●内容が画期的。この作品はコメディです。といっても日本映画お得意の人情喜劇でもなかれば、作り手だけが楽しんでいる「悪ふざけ」的な作品でもありません。思いっきり笑えて、そして最後は暖かい気分になれる、ハートウォーミングなシチュエーションコメディ。こんな喜劇が今までこの国にあったでしょうか。

●原作が画期的。この映画の原作は舞台劇が基になっています。舞台版「ラヂオの時間」は、劇団「東京サンシャインボーイズ」が93年に上演し、好評を博しました。全編がラジオ局の中で展開される密室コメディ。だからドラマに緊迫感があります。今回は、映画用に全編を書き替え、よりスリリングな展開になっています。

●脚本が画期的。書いたのは私です。この作品には従来の日本映画にはない「あっと驚くスピード感」があります。シナリオは、常識的に考えると二時間半の大作になる分量でしたが、完成した映画はなんと1時間43分。しかも台詞は一行もカットしていません。それだけ考えても、いかにこの作品が早いテンポで展開するかお分かり頂けるでしょう。ドラマは一度もたるむことなく、状況は猫の目のようにめまぐるしく変わり、登場人物は猛烈な勢いで喋りまくります。

●キャストが画期的。主人公のやる気ないディレクターに唐沢寿明。その上司で調子いいプロデューサーに西村雅彦。そして自分の脚本が採用され、ラジオ局に見学に訪れた主婦作家に鈴木京香。この三人を中心に、井上順、布施明、藤村俊二といったバラエティ畑の面々から、細川俊之、渡辺謙、小野武彦、梅野泰靖といったベテラン陣、そして梶原善、近藤芳正、田口浩正といった若手に加えて、「アンパンマン」の声でお馴染みの戸田恵子に「クロレッツ」の奥貫薫と、まさにこの映画でしか考えられない豪華な組み合わせ。それは、まるで「夜のヒットスタジオ」と「NHK大河ドラマ」と「東京サンシャインボーイズ」を一度に目にするような、そんな錯覚を観る者に与えます。そしてその一人一人が、舞台出身の監督による細やかな演技指導によって、特筆すべき名演技を披露しているのです。

●そしてなによりこの映画が画期的なのは、監督しているのが私ということでしょう。初めての映画なんですけど気負ってもしょうがないので、娯楽作品であることを心がけました。その結果、カンヌやベネチアからもっとも遠い感じの作品に仕上がりましたが、でも意外にハリウッドは近かったりする、そんな傑作です。

●と、監督自らがそこまで言い切ってしまうこの文章が、もしかしたらいちばん画期的だったりするのかも知れません。

三谷幸喜が『ラヂオの時間』を発表したのは1997年秋。「古畑任三郎」「王様のレストラン」「合い言葉は勇気」などのテレビドラマ、「君となら」「笑の大学」「オケピ!」などの舞台の脚本家として知られている三谷幸喜ですが、初監督作品「ラヂオの時間」では、日本国内のほとんどの映画賞を総なめにするだけでなく、ベルリン、トロント等の映画祭からも招待を受け、各国の観客を感動と笑いの渦に巻き込む華やかな映画監督デビューを飾りました。


(C)1997 フジテレビ 東宝

ラヂオの時間
(1997年 日本 103分)

■脚本と監督 三谷幸喜
■原作 三谷幸喜と東京サンシャインボーイズ

■出演 唐沢寿明 / 鈴木京香 / 西村雅彦 /戸田恵子 /井上順/ 梶原善 / 並木史朗

<宣伝用チラシより抜粋>