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とりあえずどんどん駄目におなりなさい
もっともっと駄目になれ
地の底までも(あんたらいままでぬくぬくしすぎよ)
そして這い回って涙を流せ

しかし
だからといって
嗚呼……
こんなことしてても
なんにもなりゃしない

                  岡崎京子 「ヘルタースケルター」より

クリスマスウィークに 『ヘルタースケルター』『苦役列車』の豪華2本立て。
共に2012年の邦画界の話題をさらった作品が、早稲田松竹に満を持しての登場です。
どうぞ心ゆくまで(心して?)お楽しみください。

『ヘルタースケルター』と『苦役列車』の主役たちは、美徳の仮面を剥ぎ、欲望の渦に裸で飛び込んでゆく。
その露悪的な立ち居振る舞いに思わず怯んでしまう。
それでも、彼らの中の寂しさに触れた時、鏡に映った自分の似姿を見るごとくに、
他人事ではない何かが私たちに痛切に迫って来るのだ。

『ヘルタースケルター』のトップスター、りりこ。
ほぼ全身を作り変え、完璧な美を得た彼女は、観る者を魅了し、身近にいる人々を振り回す。
その様は女王という言葉がぴったりなまでに華麗に傲慢。
そんな完璧な美の持ち主のりりこでさえ、全てが欲望の対象になり、
消費されていく社会の急流の前には、あまりに無力だ。

「私たちはただの欲望処理装置」
「みんなすぐ忘れる。どうせ」

りりこはわかっている。作り変えた自身の肉体と同様、世の中も空虚で表面的なことを。
彼女には時が虚空に響く音が聞こえる。
「カチ、コチ、カチ、コチ」

だから彼女は美しくあるために極彩色を身にまとい、より良い化粧を施し、
身体を維持するためにもっと効き目の強い薬物を摂取する。
それは空っぽを忘れるため。つまりは孤独を恐れるために。
それでも“最後の舞台”に上がる彼女の覚悟は痛ましくも、勇気を貰う気持ちになる。

華やかな舞台で活躍するりりこと全く違う境遇を生きる
『苦役列車』の北町貫多もまた、そのような空虚、孤独を抱えて生きる青年だ。

友達もいない。彼女だっていない。日雇労働で得た賃金は酒と風俗に消えてゆく。
好きなことと言えば本を読むことだけ。
そんな彼の荒れた生活に、友人になれるかもしれない、2人の男女が闖入してくる。
徐々に変わるかと思われた貫多の生活。
しかし、彼の境遇から生まれた卑屈さは、友人たちを傷つけ、より孤独を深めてしまう。

「いつまでも甘ったれてんじゃねえよ」
「じゃ、もう終わりだ」

淡い友情と恋の崩落。
貫多への惜別の言葉は、彼に小説を書くことを決心させる。

りりこと貫多の大立ち回り。
それは確かに最高のショーだっただろう。
けれど、りりこの執念は、人々の記憶に鮮明に刻まれた。
しかし、貫多は夢を貫くことを決意した。

彼らは孤独を恐れ、欲望のままに全てを手に入れようとした。
そして真の孤独を知った。たぶんここがスタートだ。

生きよ! 堕ちよ!
そして這いつくばってまで、生きつづけよ!

りりこと貫多の闘いはまだまだ始まったばかりだ。

(ミスター)

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苦役列車
(2012年 日本 114分 R15+ ビスタ・SRD) pic 2012年12月22日から12月28日まで上映 ■監督 山下敦弘
■原作 西村賢太「苦役列車」(新潮社刊)
■脚本 いまおかしんじ
■撮影 池内義浩
■音楽 SHINCO

■出演 森山未來/高良健吾/前田敦子/マキタスポーツ/田口トモロヲ/高橋努/中村朝佳/伊藤麻実子

友ナシ、金ナシ、女ナシ。
この愛すべき、ろくでナシ

pic1986年。19歳の北町貫多は、明日のない暮らしを送っていた。日雇い労働生活、なけなしの金はすぐに酒に消えてしまい、家賃の滞納はかさむばかり。そんな貫多が職場で新入りの専門学生、日下部正二と知り合う。中学卒業後はひたすら他人を避け、ただただ読書に没頭してきた貫多にとって、日下部は、初めて「友達」と呼べるかもしれない存在になった。

貫多には、かつてから恋い焦がれる女の子がいた。行きつけの古本屋で店番をしている読書好きの桜井康子。適度に世慣れした日下部のうまい仲介によって、晴れて貫多は康子と「友達」になる。でも「友達」って、何だろう――貫多は、自分の人生に突然降ってきた新しい出逢いに戸惑いながらも、19歳の男の子らしい日々を送るが…。

俺には「何も無い」が、ある。
世間をあっと言わせた西村賢太の私小説、まさかの映画化!

