まれ大ヒットを記録、日本でもミニシアター・ブームを代表する一作となった。

2008年、この名作を後世に残すべくパーシー・アドロン監督自らが再編集、全てのカットについて色と構図を新たに調整し直し、最高に美しいバージョンの『バグダッド・カフェ』が誕生。現在では数多くのアーティストにカバーされている主題歌「コーリング・ユー」とともに、今も多くの映画ファンを魅了し続ける80年代の名作が、スクリーンに蘇った。



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