toppic

オリヴィエ・アサイヤス

オリヴィエ・アサイヤス

1970年代に「カイエ・デュ・シネマ」誌で映画批評を書き、のちに映画監督となる。『ランデヴー』、『夜を殺した女』(日本未公開)など、アンドレ・テシネ作品で脚本の腕を磨き、『無秩序』(日本未公開)で長編デビュー。その後も意欲的に作品を発表し、1996年には香港スターだったマギー・チャンを起用して伝説のカルトムービー『イルマ・ヴェップ』を撮影し話題となる。

『クリーン』では『イルマ・ヴェップ』に続き、元パートナーであるマギー・チャンが再び主演を務め、カンヌ国際映画祭女優賞を受賞する。2009年には東京日仏学院にて未公開作を含むレトロスペクティヴが開催され、オルセー美術館20周年企画で製作された新作『夏時間の庭』と、音楽ドキュメンタリー『NOISE』も劇場公開された。

フィルモグラフィ

※日本公開作品のみ

・ランデヴー('85/脚本)
・パリ・セヴェイユ('91/監督・脚本)
・イルマ・ヴェップ('96/監督・脚本)
・HHH:侯孝賢('97/監督)
・溺れゆく女('98/脚本)
・DEMONLOVER デーモンラヴァー('02/監督・脚本)
クリーン('04/監督・脚本)
・NOISE('06/監督・撮影)
パリ、ジュテーム('06/監督・脚本)
・それぞれのシネマ 〜カンヌ国際映画祭60回記念製作映画〜('07/監督)
夏時間の庭('08/監督・脚本)

先日10数年ぶりに会った友人に、「あの頃と全然変わってないな」と言われる機会がありました。それは、何一つ変わることの出来なかったことに対する呆れと、同時に変わらずに居られたことに対する少しの羨みの、ないまぜになった言葉でした。

変われること。変わらずにいられること。変わってしまうこと。今週お届けするのはフランスを代表する映像作家オリヴィエ・アサイヤス監督によるそうした“変化”が物語の中心に据えられた二つの作品です。『クリーン』では、夫の死により母親が子供とそして自分の生活と向き合うことになり、『夏時間の庭』では、母の死が残された子供や孫たちに大きな変化の決断を迫ります。そのなかで変わらずにいたい家族との絆、自身の夢。であるならば、自分に出来ることとは?

pic

“過去と他人は変えられない。自分と未来は変えられる。”これは、交流分析の創始者として知られる精神科医エリック・バーンの言葉ですが、『クリーン』の主人公マギー・チャン演じるエミリーは、ロックスターの夫を亡くし、一人息子の養育権も奪われ、家も仕事も失い、さらに抜け出せない自らのドラッグ依存と、これまでの自堕落な過去によって追い打ちをかけるようにどん底に落とされながらも、「わたしは必ず変われる」という言葉を繰り返しつぶやき、そこからもう一度始めようとします。

『夏時間の庭』でエディット・スコブ演じる年老いた母エレーヌは、「私の思い出は私と一緒に消えて行くのよ」とつぶやきます。たしかに思い出の舞台であった形あるものはいつか失われ、季節は常に移りゆき、人の命には必ず終りがあります。いつだって時代は変わります。そんな変わっていってしまうものばかりに囲まれた我々の生活。そうした中でも人々の間に受け継がれていき、変わらないものとは何か。

アサイヤス監督にとっても、『イルマ・ヴェップ』で出逢い3年間夫婦として過ごしたマギー・チャンとの離婚間際に制作がスタートしたのが『クリーン』であり、父親を亡くし母親の死期が迫る中で脚本執筆されたのが『夏時間の庭』であったように、自らの家族を取り巻く変化を受け止めながら作り上げられた作品であったことも、この2作品をより特別なものにしているように思えます。

両作品ともに3世代に渡る家族を物語の主軸にしながらも、全く違った視点から描かれた今回の2本立て。オリヴィエ・アサイヤス監督の描く変わるものと変わらざるもの。どうぞ併せてご覧くださいませ。

(いっきゅう)


夏時間の庭
L'HEURE D'ETE
(2008年 フランス 102分 ビスタ/SRD  PG-12 2010年7月3日から7月9日まで上映
■監督・脚本 オリヴィエ・アサイヤス
■撮影 エリック・ゴーティエ

