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社会主義体制の敷かれた東ドイツで暮らす女医のバルバラ。
監視され、言論の自由など無いに等しいこの国では、
親切な言葉も差しのべられた手も、何も本当には信じられない。

反政府軍に拉致され、ある日突然兵士となったコンゴの少女・コモナ。
両親を失い、故郷を追われた心の傷を癒す間もないまま、
いつ死ぬかもわからない不安定な毎日を過ごす。

激流に飲みこまれても、腕で天を支え、両足で地を踏みしめ、
繊細な指先で愛しき者をそっと包み込む彼女たち。
愛のため、使命のため――
しかしその力強さの驚異的なこと、そして美しいこと!

世界がどんなに暗く淀んでも、彼女たちの願いは汚れを知らず、
その魂は勝利の輝きを放っている。
バルバラの瞳は情熱の色、コモナの瞳は慈愛の色。
全身に通う血の熱さ、激しい胸の鼓動が透けて見えるようだ。

闇を切り裂き、物語のその先へ。
導かれるままに進む私たちの足取りにも、
いつのまにか力が漲るように感じられる。

(ザジ)

東ベルリンから来た女
BARBARA
(2012年 ドイツ 105分 DCP ビスタ) pic 2013年7月13日から7月19日まで上映
■監督・脚本 クリスティアン・ペッツォルト
■製作 フロリアン・コールナー・フォン・グストルフ/ミヒャエル・ヴェバー
■撮影 ハンス・フロム
■編集 ベッティナ・ボーラー
■音楽 シュテファン・ヴィル

■出演 ニーナ・ホス/ロナルト・ツェアフェルト/ライナー・ボック/ヤスナ・フリッツィー・バウアー/マルク・ヴァシュケ

■2012年ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞/ヨーロッパ映画賞作品賞・女優賞・観客賞ノミネート/米アカデミー賞外国語映画賞ドイツ代表作品 ほか多数

東と西。嘘と真実。自由と使命。
その狭間で揺れる、愛。

picベルリンの壁崩壊の9年前、1980年夏、旧東ドイツ。田舎町の病院に、バルバラという美しい女医が左遷されてきた。秘密警察<シュタージ>の監視付きで――。どんな会話も“密告”ではないかと怯え、周囲と距離をおく彼女には、豊かな西ベルリンに暮らす恋人・ヨルクがいた。

pic人目を忍んでのヨルクとの秘密の逢引き、周囲と打ち解けない孤独。神経をすり減らすバルバラは、やがて同僚の医師・アンドレの誠実な姿に特別な感情を抱き始める。東に生きるか、西へ逃れるか…。ヨルクの手引きによる西側への“脱出”の日は、刻々と近づいていた。

サスペンスと疑惑の見事な手綱さばきで、
鉄のカーテンの向こうの私たちは、息つくこともできない。
――パリ・マッチ

picバルバラの日常生活を静かに掬い取ることで、監視体制下の東ドイツに生きることの身体的かつ心理的な抑圧を、一級のサスペンス映画を彷彿とさせる緊迫感で映し出したのは、本作でベルリン国際映画祭銀熊(監督)賞に輝いたクリスティアン・ペッツォルト。職務に忠実なシュタージのまなざしを通して監視国家の真実を描いたオスカー受賞作『善き人のためのソナタ』と同じ時代を生きたヒロインの葛藤の末の決断を、全く逆の角度から描き切った。

ヒロインを演じるのは、ベルリン国際映画祭銀熊(女優)賞など輝かしいキャリアを誇る美貌の女優ニーナ・ホス。その傑出した演技で、バルバラの愛と情熱、魂の叫びを体現した。東西ドイツが統一されて20年以上の歳月が過ぎた。これまで明らかにならなかった事実。そして、バルバラが下す最後の決断は、私たちの胸に衝撃的に響くだろう。


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魔女と呼ばれた少女
REBELLE
(2012年 カナダ 90分 DCP R15+ ビスタ) pic 2013年7月13日から7月19日まで上映
■監督・脚本 キム・グエン
■撮影 ニコラ・ボルデュク

■出演 ラシェル・ムワンザ/アラン・バスティアン/セルジュ・カニンダ/ラルフ・プロスペール/ミジンガ・グウィンザ

■2012年ベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)・エキュメニカル審査員賞特別奨励賞(Special Mention)受賞/バンクーバー映画批評家協会賞カナダ映画部門作品賞・主演女優賞・助演男優賞受賞/ジニー賞監督賞・作品賞・主演女優賞・助演男優賞ほか6部門受賞/米アカデミー賞外国語映画賞ノミネート ほか多数受賞・ノミネート

ひとりの少女の物語に
アフリカの“今”をちりばめた
ファンタジックな現代の神話

pic平和な暮らしを送っていた水辺の村から突然拉致され、反政府軍の兵士となった12歳のコモナは、死んだはずの人たちに導かれ、全滅必至のゲリラ戦から生還する。亡霊の見える力が次々と勝利を招き、ボスからも“魔女”と崇められるコモナだが、敵を撃つその銃はどこから来たのか、山から集める黒い石はどこへ行くのか、彼女は何も知らない。

やがて自分も殺される運命を悟ったとき、密かに愛を育んできた少年兵・マジシャンと、命をかけた逃避行の旅に出る。

世界の狂気に祈りを込めて
カナダの気鋭が綴る映像詩

pic監督は、アフリカの子ども兵士問題に衝撃を受け、取材を重ねてきたカナダ人のキム・グエン。10年間あたため続けた祈りが、未だ紛争の絶えないコンゴ民主共和国を舞台に、生と死、現実と幻想が交錯する魅惑的な映像詩として結実し、本年度アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。

さらに、監督自らストリートで見出した主演のラシェル・ムワンザが、機関銃を携える凛々しき女神のカリスマ性から、恋する乙女の可憐さまでを見事に演じ、アフリカ女性初のベルリン国際映画祭銀熊賞(主演女優賞)を受賞。期待の新鋭とミューズとの運命的な出逢いが、少女のまなざしを通してのみ描かれる本作にリリカルな魔法をかけ、悲惨さばかりを強調しがちな戦争映画と一線を画す、忘れ得ぬ傑作が誕生した。



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