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pic―素晴らしい人間は皆正気じゃないさ―

今週はティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』と、ヘンリー・セリック監督の『コララインとボタンの魔女』の上映となります。どちらの作品も現実から別世界へと渡った少女の冒険譚。幻想的で怪奇な世界観を描くふたりの監督は『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』をバートン原案、セリックが監督として制作したのは皆さまご存知の通り。今週はそんなふたりの監督の、可愛らしくて、コミカル、そしてちょっぴり不気味な、夢の世界に酔いしれて欲しいと思います。

「不思議の国のアリス」の変奏とも言うべき『アリス・イン・ワンダーランド』。監督は、これまで善悪、正常と狂気が入り混じった数々の異形の者や世界を描いてきたティム・バートン。そんな彼と“不思議の国”の出会いは必然だったような気もします。『シザーハンズ』以来、ティム・バートンの怪奇な作品には欠かせない俳優、ジョニー・デップ。今回も彼は不思議の国に迷い込んだアリスの道先案内人マッド・ハッターとして登場します。彼の端正な顔立ちも、ティム・バートンにかかれば、目は三倍に加工され、ぼさぼさの頭に、奇抜な化粧とファッション、そして“素敵な”笑顔をふりまく、普通じゃない人に様変わり。そんな異様な外見に加えて、ジョニー・デップ特有の、軽妙でコミカルなパントマイムは、どこか底知れぬ狂気をもたたえています。もちろん、彼の役以外にも、「首をはねよ!」が口癖で、頭の異様に大きい赤の女王や、不気味なほどそっくりで丸々と太り、互いを否定しあう双子、トウィードルダムとトウィードルディなど、不思議の国は愛すべき異形の者達に溢れています。

もう一方の『コララインとボタンの魔女』は、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』から格段に進歩したストップモーションアニメの人形の動きや表情がなんとも愛らしいです。主人公である少女コララインが夢みたもうひとつの世界。そこではコララインが望んだことが実現します。現実と似た、夢のような世界。けれど、そこに現れる人や動物たちは目がボタンです。想像力の中に食い込んだ“不気味さ”。煌々と明るく照らされた夢の国に伸びる濃い影。その影を知ったことからコララインの本当の冒険が始まります。

可愛らしさやコミカルさは、一見、不気味さや狂気とは、正反対のもののように思います。そうした相反するものが渾然と一体になって広がる想像力の地平。アリスやコララインの冒険の軌跡をたどり、“不思議なモノ”を知った(思い出した)ら、きっと誰もが“正気ではいられない”。その時、アリスが転がり落ちた“うさぎの穴”やコララインの開いた“ドア”を、私たちも見つけることが出来るのではないでしょうか? (ミスター)


コララインとボタンの魔女(2D・字幕)
CORALINE
(2009年 アメリカ 100分 ビスタ/SRD) 2010年9月18日から9月24日まで上映 ■監督・脚本 ヘンリー・セリック
■原作 ニール・ゲイマン『コララインとボタンの魔女』(角川書店刊)
■撮影 ピート・コザチク
■音楽 ブリュノ・クーレ
■コンセプトアート 上杉忠弘

■声の出演 ダコタ・ファニング/テリー・ハッチャー/ジョン・ホッジマン/イアン・マクシェーン/ドーン・フレンチ/ジェニファー・ソーンダース/キース・デヴィッド/ロバート・ベイリー・Jr

扉のむこうは理想の世界。
でも気をつけて。かなえてはいけない願い事がある。

主人公の少女コララインは、引越してきたばかりの家で、封印された小さなドアを見つける。それは、驚くべき“もうひとつの世界”への入り口だった。扉の向こうでコララインを待っていたのは、心躍るサーカスやミュージカル、花が咲き誇る美しい庭、そして優しくて、コララインの願いをなんでも聞いてくれる“別の”パパとママ。ただひとつ奇妙なのは、パパもママも、目がボタン…。

「こっちの世界のほうが、全然素敵!」楽しくて、夜ごとドアを開けるコラライン。しかし、ある日本物の両親が消えてしまった。すべてはワナだと気付いた時、恐るべき冒険がはじまる――。

世界を虜にした『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の監督が、
アニメーション映画の未来を切り開く!

