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“神童”――かつてフィリップ・ガレルはそう称された。
13歳にして8mmで映画を撮りはじめ、19歳の時に『記憶すべきマリー』がイエール映画祭でヤングシネマ賞を受賞。まるで日記や私小説を記すように、日常の静謐や倦怠からさざ波のような“ざわめき”を捉えた映像は、ゴダールをはじめ、アサイヤス、カラックス、デプレシャンなど、世界の映像作家たちの賞賛を集めている。

ガレルの映像はどこまでもラディカルだ。
大胆なクローズ・アップ。絵画的な構図。陰影に富むモノクロームの映像。時間が伸縮するかのような編集。男と女が紡ぐ愛。それらが巧みに絡み合い、作品は美しい詩情に溢れる。

今週上映するのは、かつての妻であり早すぎる死を迎えた伝説的スター、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの歌姫・ニコとの壮絶なる生き様を刻んだ『白と黒の恋人たち』。そして、ガレルが二十歳の時に遭遇したパリ5月革命を濃密なリアルとロマンチシズムで描いた『恋人たちの失われた革命』。

自らの実体験と深く結びついた物語の語り手に、ガレルは初めて若い世代を抜擢した。『白と黒の恋人たち』のメディ・ベラ・カセムは、若干17歳で衝撃の文壇デビューを飾り、フランス文学界に革命をもたらした気鋭の小説家。同作ヒロインのジュリア・フォール、『恋人たちの失われた革命』のクロティルド・エスムは、ガレル自身が指導する演技クラスの生え抜きの生徒だった。そして人々に最大の衝撃を与えたのが、『恋人たちの失われた革命』で主演を務めたルイ・ガレルである。フィリップ・ガレルの実の息子である彼は“フランスの奇跡”と称されるほどの絶賛を浴び、今や名実ともにトップスターとなった。

彼ら若者たちのナイーブさ、優しさ、激しさ、強さ。
鮮烈な印象を残す身のこなしの一つ一つ、甘く滴るような瑞々しい魅力。
酔うほどに強烈なモノクロームの美を湛えて、
あの愛と喪失のパリが、ここに甦る。   (ミスター)


恋人たちの失われた革命
LES AMANTS REGULIERS
(2005年 フランス 182分 SD/SR)
2011年2月19日から2月25日まで上映 ■監督・脚本 フィリップ・ガレル
■撮影 ウィリアム・ルプシャンスキー
■音楽 ジャン=クロード・ヴァニエ

■出演 ルイ・ガレル/クロティルド・エスム/モーリス・ガレル/ブリジット・シィ

■2005年ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)・オゼッラ賞(技術貢献賞)/2006年セザール賞最優秀新人男優賞

★プリントの経年劣化により、本編上映中お見苦しい箇所・お聞き苦しい箇所がございます。ご了承の上、ご鑑賞いただきますようお願いいたします。

世界を変えられると思っていた。
そして、この愛は永遠に続くと信じていた。

1968年5月、パリ。二十歳の詩人フランソワは兵役を拒絶し街へ出てゆく。そこは、機動隊との激しい闘争が繰り広げられ、彼と同じく失うものはない若者たちが大勢いた。ある日、フランソワは彫刻家を目指す美しい女性リリーと出会う。そして二人は一瞬にして恋に落ちる。

1969年。若者たちはパーティー、アヘン、セックス、享楽に溺れ、夢や理想、そして“革命”でさえも、語るだけの日々を過ごすようになっていた。混沌とした時代の中で、皆が連鎖反応的に不安や憤りに囚われ、それぞれに新しい“何か”を渇望していた。また、この愛が永遠に続くと互いに信じていたフランソワとリリーも、新しい居場所を求め始めていく…。

「一組のカップルが誕生するということは歴史が出会うことだ」
―――フィリップ・ガレル

「この映画を息子ルイと共に作ろうと思った。この物語は私がルイの年頃に経験したことに基づいてる」と、ガレル監督は語っている。1968年、パリの五月革命を舞台に、父フィリップの“二十歳の情熱と絶望”を、むせ返るほどの魅力溢れる二十歳の息子ルイが繊細かつ真摯に好演し、激動の時代をまるごと描きった壮大な抒情詩が完成した。

主演は『ドリーマーズ』や、フランソワ・オゾン監督作品にも出演している、ガレル監督の実の息子、ルイ・ガレル。本作で圧倒的な存在感を見せ、見事2006年のセザール賞最優秀新人賞を受賞。他のキャストにも父親のモーリス・ガレル、ルイの母であるブリジット・シィを起用し、ある種家族のドキュメンタリー的要素も含まれている。ヒロインには学生時代にガレル監督から演技指導を受けた新人のクロティルド・エスムが大抜擢された。「夜の革命家たちと、いつもの恋人たち(LES AMANTS REGULIERS)とを結びつける、野心的な試み」(カイエ・ド・シネマ)と絶賛され、彼が追求し続ける“愛の物語”と“情熱の革命の物語”とが見事に融合する、詩的で美しい至上のラブストーリーが誕生した。


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白と黒の恋人たち
SAUVAGE INNOCENCE
(2001年 フランス 117分 シネスコ/SR) 2011年2月19日から2月25日まで上映 ■監督・脚本 フィリップ・ガレル
■撮影 ラウール・クタール
■音楽 ジャン=クロード・ヴァニエ

■出演 メディ・ベラ・カセム/ジュリア・フォール/ミシェル・シュボール

■2001年ヴェネチア国際映画祭国際批評家連盟賞

★プリントの経年劣化により、本編上映中お見苦しい箇所・お聞き苦しい箇所がございます。ご了承の上、ご鑑賞いただきますようお願いいたします。

冬のパリの街角で二人は出逢い、恋に落ちた…
ひとつの芸術<映画>を追い求めた恋人たち。

冷たい風が 肌を刺す冬のパリの街角。映画監督フランソワは、女優を志すリュシーと出逢い、一瞬で恋に落ちる。カフェに落ち着き、テーブル越しに見つめあう二人…。

出逢いを重ね、二人は急速にお互いを求め合い、愛を深める。そしてフランソワは新作のヒロインにリュシーを抜擢。アムステルダムで撮影が始まる。しかし、一見順調に進んでいるかのように見えた撮影の影で、フランソワは製作資金提供の条件に悩み、リュシーは、奔放で破壊的な性格のヒロイン、マリ=テレーズをうまく演じられずに戸惑い始めていた…。

モノクロームの美しい映像に彩られる
かつての恋人、歌姫ニコとの日々を描いた
激しくも切ない愛の物語――。     

ヌーヴェル・ヴァーグの“アン・ファン・テリブル―恐るべき子供―”と呼ばれ、ゴダールからカラックスまで、世界中の映画監督から圧倒的な支持を得るフィリップ・ガレル監督の私小説ともいえる本作は、60年代末、運命的な出逢いを果たしたヴェルヴェット・アンダーグラウンドの歌姫ニコとの愛の日々が浮き彫りにされている。同じ世界観の下で生み出された二人の芸術、そして愛…。

フランソワにフランスで活躍する作家メディ・ベラ・カセム、リュシーに新星ジュリア・フォールを迎えたみずみずしくも豊潤なモノクロームの世界。撮影はヌーヴェルヴァーグに欠かすことのできない巨匠ラウール・クタールが担当。冷たい白と、温かみのある黒の色彩が限りなく美しい、20年の構想を経て完成させたガレル監督渾身の一本。



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