2010年に芥川賞を受賞し、大きな話題を呼んだ小説「苦役列車」。作者、西村賢太自身を思わせる主人公、北町貫多は19歳の肉体労働者。バブル前夜の1980年代中盤、浮かれる日本の片隅で、ひねくれた青春を送る貫多の姿を、独特の文体で綴った本作は多くの熱狂的な支持者を集めた。そして2012年、「苦役列車」は映画になった。

主演は森山未來。屈折しまくり、でもどこか憎めない貫多の一筋縄ではいかない人間像を、絶妙の緩急を織り交ぜて妙演する。同僚の日下部役に演技派、高良健吾。映画オリジナルのヒロイン、康子を元AKB48前田敦子がフレッシュに演じる。そしてメガホンをとったのは、山下敦弘監督。個性的な主人公を通して描きだすのは、誰の胸にも憶えのある普遍的な情景である。デビュー作『どんてん生活』から『マイ・バック・ページ』まで、青春のもやもやを唯一無二の映像で追いかけてきた彼が、いま、ここに青春映画の真新しいスタンダードを生みだした。


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ヘルタースケルター
(2012年 日本 127分 R15+ ビスタ・SRD)
2012年12月22日から12月28日まで上映 ■監督 蜷川実花
■原作 岡崎京子「ヘルタースケルター」(祥伝社フィールコミックス)
■脚本 金子ありさ
■撮影 相馬大輔
■音楽 上野耕路

■出演 沢尻エリカ/大森南朋/寺島しのぶ/綾野剛/水原希子/新井浩文/鈴木杏(友情出演)/寺島進/哀川翔/窪塚洋介(友情出演)/原田美枝子/桃井かおり

最高のショーを、
見せてあげる

pic芸能界の頂点に君臨するトップスターりりこ。雑誌、テレビ、映画――日本中どこを見ても、りりこ!りりこ!りりこ一色! しかし、りりこには誰にも言えない秘密があった――。彼女は全身整形。「目ん玉と爪と髪と耳とアソコ」以外は全部つくりもの。その秘密は、世の中を騒然とさせる【事件】へと繋がっていく――。

整形手術の後遺症がりりこの身体を蝕み始める。究極の美の崩壊と、頂点から転落する恐怖に追い詰められ、現実と悪夢の狭間をさまようりりこは、芸能界を、東京を、日本中を、スキャンダラスに、めちゃくちゃに疾走する。果たして、彼女が【冒険】の果てに辿りつく世界とは? 最後に笑うのは誰?

蜷川実花×岡崎京子×沢尻エリカ
世界を挑発する極彩色エンターテインメント!

pic原作は、手塚治虫文化賞マンガ大賞に輝く岡崎京子による伝説的熱狂コミック。岡崎作品、初の映画化となる。監督は、世界的フォトグラファーであり、初監督作『さくらん』がベルリン国際映画祭に正式出品、大ヒットを収めた蜷川実花。本作の映画化に「宿命」を感じ、約7年の歳月を重ね、遂に念願を果たす。美しさとは何か? 若さとは何か? パワフルで刺激的、繊細で哀しい、欲望社会に生きる“私たちの物語”を感動的に描ききる。

主演には、数々の話題作に出演してきた沢尻エリカ。“この作品で、これまでの全てが必然だったと証明してみせる”と、並々ならぬ想いで挑み、大胆で切ない、かつてないヒロイン像をスクリーンに炸裂させる。そして脇を固めるのは、大森南朋、寺島しのぶをはじめ、桃井かおり、原田美枝子、窪塚洋介など、豪華オールスターが集結。その個性溢れるキャストのアンサンブルも見逃せない。



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