世界中で愛されるアニメーションの傑作『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の監督ヘンリー・セリックが、構想5年、撮影4年の月日をかけ、ついにアニメーションの未来を開いた。ドアの向こうに広がる危険かつ魅惑的なパラレルワールドを描くには、1コマ1コマ人形やセットを動かして撮影するストップモーションアニメしかないと決意したセリックは、さらにそれをフル・デジタル化するという初めての試みに挑んだ。最先端のクリエーターたちと技術によって生み出された本作は、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』と比較しても圧倒的な進歩を遂げている。『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の主人公ジャックの表情が15通りだったのに対し、本作ではなんと20万通り以上の表情で、登場人物たちの微妙な表情の機微を表現。

キャラクターとセットのデザインを手がけたのは、日本人イラストレーターでデザイナーの上杉忠弘。監督のイメージを形にする、本作の肝となる重要な部分だ。驚くべきイマジネーション、手作りのアニメーション、最先端の技術と才能が結合して生まれた夢の世界が、ドアの向こうであなたを待っている――。


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アリス・イン・ワンダーランド(2D・字幕)
ALICE IN WONDERLAND
(2010年 アメリカ 108分 ビスタ/SRD) 2010年9月18日から9月24日まで上映 ■監督 ティム・バートン
■原作 ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』/『鏡の国のアリス』
■脚本 リンダ・ウールヴァートン
■撮影 ダリウス・ウォルスキー
■音楽 ダニー・エルフマン
■衣装 コリーン・アトウッド
■視覚効果スーパーバイザー ケン・ラルストン

■出演 ミア・ワシコウスカ/ジョニー・デップ/ヘレナ・ボナム=カーター/アン・ハサウェイ/クリスピン・グローヴァー/マット・ルーカス

アリス、戦う――
ワンダーランドの運命を賭けて。

pic美しく成長した19歳のアリス・キングレーは、ある日、チョッキを着た不思議な白ウサギを追いかけているうちに、誤ってウサギの穴に落ちてしまう。その地下に広がっていたのは、アンダーランドと呼ばれる不思議な国(ワンダーランド)。しかし、何故かこの世界に住む奇妙な住人たちは、皆アリスのことを知っていた。実は、そこはかつて幼いアリスが訪れたことがあり、彼女自身は夢だと思っていた世界だったのだ。しかも、この国の年代記には、アリスという救世主が訪れると預言されていた。

残忍な赤の女王の恐怖政治に苦しむ人々にとって、アリス=救世主の出現だけが残された希望だった。かつてアンダーランドを支配していた美しく慈悲深い白の女王は、アリスの力を借りて王座を奪回する日を心待ちにしていた。そして、誰よりもアリスを待ちわびていたのは、赤の女王への復讐を誓うマッドハッターだった。「おかえり、アリス!」

140年の時を経て、アリス伝説再び!
世界はもう、マトモではいられない…

ルイス・キャロルのあまりにも有名なファンタジー小説『不思議の国のアリス』、そして『鏡の国のアリス』。誕生から140年を経て今も愛される物語に、鬼才ティム・バートン監督が独自のオマージュを捧げ、まったく新しい“アリスのその後の世界”を描いているのが、本作『アリス・イン・ワンダーランド』。マッドハッターにジョニー・デップ、赤の女王にヘレナ・ボナム=カーター、白の女王にアン・ハサウェイ、そして主人公のアリスには、映画デビュー2年目にして大抜擢されたミア・ワシコウスカ。見事にハマった豪華キャストが、不思議な国に新しい命を吹き込んだ。また、本作の世界観に大きな影響を及ぼしているのが、『シカゴ』『SAYURI』で2度のアカデミー賞に輝くデザイナー、コリーン・アトウッドによる衣装の数々。細部へのこだわりと芸術性を兼ね備えたそれらは、キャラクターそれぞれの個性を雄弁に物語っている。



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