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ゴダール

1930年パリ生まれ。大学中退後、建設作業員や大衆誌のゴシップ工作員などをしながらシネマテークの常連となり、50年、バザン、トリュフォー、リヴェット、ロメール、シャブロルらと知り合う。52年から「カイエ・デュ・シネマ」誌に映画評を書くようになり、59年に初の長編『勝手にしやがれ』を手掛ける。一躍ヌーヴェルヴァーグの代名詞となった。

今回上映の『男性・女性』以降、政治色を強め、67年、『ウイークエンド』を最後に商業映画との決別を宣言、80年『勝手に逃げろ/人生』で商業映画界に復帰するまで、政治的・実験的な作品の制作に取り組む。

私生活では、アンナ・カリーナ(61〜67年)、アンヌ・ヴィアゼムスキー(67〜71年)との離婚を経て、アンヌ=マリー・ミエヴィルとスイスとパリで暮らしている。

フィルモグラフィ

・コンクリート作線(1954)*短編
・コケティッシュな女(1955)*短編
・男の名前はみんなパトリックっていうの(1957)*短編/未公開
・水の話/プチ・シネマ・バザール(1958)
・シャルロットとジュール(1959)*短編
・勝手にしやがれ(1959)
・小さな兵隊(1960)
女は女である(1961)
・怠惰の罪(1961)*オムニバス『新7つの大罪』の一篇
・女と男のいる舗道(1962)
・新世界(1962)*オムニバス『ロゴパグ』の一篇)
・カラビニエ(1963)
・軽蔑(1964)
・立派な詐欺師(1964)*オムニバス『世界詐欺物語』の一篇
はなればなれに(1964)
モンパルナスとルヴァロア(1965)*『パリところどころ』の一篇
・恋人のいる時間(1964)
・アルファヴィル(1965)
・気狂いピエロ(1965)
男性・女性(1965)
・メイド・イン・USA(1967)
彼女について私が知っている二、三の事柄(1966)
・未来展望(1966)*『愛すべき女・女たち』の一篇
・カメラ・アイ(1966)*オムニバス『ベトナムから遠く離れて』の一篇
・中国女(1967)
ウイークエンド(1967)
・たのしい知識(1969)
・ワン・アメリカン・ムービー(1968)
・ワン・プラス・ワン(1968)
・ブリティッシュ・サウンズ(1969)
・プラウダ(真実)(1969)
・東風(1969)
・イタリアにおける闘争(1970)
・万事快調(1971)
・ヒア&ゼア こことよそ(1974)
・うまくいってる?(1975)
・パート2(1975)
・勝手に逃げろ/人生(1979)
・パッション(1981)
・フレディ・ビアシュへの手紙(1982)*短編
・カルメンという名の女(1982)
ゴダールのマリア(1984)
・ゴダールの探偵(1985)
・映画というささやかな商売の栄華と衰退(1986)
・右側に気をつけろ(1987)
・ゴダールのリア王(1987)
・アリア(1987)
・ゴダールの映画史 第1章 すべての歴史(1989)
・ゴダールの映画史 第2章 単独の歴史(1989)
・ヌーヴェルヴァーグ(1990)
・新ドイツ零年(1991)
・キング・オブ・アド(1991)
・ゴダールの決別(1992)
・ゴダールの決別(1993)
・JLG/自画像(1995)
・フォーエヴァー・モーツァルト(1996)
・映画史(1998)
・愛の世紀(2001)
・10ミニッツ・オールダー イデアの森(2002)
・アワーミュージック(2004)
・映画史特別編 選ばれた瞬間(2005)

ゴダールと彼の運命の女

ファム・ファタール(運命の女)。男の命運を狂わす存在として、映画、特にフィルムノワールの作品には、常にファム・ファタールの姿がありました。世界の名だたる巨匠たちの中にも、自分のファム・ファタールを見出して撮り続けてきた人はたくさんいます。アントニオーニはモニカ・ヴィッティを。フェリーニはジュリエッタ・マシーナを。ロッセリーニはイングリット・バーグマンを。

picそしてジャン=リュック・ゴダールには三人のファム・ファタールがいました。

アンナ・カリーナ、
アンヌ・ヴィアゼムスキー、
アンヌ=マリー・ミエヴィル。

これら三人の女性たちとの公私にわたる関係性は、ゴダールの作品の変容とも密接に関わっており、『メイド・イン・USA』、『未来展望』(オムニバス映画『愛すべき女・女たち』の一編)までのアンナ・カリーナ時代、『中国女』から『万事快調』までのアンヌ・ヴィアゼムスキー時代、そして『勝利まで』(未完・のちに『ヒア&ゼア こことよそ』としてまとめられた)以降のアンヌ=マリー・ミエヴィル時代、と3期に分けることができます。

picダンディズム溢れる男性がファム・ファタールに惑わされていくというノワールの系譜を新たに組み直しながら、ゴダールは何度も繰り返し繰り返しこの主題を撮り続けてきました。特に初期の作品において、その傾向は顕著に表れています。それは、ゴダール自身がファム・ファタールに魅せられていたからではないでしょうか。

今週上映の『男性・女性』は「アンナ・カリーナ時代」であった1965年、『ゴダールのマリア』は「アンヌ=マリー・ミエヴィル時代」の1984年の作品です。作品背景や時代は違えど、女性に対する彼独自の一定の眼差しを強く感じられる二作品です。


ゴダールのマリア

pic (1984年 スイス・フランス・イギリス 110分 R-15 SD/モノラル)
2010年4月10日〜4月16日

■監督・脚本 ジャン=リュック・ゴダール/アンヌ=マリー・ミエヴィル
■撮影 ジャン=ベルナール・ムヌー/カロリーヌ・シャンプティエ/ジャック・フィルマン/イヴァン・ニクラス