■出演  ジュリエット・ビノシュ /シャルル・ベルリング/ジェレミー・レニエ/エディット・スコブ

■全米批評家協会賞外国語映画賞/NY批評家協会賞外国映画賞/LA批評家協会賞外国映画賞

誰にでも、思い出が輝く場所がある。
変化の時代に生きる、現代人の心にじんわり染み入る感動作。

picパリから50分程の小さな町にある一軒の邸宅。広大な庭には小鳥のさえずりと、子供たちのはしゃぐ声が響いている。この家は、名のある画家であった大叔父が生前使っていたアトリエだ。そこにひとり住む母の誕生日を祝うため、三人の子供たちとその家族が集まっている。経済学者の長男フレデリック。デザイナーで世界中を飛び回っている長女アドリエンヌ。中国で仕事をしている次男ジェレミー。今はそれぞれ別の場所で暮らす彼らが集まるのは久しぶりだ。

楽しい時間にも関わらず、母はしきりに美術品の行く末を気にかけていた。壁に飾ったルドンの絵、ブラックモンの花器などの美術品コレクションを説明し、大叔父のデッサン集を取り出して「絶対にバラバラにしないで」と念を押した。慌しく帰りを急ぐ子供たちを見送る母。そのうしろ姿はどこか寂しげで、夕暮れ時の悲愴が庭を染めていた。「私の思い出は私と一緒に消えて行くのよ」…。 それから一年後、母の死は突然訪れた―。

映画を彩る、本物の美術品の数々と
画家たちが愛した自然の美しさ。

picオルセー美術館20周年企画として全面協力の下に製作され話題となった本作に登場する美術品は、絵画を除いたすべてが本物。画面のあちこちに登場する美術品の数々が重要な役割を担い、時代の流れや世代交代を象徴し、時に的確に映し出す。フランス随一の印象派銅版画家フェリックス・ブラックモンの花器には、庭で摘んだ花が活けられ、観賞用ではなく、日常的に使われているという設定の美術品の数々を堪能できる。

また、映画の舞台となるのは、印象派が愛してやまなかったパリ郊外の町、イル・ド・フランス。降り注ぐ夏の陽光、夕暮れ時の光と影の中で、美しいアトリエと広大な庭が映画のもうひとつの主役として輝きを放っている。


このページのトップへ
line

クリーン
CLEAN
(2004年 フランス/イギリス/カナダ 111分 シネスコ/SRD)pic
2010年7月3日から7月9日まで上映
■監督・脚本 オリヴィエ・アサイヤス
■撮影 エリック・ゴーティエ
■編集 リュック・バルニエ
■音楽 ブライアン・イーノ/デヴィッド・ローバック/トリッキー

■出演 マギー・チャン/ニック・ノルティ/ベアトリス・ダル/ジャンヌ・バリバール/ジェームズ・デニス

■カンヌ国際映画祭女優賞(マギー・チャン)

そして、大切なものを思い出した。
大きな感動を呼んだ『夏時間の庭』の
オリヴィエ・アサイヤス監督最高傑作!

picロックスターとして名を馳せてきたリーと、その妻で歌手として成功することを夢見るエミリー。彼らの間にはジェイという幼い息子がいたが、今はリーの両親に育てられていた。ある日、エミリーはドラッグの過剰摂取により死んでいるリーの姿を発見する。一部の友人とリーの母親は、事故を防げなかったエミリーを責めた。

6ヶ月後、エミリーはもう一度全てをやりなおそうと決意した。だが、遠くへ逝ってしまった愛する人の残像、引き裂かれたプライド、捨てきれない歌手の夢…様々な想いが交錯する。

そんな中、エミリーはたった2日だけ、息子とのデートを楽しむ機会を得る。しかし数年ぶりに再会したふたりは、距離が縮まった途端、思いがけず衝突してしまうのだった。「僕はママを愛してないし、愛されてもいないんだ」…格好悪くてもいい。絶望から必死に這い上がり、もう一度「ふたり」のためにやりなおしたい。これは、いつか息子と暮らせる日が来ると信じ続けた母と、幼いながらも母と向き合おうとした息子の、再生の物語。

失った絆を取り戻すため、生まれ変わることを誓った母。
マギー・チャン、全会一致でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞!

pic「夫婦の関係は終わりを告げても、映画監督と女優の信頼関係は変わらない。」と語るマギー・チャン。元パートナーのオリヴィエ・アサイヤス監督と『イルマ・ヴェップ』以来のタッグを組み、その変わらない信頼が、カンヌ国際映画祭で審査員全員の支持を得ての主演女優賞受賞と最高の結果へと結実させた本作。ジャッキー・チェンやウォン・カーウァイ作品で世界中の賞賛を浴び続けてきたアジアのミューズ、マギー・チャンが、英語、フランス語、中国語の3カ国語を完璧に操り、新たな境地を魅せる。



このページのトップへ