■出演 ブルーノ・クレメル/オーロール・クレマン/レベッカ・ハンプトン/ミリアム・ルーセル/ティエリ・ロード/フィリップ・ラスコット/ジュリエット・ビノシュ

★プリントの経年劣化により、全編に亘りノイズが生じております。上映中お聞き苦しい箇所もございますが、ご了承の上ご鑑賞いただきますよう、お願い申しあげます。
★本編はカラーです。

処女懐胎とキリストの誕生という主題を扱い、ゴダール作品の中でも異彩を放つ『ゴダールのマリア』は、アンヌ=マリー・ミエヴィルによる短編作品『マリアの本』と、ゴダールによる『こんにちは、マリア』の二本の作品を、ひとつのフィルムにつなげた作品です。

pic主人公の女性が同じマリー(英語でマリア)という名前であること以外、二つの物語に直接関連はありませんが、『こんにちは、マリア』の冒頭にある「そのころ」という字幕が、ふたつの作品を分かち難く取り結んでいます。

『マリアの本』のマリーは11歳。ある日、マリーは父が出て行くことを母から告げられますが、マリーは何の反応も見せません。両親の別居という事態に直面した11歳の少女の思春期のはじまり。繊細で見事な序章です。

そして現れる、「そのころ」という字幕。ここから『こんにちは、マリア』です。

タクシー運転手のジョゼフはジュリエットに結婚を迫られるが、ジョゼフはジュリエットの同級生のマリーに恋をしています。ある日、天使ガブリエルがマリーのところに押しかけ、マリーに近く身ごもることを告げます。

picファム・ファタールを追いかけて来たゴダールが、最も神秘的な女性の一人である“聖母マリア”にキャメラを向けた作品です。ただこの場合、ゴダールが映し出すマリーは普通の高校生で、バスケ少女。

他のゴダール作品に登場するファム・ファタール的女性と同様に、やはりここでもマリーに好意を寄せている青年ジョゼフは袖にされ続け、やっとかすかな希望が見えたところで試練が訪れます。ガブリエルのお告げどおり、マリーは処女でありながら、子を孕んでしまうのです。ジョゼフはこの事態にどのような決断を下すのでしょうか?

公開当時、欧米ではセンセーションを巻き起こした問題作ですが、ここで描かれているのは子を孕んだ女性が徐々に神聖を帯びていく過程であり、男性の逡巡と決断を丁寧に美しく描写したゴダール流の愛の物語です。

男性・女性

pic(1966年 フランス・スウェーデン 105分 SD/モノラル)
2010年4月10日〜4月16日
■監督・脚本 ジャン=リュック・ゴダール
■原作 ギ・ド・モーパッサン「ポールの彼女」「合図」
■撮影 ウィリー・クラン
■音楽 フランシス・レイ

■出演 ジャン=ピエール・レオ/シャンタル・ゴヤ/ブリジット・バルドー/フランソワーズ・アルディ/マルレーヌ・ジョベール

■1966年ベルリン国際映画祭男優賞・青少年向映画賞

pic『男性・女性』はゴダールが映し出す1965年のパリが主役と言っても過言ではないでしょう。ゴダールはこの作品を「若い人たちを使ってひとつの時代を描き出したような」映画と語っていますが、具体的には「007とベトナムの時代」に生きる「マルクスとコカコーラの申し子たち」を描いており、中絶、同性愛、異人種間の関係など、当時の社会的現象も見え隠れします。

兵役を終えたばかりのポールと、歌手として成功するマドレーヌ。2人は急速に仲良くなり、マドレーヌが友人と住む部屋にポールが転がり込んで一緒に住み始めます。やがてマドレーヌは妊娠しますが、ポールには告白する機会を得ないまま日々が過ぎていって…。

pic『男性・女性』のファム・ファタールは、当時のイエイエアイドル、シャンタル・ゴヤ。ジャン=ピエール・レオー演じるポールからのプロポーズを「急いでるからまた今度ね」なんて言葉でさらりとかわしてしまう彼女は気まぐれで、小憎たらしくて、どうしようもないほど魅力的。

ゴダールは本作以降、どんどん政治色が強まっていきますが、シネマ・ヴェリテの手法や政治色の高まりなど、「それから」のゴダールを想起させつつ、『勝手にしやがれ』や『気狂いピエロ』など、誰もが魅了された「それまで」のゴダール作品もうかがえる、まさに過渡期的な作品です。シャンタル・ゴヤの甘いフレンチ・ポップスやぶつ切りにされた音楽など見所、聞き所満載!魅力的な脱線、脱線、脱線の末に、さてポールとマドレーヌの恋の行方はいかに?


「人間は一人では生きられない。愛がなくては生きられない。愛がなかったら、死ぬしかない…」

pic私たち男性と女性は、近い存在であるはずなのに同一ではない。
一緒にいるのに、一緒にはなれない。我々は互いを理解できず、
でもその魅力には抗えず。『男性・女性』のタイトルが表すとおり、
並列関係の男性と女性を隔てている、間の「・」には、深い深い
深淵が拡がっています。

ゴダールの映し出す女性たちはみな知的でフェミニン、大人のよう
でいて子供のように曖昧で、妖しくも清々しい魅力を発しています。
映画だけに留まらず、様々な文化に影響を与えてきたジャン=
リュック・ゴダールすら、その深淵に恐怖しつつも、どうしようもなく
惹かれてしまう…。

あぁ、ファム・ファタール、ファム・ファタール、運命の女よ。どう
してそう男を狂わせるのか。

(エンシン)



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